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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第6回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「患者さんが食べてくれない場合は?」

執筆 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


経口摂取が進まない患者さんへのケアは?

87歳の認知症の女性。大腿骨頸部骨折で入院してから食事をほとんど食べてくれません。家族からは「自宅ではしっかり食べられていたし、気になるところもなかった」と聞いています。急に食べなくなることはあるのでしょうか?考えられる原因は何でしょうか?


高齢者、とくに認知症高齢者は、ちょっとしたことで食欲が低下したり、食事が進まなかったりすることがあります。経口摂取量の減少は栄養状態の悪化に繋がり、そうなると入院期間の延長や経管栄養を考えなくてはなりません。

嚥下障害の症状として誤嚥も怖いですが、臨床ではこの「食べてくれない」というのも、なかなかやっかいな症状です。
今回は経口摂取が進まない患者さんに対するケアの方法を考えます。

今回の症例は、「入院してから」というように症状の出現が明確ですので、認知症の進行にともなう経口摂取量の低下とはちょっと異なるようです。改善できない経口摂取量の減少もありますが、気づけば改善できるところも多々あります。

経口摂取が進まない原因別のアプローチ

全身状態の悪化

可逆的なものとして、急性症状にともなう発熱や倦怠感があると、それだけで経口摂取量が減少することがあります。私たちも風邪などで体調が悪いときは食欲がわかないように、患者さんも体調不良で食欲が低下しているのかもしれません。バイタルサインや血液検査を参考にして、急性症状があるときは「待つのも治療」です

もちろんまったく経口摂取できなければ低栄養になりますので、その期間のみ経管栄養に頼るのも一法です。嚥下に関わる筋は廃用(ある機能を使わないことで、その機能がだんだんと低下していくこと)は生じにくいとされていますので、数日・数週間食べないからといって廃用による機能低下の心配は要りません

環境の変化―アルツハイマー型認知症での「見当識障害」

認知症の中でもアルツハイマー型認知症(AD)の場合は、「見当識障害」があるため環境が変化すると、それに対応できずに経口摂取が進まなくなることがあります。

見当識障害とは、自分が置かれている環境が分からなくなる症状で、ADではほぼ全例でみられる症状です。具体的には、初期には時間(日付、季節、など)が分からなくなり、進行するにしたがって、場所(自分がいる場所が認識できない)、人(家族や知人が認識できない)が分からなくなります。

入院して環境が変わると、これまでの慣れた自宅や施設と異なるため食事場面が認識できなくなることがあります。そうなるとなかなか食事が進みません。「『レストランに来ている』と認識してしまい、お金がないから食べない」「食事をしてよい場面なのかが分からない」「食事に毒(?)を入れられている」など、いろいろと思い込んでしまいます。

このときは適切な声かけが有効です。「食事の時間ですよ」「一緒に食べましょう」など食事を認識できるような声かけをしましょう。食器を持たせてあげるのもいい方法です(図1)。

食べないときの食支援の様子

介助で食事をしている場合は、自宅や施設での介助方法を聞いて再現するのもいいかもしれません。それでも食事が進まない場合は、環境に慣れるまで低栄養に注意しつつ乗り切る、早期退院を考慮する(慣れた環境に戻す)など次善の策を考えます。

投薬内容の変化―パーキンソン病薬の剤形、認知症への抗精神病薬など

とくにパーキンソン病の薬は経口・経腸投与のものが多く、注射薬では適切なコントロールができません。周術期管理や急性症状による全身状態の悪化などにより入院前まで飲んでいた薬が飲めなくなると、パーキンソン症状がひどくなり、まったく経口摂取ができなくなる場合があります。その場合は、一時的な経鼻胃経管投与でもいいので確実に薬を服用できるように支援することが重要です。

また、認知症高齢者では入院により不穏状態になることがあり、その症状改善のために抗精神病薬が投与されることがあります。抗精神病薬は錐体外路症状(パーキンソン症状)を生じることがあり、そのために嚥下障害や経口摂取量の減少をきたすことが多々あります

これまで抗精神病薬の嚥下障害はあまり重視されておらず、高齢者に対して比較的安易に抗精神病薬が用いられていましたが、最近になりその危険性が認識されつつあります。抗精神病薬を用いるなというのではありません。用いるときはその危険性を十分考慮した上で、ケアにあたることが重要です。そうすれば症状が出たとしても、すぐに対応することができます。

その他、レビー小体型認知症では入院などの環境変化を契機に、便秘、抑うつ、自律神経の障害などを生じることがあるため、それらが原因で経口摂取量が低下します。便秘による食欲低下は思いのほか多く、レビー小体型認知症以外の高齢者でもよく見られる症状です。

イラスト

今回あげた原因は臨床で比較的多いものですが、これ以外にも「食べない」という症状を引き起こすものはあります。どうしても「食べない」となると口腔や咽頭に気になりますが、環境や体調をよく観察し、分析的に原因を考えるようにしましょう。「看護師さんの気づき」が重要です。

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