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【連載】栄養療法のチカラ

グルタミンによる周術期合併症軽減の取組み―栄養素の域を超え、グルタミンの特性を利用して―②

解説 太田 哲生(おおた てつお)

金沢大学消化器・腫瘍・再生外科 教授

Np 216007 icon

周術期の合併症軽減を目的としたグルタミン強化療法は、そのエビデンスが確立されないままでした。しかし、我々はグルタミンの特性を知り、経口摂取でありながらも施行する周術期『グルタミン+BCAA療法』では、術後の合併症を減少させ、また化学療法による筋肉減少対策ともなる、安全で質の高い医療を提供することが可能となりました。


周術期(侵襲時)の『BCAA-グルタミン代謝』を基軸とした、臓器間ネットワークの利用

BCAA・グルタミンは、細胞内シグナル伝達物質に作用する

骨格筋で生成されたグルタミンは、各臓器の修復・再生の際の細胞内シグナル伝達物質として作用するという、栄養素としてのアミノ酸を超えた重要な役割を担っています。

細胞内のBCAAはシグナル伝達物質として作用し、特にmTORC1という代謝関連の分子を活性化し、細胞のタンパク合成を促進させ組織の修復・再生を図る作用があります。

一方、グルタミンはmTORC1と逆の作用を有するmTORC2を活性化し、特に侵襲時には細胞内に抗アポトーシスとしてのストレス耐性・生存シグナルを誘導します。

このように侵襲時の身体の中では、骨格筋のBCAAとグルタミンは使い分けられ、臓器の恒常性が保たれています。この特性を『グルタミン+BCAA療法』で利用し、小腸以外にグルタミンを十分量届けるために、グルタミンとBCAAの代謝を基軸とする臓器間ネットワークを活用することに着目しました(図1)。

図1 骨格筋での“BCAA・Glutamine”代謝を基軸とする臓器間ネットワークを応用した周術期管理 図1 骨格筋での“BCAA・Glutamine”代謝を基軸とする臓器間ネットワークを応用した周術期管理

周術期の『グルタミン+BCAA療法』の取り組み

小腸に十分量のグルタミンを届け、小腸の健全性を保ちながら血中のグルタミン濃度を上げ、そして標的臓器にグルタミンを届ける『グルタミン+BCAA療法』をご紹介します。

術前管理

手術待機期間中にできるだけ丈夫な腸にするために、まず十分量のグルタミンを腸に届け、加えて腸内細菌叢を整え、その弱酸性環境を強化します(図2)。そのためには

  1. グルタミン含有量の多い健康食品の投与
  2. プロバイオティクスとして、乳酸菌飲料と酪酸菌製剤の投与
  3. プレバイオティクスとして、水溶性ファイバーやオリゴ糖などの投与

を実施します。

図2 周術期(侵襲時)管理 図2 周術期(侵襲時)管理

当院では食品を使用する費用は患者さんに負担して頂いていますが、医師がその必要性を丁寧に説明することで、ほとんどの患者さんにご理解を頂いています。

乳酸菌に加え酪酸菌を重視する理由は、主に酪酸菌から産生される酪酸は大腸粘膜の重要なエネルギー源であるだけでなく、そのヒストン・デアセチラーゼ阻害作用(HDAC阻害作用 )で大腸粘膜の癌化を阻止する抗がん剤としての作用を期待します。さらには、腸粘膜の調節性Tリンパ球の活性を促すという、腸内に必要な免疫寛容状態の維持にも欠かせない重要な働きも期待できます。

  1. 運動療法

術前の運動療法として、ウォーキングなどの有酸素運動だけでなく、理想的には少し負荷をかける程度のレジスタンス運動をおこないます。術後に積極的に投与するBCAAが、骨格筋でスムーズに効率よく代謝されるためには、骨格筋のミトコンドリア機能を活性化させておく必要があるからです。

術中

  1. BCAA製剤

BCAAを含有するアミノ酸液輸液製剤は、麻酔開始時から積極的に投与します。麻酔開始時からBCAAを含有するアミノ酸液輸液を投与することについては、低体温防止にもなり、当院の麻酔科の医師も積極的に使用しています。

術後

術直後も引き続きBCAAを含有するアミノ酸輸液を投与します。

また、従来使用していた下痢を惹起する免疫抑制剤を術後一定期間に使用しないことで、サイトメガロウイルスやヘルペスウイルスの感染が減ったことを血液検査で確認できました。

術前から行っている丈夫な腸作り(グルタミン強化、シンバイオティクス)に加え、骨格筋でのグルタミン産生を高めるためにBCAAを経静脈的に投与しますが、術前から行っていた運動療法はここでも威力を発揮します。

次のページでは「症例」を紹介します。

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