【連載】“何かヘンだ”がわかる! 急変前に気づく五感アセスメント

第19回 自覚症状で捉える“何かヘンだ”―急性の「気分不快」

解説 佐仲 雅樹(さなか まさき)

津田沼中央総合病院内科/東邦大学医療センター大森病院総合診療・救急医学講座 客員講師/城西国際大学薬学部 客員教授

はっきりとした予兆もなく、患者さんが急変したり、重篤な疾患が進行していたりする経験があると思います。そのような急変に先立って、先輩の看護師や医師から「あの患者、何かヘンだよね」という直感的な台詞を聞いたことがあるかもしれません。

この連載では、急変前の「何かヘン」と感じる患者への直感的な違和感について解説し、急変を見抜く力を養います。


自覚症状は看護師の「五感」で察知するわけではありません。しかし、なかには “何かヘンだ”と、看護師の直感を刺激する患者さんの訴えがあります。それが急性の気分不快、すなわち“気分が悪い”や“気持ちが悪い”です。実は、気分不快は「生き残りシステム」と深い関連があります。

「生き残りシステム」と自覚症状

生命の危機に対して「生き残りシステム」は活性化します。自分の意思に関係なく自動的に「身体」が反応するのですが、多くの場合、活性化していることを「心」が自覚(経験/体験)します。これが「不快感」です。ただし、自覚の程度には個人差があります。

そもそも「自覚症状」とはどのようなものでしょうか?例として、よくある症状の定義を以下に挙げてみます。

  1. 「痛み」:実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験(国際疼痛学会)
  2. 「呼吸困難」:さまざまな強さの質的に異なる感覚からなる、呼吸が不快だという主体的な体験(アメリカ胸部疾患学会)
  3. 「悪心」:上腹部から咽頭にかけて感じられる、今にも嘔吐しそうな不快感(杉本恒明(編):内科鑑別診断学. 朝倉書店, 東京, 2003)

つまり、自覚症状=「不快感」+「何らかの身体感覚」 です。

「感覚」を言葉で表現するには学習が必要です。例えば、私たちは子供のころに手足の軽いケガや急性胃腸炎を繰り返し、そのときの嫌な感覚が「痛い」と表現されることを、周囲の大人に教えられて学習してきました。だからこそ、「お馴染み」のケガや腹痛を「痛い」と表現できるようになるのです。

一方で、生命に関わる重症疾患は、多くの患者さんが初めて経験するものです。したがって、このときの感覚をうまく表現できず、単に“気分が悪い”とか“気持ちが悪い”としか言えないことがあります。急性心筋梗塞の患者さんは、「胸痛」ではなく、しばしば“胸のあたりが気持ち悪い”、“すごく気分が悪い”などと訴えます。

「生き残りシステム」の活性化を自覚すると“気分が悪い”

「感覚」の表現は学習ですが、「不快感」を実感するのは本能(「生き残りシステム」の活性化)です。「生き残りシステム」が活性化するのは、強い有害刺激が発生して、その結果ホメオスタシスが乱れたときです(全身状態の悪化)。「生き残りシステム」の活性が上がるほど、「身体」による「お決まりの抵抗手段」が強くなり、さらに体調や気分の不調として「心」に自覚される「不快感」が強くなります。

「生き残りシステム」の活性化

不快感の程度が強いほど危険なのです。「不快感」の怖いところは、「言葉で表現できない」ところです。つまり、これまで経験したことのない感覚なのです(重症かもしれない!)。みなさんにも、それまで何ともなかった患者さんが、急に「気分が悪い」、あるいは「体調が悪い」と言った後に急変した経験があると思います。

高名な脳神経学者のアントニオ・ダマシオは、「(ホメオスタシスの)最適な範囲は意識ある心に対し、快適な気持ちとして表現される。そして、(ホメオスタシスの)危険な範囲は、あまり快くない、ひょっとして痛々しい気持ちとして表現されるのだ」と言っています(『自己が心にやってくる:意識ある脳の構築』早川書房,2013年)。

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