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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第10回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「ムセがあったり誤嚥のおそれがある患者さんの食事時の姿勢は?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

執筆 田中 信和(たなか のぶかず)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


認知症のため食事介助が必要な高齢者。食事時にムセを認めるなど嚥下機能の低下を疑うので食事時の姿勢に注意するよう指示を受けている。食事時の姿勢で気を付けるべきポイントは?

嚥下機能の低下した人にとって、安全に食事を摂るためには食事の形態はもちろん、食事を摂る際の環境を整えることがとても大切です。そのなかでも、姿勢の設定は、誤嚥のリスクに関わるだけでなく、症例によってはスムーズな摂取を助ける重要な要素です。そのなかでも今回は、頸部とリクライニング位についてお話しします。

はじめに気を付けたいこと

嚥下動作という点からは、四肢体幹の安定よりも気を付けたいポイントに「頸部がリラックス(異常な筋の緊張がない)する姿勢をとる」ことが挙げられます。

具体的には、「軽く顎を引く、うなずく程度」の姿勢が良いとされています。

頸部の筋は、頭を支える役割があるのと同時に嚥下動作を担う役割があります。つまり、頸部の筋が緊張してしまう、あるいは過度に前屈・後屈してしまうと嚥下に影響がでてしまいます。

真上を向いたまま唾液を嚥下してみましょう。普段の唾液嚥下と違いかなり嚥下が難しくなるのが実感できると思います。

体幹が左右に傾き、バランスを保つために頸部の筋が緊張している姿勢、あるいは、頸部が後屈している姿勢などは、スムーズな嚥下動作を妨げ誤嚥のリスクを高める原因となります。

頸部が極端に傾いていないか、過度な前屈・後屈がないかに注意しましょう。セラピスト(ST,PT,OT)が勤務している施設では、姿勢の調整について相談するのも大変有効です。

摂食嚥下障害におけるリクライニング位の意義と注意点

嚥下障害への対応として最も有名な姿勢がリクライング位ではないでしょうか?きっと皆さんも一度は耳にされたことがあると思います。このリクライング位ですが、嚥下障害症例に対して推奨されるのは、次のメリットがあるからです。

1.リクライニング位のメリット

  1. 誤嚥のリスクが軽減される:図に座位とリクライング位の違いを示します(図1)。人の頭頸部を側面から見ると、気管は前方に、食道は後方に位置しています。リクライング位をとることで、口腔から咽頭へ流れ込む食塊は咽頭後壁を伝って流れ落ちやすくなるため、直接気管に入ってしまうリスクを軽減することができます。
  2. 食事の送り込みを助ける:リクライニング位をとることで、重力を使って口腔から咽頭への食塊の送り込みを補助することができるため、送り込みが障害されている症例、例えば、アルツハイマー型認知症のような口への溜め込みが頻繁に起きてしまうような例では特に有効です。

リクライニング位における嚥下解説図

リクライニングをしない場合(座位)、食塊は咽頭の通過時に気管に流入しやすいが(左)、リクライニングさせることより、食塊は重力を利用して咽頭に流れ込みやすくなるだけでなく、咽頭後壁を伝って移動するため誤嚥しにくくなる(右)

図1 リクライニング位における嚥下

2.リクライニング位のデメリット

  1. 自食が難しくなる:リクライニングの角度がつよくなるほど(仰臥位に近くなるほど)、当然身体と食事(食器)の距離は遠くなっていきます。リクライニングの角度によっては、自食が実質的に不可能になります。
  2. 咽頭へ流れるコントロールが難しくなる:リクライニングさせることは、重力を利用して口腔から咽頭への送り込みを補助する反面、食物(食塊)を口腔内に保持することが困難になります。つまり、自分の意図しないタイミングで、意図しない量の食物が咽頭に流れ込んでしまうリスクが高くなり、その結果誤嚥しやすくなる可能性があります。この場合は、水分にはとろみを付与して流れ込むスピードを調整するなどの対応が必要です。

リクライング位の角度は「30°」?

リクライング位は大変有効な姿勢調整法なのですが、ではどの程度リクライングさせるのが適切なのでしょうか?

この「角度は何度が適切か」という点については、「30°リクライング位」という記載をよく見かけます。

実はこの30°リクライング位が適切であるのは、厳密には、「脳卒中後の症例で嚥下造影検査(VF)を行った時」の研究結果です。これは言いかえると、どんな症例でも30°がベストなのではないとも言えます(もちろん30°リクライング位が有効で適切な症例はたくさんあります!)。

しばしば、この「30°」という角度を厳守することにこだわってしまう人がいますが、対象とする症例によっては、そこまで厳密でなくても問題ないケースが多いです。

実際に筆者は、もっと角度を起こした姿勢でも全く問題のない(=ある程度幅があってもよい)症例、あるいは完全に仰臥位にすることで誤嚥が改善する(=30°でも誤嚥してしまう)症例などを多く経験しています。

このようにリクライニング位は、メリットとデメリットがあります。大切なのは、メリットとデメリットのバランスを考えた上で、実際に患者さんに用いるのか、また用いる場合はどれくらいの角度に設定するかを症例ごとにしっかりと評価した上で検討することです。

【この連載の他記事】
* 第20回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「どう対応する? ムセがひどくて食事が進まない患者さん」
* 第4回 誤嚥と誤嚥性肺炎の予防―不顕性誤嚥を例に
* 第13回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「窒息を回避するには?」