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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第11回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「とろみの加減はどの程度?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

執筆 田中 信和(たなか のぶかず)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


肺炎で入院している78歳パーキンソン病の女性。絶食となっていたが、症状の改善により主治医から嚥下訓練を兼ねた少量の水分摂取の指示がでました。肺炎は誤嚥が原因である可能性が高いとのことです。とろみを付与した水分から経口を再開したいがとろみはどの程度が適切でしょうか?とろみの付与のポイントを教えて下さい。

「水分にとろみをつける」ことは、誤嚥のリスクがある患者さんに対してよく行われる対応法ですが、水分にとろみをつけるのはなぜでしょうか?また、そもそも水分はなぜ危険なのでしょうか?

今回は、液体の性質ととろみをつける時のポイントについてお話しします。

液体は誤嚥しやすい

水分にとろみをつける理由は、嚥下機能が低下した人にとって、液体は誤嚥しやすい性状をしているからです。

具体的には、液体に特有の「流れる(移動の)スピードが速い」、「まとまらずバラバラにひろがる」という性状がかなり嚥下しにくいものだからです。

流れるスピードが速いことにより、口から摂取した液体は嚥下反射(による嚥下運動)が生じる前に咽頭~喉頭へ流れ込みやすくなります。流れ込みが速いと、喉頭蓋が倒れこむ(気管の入り口を塞ぐ)、披裂部や声帯が閉じる、などの気道の防御機構が働く前に液体が気管内に入る(つまり誤嚥する)リスクが高くなります。

また、まとまらずバラバラに広がりやすいことにより、嚥下運動時、あるいは嚥下後に咽頭に残留した液体が気管に垂れ込みやすくなり、やはり誤嚥のリスクは高くなります。

このような液体に特有の誤嚥しやすい性状に対して、増粘剤(とろみ調製剤)を用いてとろみをつけるという行為は、「流れを遅く」し、「まとまる」ように性状を調整して誤嚥のリスクを軽減させることができます

食事のとろみの程度は?

「とろみはどの程度が適切か?」というのは、なかなか難しい問題です。というのも、とろみの程度を説明するのに統一された基準がない(性状を表す用語も含めて)ことや、適切なとろみの程度は症例によりそれぞれ異なるからです。

とろみの基準についての話は本題から離れてしまいます。そこで今回は、摂食嚥下リハビリテーション学会の分類(表1)を参考にしてお話ししたいと思います。

表1 学会分類2013(とろみ)早見表

学会分類2013(とろみ)早見表

(日本摂食嚥下リハビリテーション学会:「嚥下調整食学会分類2013」を参考に作成)

この基準では、とろみの程度を①薄いとろみ(スプーンを傾けるとすっと流れ落ちる)、②中間のとろみ(傾けるととろとろと流れる)、③濃いとろみ(傾けても形状が保たれ流れにくい)、の3段階に分類しています。

段階が上がるにつれて、より「流れが遅く」なり、より「まとまる」性状になります。

この分類を用いると、今回のような誤嚥性肺炎を疑う症例で、絶食になっていた状態から嚥下訓練を開始する場合は、②の中間のとろみぐらいの性状から始めるのが比較的安全です。ただし、それはあくまで他にとろみの程度を決める判断材料がない時の「とりあえず」です

②で試してみて、「ムセる」「痰が増える」などの所見が見られる場合は、当然調整が必要になります。その他にも、「日ごろは、もっと強くとろみをつけていた」「○○ぐらいのとろみをつけていた」などの情報があれば、必要に応じて変更します。

とろみをつける時に気を付けたいこと

まず何より気を付けておきたいのが、とろみの付与に関する指示の方法です。

とろみの程度は同じ量の増粘剤を使用しても、その種類やとろみを付ける食品により、とろみの程度やとろみが付く時間に大きな差がでてしまいます

同じ指示に従ってとろみをつけているはずなのに、介助者によって、あるいはその日のメニューによってとろみの程度がバラバラになってしまうケースをよく見かけます。

これを避けるためには、とろみの指示を「増粘剤の量で」はなく、上記の①~③の()内で表したような「とろみの性状」で行うと良いでしょう。

もうひとつは、患者さんが許容できる範囲を考慮するということです。

とろみを付与すれば誤嚥のリスクは低くなる反面「液体を飲む」感覚からはかけ離れてしまうため、患者さんの受け入れが難しくなることがあります。

また認知症(特にアルツハイマー型)の人の中には、とろみが強いと口腔内に溜めこんでしまい、咽頭へ送り込めず嚥下しなくなってしまう人もいます。このような場合には、とろみを調整しながら許容できる範囲を探っていきましょう。

適切なとろみの程度は症例によってさまざまです。「経過に応じた調整」、「一定のとろみを再現するための手技・情報の共有」、「患者さんの許容範囲の考慮」、この3点に気を付けてすすめてください。

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