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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第9回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「誤嚥性肺炎発症後の患者さんへ提供する食事形態の決め方は?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

執筆 田中 信和(たなか のぶかず)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


誤嚥性肺炎で入院している82歳、認知症の女性。食事再開の時にはどんな食形態から始めれば良いでしょうか?食形態を決めるときのポイントは?


誤嚥性肺炎で入院している方の食事の再開は、多くの場合、摂食嚥下機能の低下を前提に考える必要があります。今回は、食事再開時に気を付けたい安全な食形態の考え方や再開後の進め方についてお話しします。

再開は「安全な食形態から」

まず結論から書くと、主食・副食はペースト状やムース・プリン状などの形態から、水分はトロミを付与した形態から開始することをお勧めします。

ペースト食は、食物が予め潰されているため口腔内で食塊形成(※飲み込みやすい形にまとめること)が不要な形態であり、ムース・プリン状のソフト食は、舌での押し潰し程度で形が崩せる形態です。

いずれの食形態も食塊形成が不要、あるいは容易であるため摂食嚥下機能が低下した人でも誤嚥のリスクを低くすることが可能です。

また水分についても、とろみを付与することで液体をまとめる効果があり、広がりながら勢いよく咽頭へ流れ込むことを防ぐため誤嚥の予防が期待できます。

このように今回の症例の条件からは、最も誤嚥しにくいと考えられている安全な食形態から、かつ少量からの開始が良いと考えられます。ただし、経過を診ながら食形態や摂取量の変更を行うことが前提となります。

ペースト食とソフト食の特徴・使い分け

1.ペースト食

ペースト食は、一般的にシチューのようなドロッとした液状で、はじめから「食塊形成された」性状であるため、歯による咀嚼だけでなく、舌による押し潰しや唾液と混和させる動作も必要もありません。つまり口腔機能の低下した症例には最も適した形態と言えます。

しかしその一方で、ペーストの性状(ドロっとしている程度)によっては、口腔や咽頭の粘膜に張り付きやすく、嚥下時の咽頭収縮が弱いと咽頭に残留しやすいという欠点もあります(図1)。

咽頭に張付くペーストの1例

図1 咽頭に張付くペーストの1例

咽頭に残留したペーストは、徐々に気管に垂れ込むような誤嚥が生じやすく、ペーストの性状には注意が必要です。

2.ソフト食

ソフト食は、舌と上あごの押し潰し動作で形が崩せるぐらいのかたさです。舌の上下運動などが保たれている必要がありますが、ペーストとくらべて付着性が低いため粘膜にはあまり張り付きません。そのため嚥下時の咽頭収縮が弱いなどの咽頭期の障害では、ペースト食よりも残留が少なく、結果誤嚥しにくくなります。

しかし、ソフト食もペースト食同様に利点ばかりではなく、粘膜に張り付きにくい反面、「すべり」が良いため、タイミングが悪いと口腔から咽頭へ素早く流れ落ちてしまい、嚥下反射が生じる前に誤嚥が生じてしまうリスクもあります。

このように、ペースト食とソフト食にはそれぞれ一長一短があり、一概に「どちらの方が安全な食形態だ」ということは難しいです。

現場では、可能な限り摂食嚥下機能の評価を行った上で適切と考えられる方を選択します。また摂取量についても、最初は少量から開始し段階的に増やしていきます。

食形態の目標はどこに?

安全な食形態から再開しても、経過が良好であれば形態を上げていくことは可能です。

ただし、今回の症例は、入院の原因が誤嚥性肺炎、つまりこれまでの食生活で誤嚥を呈していたことが考えられ(嘔吐物の誤嚥など原因がはっきりしている場合は別です)、入院前に摂取していたものと同じ食形態では今後も肺炎を繰り返す可能性が高いと予想されます

そのため、入院前よりも少しレベルを落としたぐらいの食形態が現実的な目標になりそうです。

確実な評価には、VFやVEなどの嚥下機能検査が可能な施設では検査を依頼し、現状の確認を行うことが理想的です。

また検査が実施できない施設でも、「食形態をどの段階まで上げるか」、「変更をどのタイミングで行うか」の判断には、①食事の摂取に立ち合いムセなどの問題がないか、②摂取時以外でも誤嚥を疑うサインである熱発や、食後の痰の増加がないか、などを指標に進めていくことが可能です。

入院中はもちろん、「どの食形態から始めるか?」も大切ですが「退院時の目標をどこにするか?」にも気を付けたいところです。

退院後に施設や在宅に戻る症例では、退院時の形態がそのままその後の生活に引き継がれ、再評価の機会がないまま継続されてしまうことが多いのが現状です。

もちろん、安全な食生活は最優先事項ですが、必要以上の食形態の制限は退院後のQOLを低下させてしまいます。どこを目指すかのマネジメントも看護師さんの大切な役割ではないでしょうか?


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