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【連載】Dr.パクのドタバタ離島医療奮闘記

第10回 離島や地方の医療は遅れているか?-遠隔医療の実際

執筆 朴 大昊(ぱく てほ)

鳥取大学医学部地域医療学講座 助教

Np drpaku pic

看護師は夜勤のラウンドや訪問看護など、患者さんの健康状態を確認する機会が多くありますが、患者状態を適切に判断するためには、プライマリ・ケアの技術が大いに役立ちます。

本連載では、拠点病院などによる後方支援を期待できない土地で、医療・検査機器などもない患者宅で医療を提供する「へき地医療」を通じ、“究極のプライマリ・ケア”と地域医療の実際を解説します。


地方や離島での医療は“遅れている”!?

孤独な離島で診療していると、よく、“最先端の医学から遅れる”と指摘されることがあります。実はここにも大きな誤解があるように思います。

確かに離島では、医学を学ぶ上で不足を感じる時もあります。それは何と言っても先輩の経験をベースにした医療が学べないという点です。特に様々な手技は見たこと、やったことがなければ、島で教科書を読んでもなかなか一人で実施することはできませんでした。

島に赴任する前によく「お前のレベルが島の医療レベル」と言われたものですが、まさにその通りでした。自分がその手技をできないならば、島では誰も治療できず、中核離島に紹介するしかないのです。

最寄りの石垣島に紹介したとしても患者さんの日帰りは困難でした。もし脱臼の整復ができなければ、もし縫合ができなければ、もしあなたが頭痛の原因がわからなければ、腹痛の診断ができなのならば、数千円の交通費と宿泊代、付き添い家族の仕事まで犠牲にして中核離島に行ってもらわなければなりません。

私ではなく別の医師だったら島で見ることができたかもしれない、そういうプレッシャーと常に戦っています。

都会でないところで医療を行なうメリット

もちろん離島では常に自分が対応しなければならず、石垣や那覇、東京に自由に遊びに行けません。

しかし、その分、島の中にいる時間が長く、日々の臨床的疑問と向き合う時間も多いのです。「あれ、爪白癬の治療はどうするんだっけ?」「がん検診の科学的な根拠は?」「この骨折固定はどうやって?」などの医学的な疑問だけでなく、「動機付け面接法とは?」とか「肩こりに関連する社会的な要因とは?」など様々な疑問が湧いてきます。

それらの疑問の多くはすでに先人が研究としてまとめていることが多く、離島勤務期間中を通じて、教科書や論文はこれまでにないくらいたくさん読むことができました。むしろ日々の臨床や様々なことに時間がかかる都会での生活に比べ、最新の研究成果を把握し、目の前の患者に吟味した上で活かすのに適した環境と言えます。

意外と“最先端の病院”でも忙しい毎日の中で情報のアップデートが遅れ、気がつけば診療が“昔ながらの方法”になっている人もいるのではないでしょうか。

私自身、非常に忙しい研修の時には、外界の情報がシャットアウトされていたようで、横浜ベイスターズが横浜DNAになってことを知るのに3年を要しました。

離島における“最先端”の医療

さらに現代の島医者は進化し続けています。

例えば、沖縄の離島は遠隔サポート体制も整っていました。

沖縄県独自のプログラム「first class」(図1)ではヘリ搬送症例や日々の臨床上の疑問、相談、専門家へのコンサルト症例が10年分以上蓄積されており、今もヘリ搬送のフィードバックや専門家への相談に迅速な対応が取られています。

図1 first classの画面 図1 first classの画面

特に相談が多いのは整形外科や皮膚科ですが、写真付きで離島医師が相談すると、沖縄県立中部病院の専門医が回診後にチェックし、速やかに返事をくれるという仕組みです。骨折の固定期間やフォローの仕方、皮膚のケアの仕方、軟膏処方などについて、患者さんを搬送する手前で相談できるのです。

またオンライン会議は石垣島と周辺離島による病診連携会議、他の島の同僚たちと振り返り会議、臨床研究の相談などに加え、沖縄県立中部病院で毎日開催されているコアレクチャー(図2)も日々配信されていました。

図2 コアレクチャーの一コマ 図2 コアレクチャーの一コマ

最近ではfacebook上でも、離島医師同士のグループが複数あって、様々な学びのシェアや悩みの相談を匿名化された情報に限り行われています(図3)。

図3 facebookでの最近の相談 図3 facebookでの最近の相談

沖縄県立中部病院同様の文献のアクセス環境にあったので、メジャーな論文はもちろん、波照間島で読むことのできない論文は依頼をすれば沖縄県立中部病院で手に入れ次第、メールで送っていただけました。

非常に多くのコンテンツに囲まれており、情報がない、などということはありません。実は大学病院並み、いやもしかするとそれ以上に最新の医学を学ぶ自学の時間は多かったと言えるかもしれません。

さらに言うならば、そもそも最先端の医学とは何であるか、という問い自体、考えてみる必要があります。

ロボット手術やカテーテルによる高度な治療は確かに最先端の医療と言えるでしょう。では、波照間島にカテーテル治療ができる環境があれば最先端でしょうか?

結局ロボットやカテーテルは“その分野において”最先端というだけかもしれません。外科、内科など多くの専門分野がある中で、家庭医療あるいは島医者にとっての最先端は波照間島にありました。

私は、こんなに近くに様々な職種、強みを持った人たちがいて、強い絆で協力し合う地域の人々もいるこの波照間島ほど地域医療の進んだところはないのではないかと感じています。

都会に戻ってみて・・・

波照間島を出て今年、ふらふらするという患者さんに出会いました。

彼は循環器内科で不整脈の薬を出され、脳神経外科でCTとMRIを取られ、消化器内科で胃カメラをされて、精神科で安定剤を出され、呼吸器内科でレントゲンを撮って、膠原病内科で採血をされて…結果的に10個以上の薬を持って泣きながらやって来ました。

彼は苦しんでいて、それぞれの医師は自分の職分でできることをしていたのかもしれません。結局彼は家庭内の問題と医療不信が原因でその症状を呈しており、現在はすっかり良くなっています。しかし波照間島であればもっと早く、苦しまずにしっかりと治療することができたのに、と感じずにいられませんでした。

目の前に病院がたくさんあっても患者さんは救われない、むしろ波照間という地域が医療の先端を走る、そういうこともありえます。

都会の医療が進んでいて、離島の医療が遅れているというのは大いなる誤解かもしれない、それは都会に暮らしている限りわからないことなのかもしれないのです。