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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第8回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「反回神経麻痺がある患者さんの嚥下リハは?」

執筆 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

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本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


食道がんでみられる嚥下障害へのケアは?

食道がん術後の63歳男性。術後から嗄声(かすれ声)がありました。飲水許可が出たので水を飲んでもらったところ激しくムセました。担当医からは「反回神経麻痺があるかも」と言われています。安全に経口摂取を進めていくポイントを教えてください。

食道がんの術後は、吻合部の狭窄、食道運動の低下、前頸部の瘢痕などの影響で嚥下障害(誤嚥)になることがあります。

とくに腫瘍が頸部に近い場合は、手術部位が嚥下に関わる神経や筋に及ぶため誤嚥を呈する頻度が高くなります。加えて、麻酔時の挿管や手術の侵襲によって「反回神経麻痺」が生じると、さらに誤嚥しやすくなります

そこで今回は、反回神経麻痺の特徴と対応のポイントを解説します。

反回神経麻痺とは

反回神経とは迷走神経の枝の一つです。大きな特徴はその走行で、迷走神経は脳幹から頸部を下降して胸腔に入りますが、そこで反回神経は枝分かれし、その名の通り「反回」して、また頸部に向かって上向します(図1)。頸部では主に声帯を動かす筋を支配しています。

図1 反回神経

反回神経が麻痺をすると、声帯の動きが悪くなるため、声がかすれる(嗄声)、咳が弱くなる(咳は声帯を使います)などの症状が出ます(図2)。また、声門閉鎖による気道防御ができなくなるため、今回の患者さんのように誤嚥しやすくなります。

図2 左側反回神経麻痺の内視鏡所見

反回神経麻痺による嚥下障害

嚥下時の気道防御のメカニズムとしては①喉頭蓋の翻転、②披裂部の内転、③声門閉鎖がありますが、反回神経が麻痺すると②と③が障害されます。

その結果、緊密な気道閉鎖ができなくなるのが特徴で、固形物は比較的安全に摂取できますが、水分は隙間から入り込むため誤嚥のリスクが高くなります。手術直後や症状がひどい場合は、「睡眠時に唾液でムセて目が覚める」という訴えを聞くことも多々あります。

反回神経麻痺の患者さんへの対応

術後に反回神経麻痺が生じた患者さんへのもっとも有効なアプローチは「治り待ち」です

反回神経麻痺は自然と改善することも多く、挿管が原因のものは9割近くの症例で自然改善することが報告されています。

食道がん手術侵襲によるものも「手術中に切断されていなければ(術者に確認しておきましょう)」改善が期待できます。経過をみるのは発症後6カ月(長くて12カ月)といわれています。

麻痺を生じている間は、①水分は避ける(とろみ付与、ゼリーなどで対応)、②肺炎予防のための口腔ケアを徹底する、③ムセないように慎重に食事をする(think swallow:嚥下の意識化といいます)などを心がけましょう。このなかでは①の「水分を避ける」がもっとも効果的です。

臨床的には「声が出しやすくなった」、「かすれ声が治った」というのが改善の目安です。そういった所見が確認できたら、徐々に①~③の生活制限を解除していきます。

治らない反回神経麻痺への対応

術中に反回神経が切断された場合や、発症後6ヶ月様子をみても改善が認められなければ恒久的な麻痺と考えられます。

その場合は、ずっと誤嚥し続けるかというと…そうでもなく、かすれ声は残存しますが、嚥下のコツを覚えられた患者さんは、誤嚥せずに水分を嚥下できるようになることもあります。

ただ、食道がんの術後は、反回神経麻痺以外にも嚥下に不利となる条件(頸部の瘢痕、食道蠕動運動の低下等)がありますので、いつまでたっても水分はムセてしまう患者さんもいます。その場合は、誤嚥性肺炎予防のために上記①~③の継続が必要です。

症状が固定した反回神経麻痺に対しては、手術的な改善も一つの方法です。 その手術は、麻痺を治すものではなく、かすれ声やムセといった臨床症状を改善するもので、手術が必要にはなりますが、うまくいくと劇的な効果が得られます。

音声や嚥下を専門としている耳鼻咽喉科の受診を薦めてあげてください。

注:同じように術後に嗄声をきたした場合でも、反回神経麻痺以外が原因(声帯浮腫や披裂軟骨脱臼など)のこともあります。嗄声があったときは、一度は耳鼻咽喉科の先生に診てもらった方が安心です。

食道がん以外でも術後に反回神経麻痺を生じる患者さんはおられます。かすれ声やムセは患者さんにとって非常にストレスとなる症状です。反回神経麻痺を漠然とイメージで捉えるのではなく、病態や予後を理解してケアにあたるようにしましょう。