【連載】看護に役立つ生理学

第30回 静止膜電位はカリウムの平衡電位に近い

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

興奮していないときの膜電位はどうなっている?

前回は、活動電位を「普段の状態からの電位差の変化」と考え、興奮していないとき(静止時)の膜電位には触れずに説明してきました。

実は、静止時の膜の内外の電位差はゼロではありません。既に述べたように、細胞内のNaイオンは細胞外よりはるかに低濃度ですが、だから膜内の電位のほうが低い、などと考えてはいけません。

体液にはNaの他にも多種多様のイオンがあり、すべての陽イオンと陰イオンを勘定に入れれば、細胞の内外はともに電気的にほぼ中性です。

ただ、この「トータルで見た電荷の分布」が、膜のごく近くでわずかに偏っているために、膜をはさんで電位差が生じるのです。では、静止時の膜電位は実際にどうなっているのでしょうか?

平衡電位という概念

これを考えるために、Na の濃度勾配を再び考えてみましょう。静止時のNa チャネルの透過性はきわめて小さいとはいえ、まったくゼロというわけではありませんから、長い時間をかければ次第にNaが流入してしまいます。

これを食い止めるためには、静止時の膜電位はどちらが高いほうが好都合でしょうか。

少し考えるとわかるように、膜内を正電荷優位にして電位を高くしておけば、流入しようとするNaイオンを反発力で跳ね返すことができます。

このように、与えられた濃度勾配のイオンが流入/流出するのを食い止めるためにちょうど釣り合うような電位差のことを、「平衡電位」と呼びます。

Naイオンの場合、膜内が膜外より40mV程度高ければ釣り合うことがわかっており、これを「(この濃度比のNaに対する)平衡電位は+40mVである」と表現します。

このように、膜電位は細胞外を基準とした細胞内の電位(内-外)で表記するのが慣例です。

Naだけに注目するなら、静止膜電位はその平衡電位(+40mV)と等しければ良いはずですが、他のイオンの都合も考えねばなりません。

膜電位に影響を及ぼす主要なイオンのひとつがKで、やはり陽イオンですが、Naとは反対に細胞内濃度のほうが高くなっています。

この流出を食い止めるためには、膜電位はー90mV程度になっている必要があります。

実際の静止膜電位は?

結局、すべてのイオンの移動を食い止められるような電位など存在しないわけですが、実際の膜電位はKの平衡電位に近い-70mV程度となっています。

これは、静止時のNaチャネルの透過性よりも、Kチャネルの透過性のほうがずっと大きいためです。

この膜電位は、Kの平衡電位に近いとはいえ少しだけ深さが足りないため、Kを完全に細胞内に引き止めておくことはできず、透過性の大きなチャネルから実際に流出が起こっています。

一方、Naにとっては流入を食い止めるどころか、逆に助長してしまうような激しい電位差ですが、一方でチャネルの透過性は小さく、その流入がK の流出とおよそ釣り合っているのです。

このように静止膜電位においては、電荷の出入りを釣り合わせることはできても、それを担うイオンの種類は膜の内外で変化せざるを得ません。

これを打ち消すには、細胞内に侵入したNaを外に汲み出し、同時に細胞外に漏れたKを内に運び込む必要があります。

それを担っているのがNa-Kポンプと呼ばれるもので、チャネルとは異なり、エネルギー(ATP)を消費してイオンの能動輸送を実現しています。

静止状態の細胞膜の内外では、おおむね上に述べたようなイオンの動きが起こっているのです。

さらにワンポイント

心電図は心臓をはさんだ、細胞外同士の2点間の電位差を記録している

活動電位の基本知識を使って、前回冒頭に示した「心電計は何を記録しているのか」という問題を考えてみましょう。

心電計は活動電位を直接記録しているのかというと、そうではありません。

そんなことを(素朴な方法で)実現しようと思えば、電極のひとつを心筋細胞内に刺し入れる必要があります。

通常の心電計の電極は体表に接触しており、これは細胞外に接続されているとみなすことができます。

そして、心電図として記録されているのは「心臓をはさんだ、細胞外同士の2点間」の電位差です。

これでどんな情報が得られるのでしょうか? 話を単純にするために、下図のように活動電位が左端Aから右端Bに向かって直線状に伝導したとき、AB間の細胞外同士の電位差がどうなるか、考えてみましょう。

Aにおいて正電荷が細胞外から細胞内に流入したとき、膜外を基準とした膜内の電位が普段よりも高くなります。

これは、膜内を基準とした膜外の電位が普段よりも低くなる、と言い換えても同じことです。

重要な点は、このとき「Aにおける膜外電位は、まだ興奮していないBの膜外を基準に考えても、やはり下降している」ということです。これを踏まえれば、AB間の膜外同士の電位差(Bの膜外電位- Aの膜外電位)が、下図の右端に示したように変化することが理解できるでしょう。

興奮の伝導にともなう細胞外同士の電位差の変化説明図

図 興奮の伝導にともなう細胞外同士の電位差の変化

すなわち、どこも興奮していない初期状態では電位差はゼロですが、Aが興奮し始めることによってその膜外電位が沈み込み、電位差はプラス(陽性)のほうに開いてゆきます。

やがて興奮がBに到達し、B自身の膜外電位が低下し始めると、今度は電位差が縮まってゼロに近づきます。

すべての場所が興奮した状態に至ると、電位差は再びゼロになり、どこも興奮していない状態と区別がつかなくなります。

上図の後半では、今度はAからBに向かって興奮状態から復帰してゆく様子を示しましたので、電位差が図のように変化することを納得してみてください。

興奮と回復、どちらも陽性の電位差を示す

興奮にせよ回復にせよ、もしも上とは逆にBからAのほうに進んだ場合には電位差の符号が反転しますので、例えば「興奮がAからBに進んだとき」と「回復がBからAに進んだとき」とでは、両方とも陽性の電位差を示すことになり、どちらが起こっているのか判別できません。

この特性を念頭に置いて、典型的な心電図(ここではII誘導を例にとる)を眺めてみましょう(下図)。

鋭いQRS波は心室筋の興奮を表していますが、T波との間に、基線に近い電位差を示している期間があります(★)。

これは、心室筋の興奮(QRS波)が全体に行き渡った後、まだ興奮から回復していない期間を表しています。

やがて回復が始まったことを示すのがT波ですが、図ではR波と同じように陽性波を呈しています。これは、心室筋の興奮の進む方向と回復の進む方向が逆であるためだと考えられています。

心室筋の興奮・回復を反映する心電図波形

図 心室筋の興奮・回復を反映する心電図波形

※次回は、「脂質 LDL・HDLと動脈硬化」について解説します。

(『ナース専科マガジン』2013年4月号より転載)

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