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【連載】これで対応に困らない! せん妄の基本

第15回 せん妄の治療やケアはどうするの?③薬物治療について―注射薬―

執筆 井上 真一郎(いのうえ しんいちろう)

岡山大学病院精神科神経科 助教

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大きな手術後やがんの終末期などに極めて高頻度にみられる「せん妄」。せん妄は、注意力や意識が低下することで患者さんが転倒・転落したり、幻覚が見えて暴れたりと治療を大きく阻害するものです。特に低活動型のせん妄は見落としがち。本連載ではそんなせん妄へのアプローチ法をやさしく解説します。


今春から外科病棟に配属された看護師のAさん。 担当患者さんが手術後にせん妄を発症してしまい、日夜悪戦苦闘・・・。これを機に、せん妄について体系的に勉強したいと考えています。

看護師はせん妄治療薬に興味がなくてもいい?

井上先生:「今回と次回は、せん妄の薬物治療について解説します」

看護師さん:「せん妄の薬物治療はこれまであまり勉強する機会がありませんでしたが、とても興味があります」

井上先生:「私は以前、看護師さんは薬物治療にはあまり興味がないものと誤解していました。ただ、よく考えると実際に投薬するのは看護師さんですし、効果や副作用のモニタリングもまずは看護師さんが行いますよね」

看護師さん:「いつも経験的にやってきたので、今回しっかり勉強したいと思います」

*井上先生:「今回の講義では、せん妄の薬物治療のうち『注射薬』をとりあげます。
注射薬を選択するのはどのような時ですか?」

看護師さん:「嚥下困難などで内服ができない場合、などでしょうか」

井上先生:「そうですね。イレウスなどで絶飲食になることもありますし、手術によっては術後しばらく内服ができない方もおられます。
また、内服を拒否される場合や、不穏が強く即効性が要求されるようなケースなどでは、注射薬を選択することになります」

看護師さん:「そのような場合、何を使えばいいのですか?」

井上先生:「結論から言うと、注射薬の第一選択はセレネースです。セレネースは古くからよく使われている薬剤ですが、使い方のコツを知っておきましょう」

看護師さん:「ぜひ教えて下さい!」

せん妄への第一選択となる注射薬はセレネース

せん妄の薬物療法(注射薬)

井上先生:「まず、セレネースは静注と筋注を2通りの投与方法がありますが、静脈ルートが確保されている場合は、静注のほうが副作用が少ないため望ましいと言えます」

看護師さん:「場合によっては、あらかじめルートを確保しておく必要がありそうですね」

井上先生:「そのとおりです。
次に、効果に即効性を期待するか、持続性を求めるかで、投与の方法を変えます」

看護師さん:「どういうことでしょうか?」

井上先生:「即効性を期待する場合、つまりすぐに効果が出て欲しい場合がありますよね。せん妄で興奮状態にあり、今まさに不穏が強いといったケースです。その場合は、例えばセレネース1Aを生食20mLに混ぜて側管から静注するなどの方法がいいと思います。
なお、セレネースは呼吸抑制が問題となる薬剤ではありませんので、注射速度を気にする必要はありません」

看護師さん:「そうなんですね。安心しました」

井上先生:「今度は、持続性を期待する場合です。一晩ゆっくり寝て欲しいようなケースでは、例えばセレネース1Aを生食100mLに混ぜて点滴で落とすなどの方法があります。実際の臨床現場では、これら2つの指示を適宜組み合わせることになります」

看護師さん:「なるほど。そういう使い方をすればよいのですね。
セレネースの副作用としてはどのようなものがありますか?」

井上先生:「もっとも多い副作用のひとつに、パーキンソニズムがあります。パーキンソニズムは手がふるえる、歩き方がふらふらする、動作が遅くなる、手足が固い、などの症状のことで、注意が必要です」

看護師さん:「わかりました。もしそういう症状がみられたら、早目に主治医に相談するようにします。
セレネースのほかに注射薬で有効なものはありますか?」

井上先生:「セレネースは主に幻覚や妄想といった症状に効果を発揮する薬剤ですが、鎮静効果については決して強いわけではありません。
ですので、セレネースの注射のみでは十分な鎮静効果が得られないことがあり、その場合はサイレースを併用することがあります。ただし、サイレースは呼吸抑制をきたす薬剤ですので、使用に際しては慎重を期す必要があります」

看護師さん:「サイレースの注意点を教えて下さい」

井上先生:「サイレースの使用については、注意点が3つあります。
まず1つめですが、サイレース単独での使用はせん妄を惹起する可能性があるため、必ずセレネースとの併用で用いるようにすることです。
2つめは、呼吸抑制に十分注意が必要な薬剤であるため、点滴で少量から開始し、必ず呼吸状態をモニタリングしながら使用することです。
最後に3つめです。2つめとも重複しますが、呼吸状態が悪い患者には用いないようにしましょう」

看護師さん:「よくわかりました。
3つめについての質問ですが、呼吸状態が悪い患者で、セレネースで十分な鎮静効果が得られない場合はどうしたらいいでしょうか? 」

井上先生:「その場合は、アタラックスPをサイレースの代替薬として下さい。アタラックスPは呼吸抑制が問題となる薬剤ではないので、比較的安心して用いることができます。ただし、サイレースほどの強い鎮静効果はありません」

看護師さん:「アタラックスPの注意点があれば教えて下さい」

井上先生:第11回の講義でも触れましたが、アタラックスPは抗コリン作用を有する薬剤であり、せん妄を惹起する可能性が高いため、単独での使用は避けるべきです。エビデンスが確立されているわけではありませんが、ベンゾジアゼピン受容体作動薬と同様に、抗精神病薬との併用がよいと思われます。
最後にひとつ。今回セレネースやサイレース、アタラックスPといった薬剤をご紹介しましたが、いずれも「せん妄」に保険適応がないことも併せて知っておいて下さい。
では、今回はここまでです。次回が最終回になりますが、せん妄の薬物治療のうち『内服薬』について解説します」

看護師さん:「最後まで頑張って勉強します!」

【この連載の他記事】
* 第16回 せん妄の治療やケアはどうするの?④薬物治療について―内服薬―
* 第14回 せん妄の治療やケアはどうするの?②促進因子と患者へのケア
* 第13回 せん妄の治療やケアはどうするの?①可逆性・不可逆性せん妄

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