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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第12回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「きざみ食はダメなの?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

執筆 田中 信和(たなか のぶかず)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。


最近、「きざみ食は意味がない」「きざみ食は良くない」といった話を聞きます。当院の食形態にはきざみ食があるのですが、なぜきざみ食はダメなのでしょうか?その理由とダメな場合の対応法を教えて下さい。

「明確な定義はありませんが、一般食(普通食)の副食を予め細かく刻んで提供するものを「きざみ食」としている施設がほとんどです。ただし、刻みの程度や種類も様々です。

きざみ食は、普通食の摂取が難しいと判断された人に提供されることが多いと思いますが、以前よりこのきざみ食はいくつかの問題が指摘されています。今回は、摂食嚥下の点からきざみ食をみてみましょう。

きざみ食は食べやすい食形態?

きざみ食は咀嚼(そしゃく)が困難な人に対して、「口の中で咬んで潰すことができないかわりに予め食事を細かくする」ことで対応しようという考え方から作られています。

しかし、摂食嚥下の過程で口のなかで行われる動作は咬んで細かくするだけではありません

私たちは、口の中で「食塊形成(しょっかいけいせい)」という作業を行っています。食塊形成は「口に取り込んだ食べ物を咀嚼して小さく(粉砕)し、唾液と混ぜ合わせながらまとめて、飲み込みやすい形にすること」です。

食塊形成の1例を図1に示します。

食塊形成の実際の図

図に示したように、クッキーは丸くて硬いですが、食塊形成により飲み込む直前にはペースト状になっています。つまり、安全に飲み込むためには、「小さくする」だけでなく「こねる(混ぜる)」、「まとめる」という作業が必要となるわけです。

そう考えると、きざみ食は「小さくする」という過程を助けているだけであることが分かると思います。

きざみ食の欠点と利点

1.きざみ食のデメリット

きざみは「大きさ」の概念ですが、食物には様々な「かたさ」があることが問題となります。

例えば、同じ一口大のプリンととんかつでは、まったくかたさが異なり、食べやすさが変わりますよね?

このように、同じ大きさに刻まれても、肉類、生野菜、かまぼこなどは咀嚼力が衰える、咬み合せがなくなるなどすると粉砕できず、飲み込みやすい形にまとめることができません。

それだけでなく、(特に生野菜のように)「かたくて刻まれたもの」は、かえってまとめるのに時間がかかってしまいます。

それにも関わらず、かたい食物もやわらかい食物も全部同じ大きさに刻んで提供されている施設を多く見かけます。

このような提供のされ方では、飲みこみにくく誤嚥してしまう、食事に時間がかかってしまうなどの問題がでてきてしまい、嚥下機能の低下した人が安全に効率よく食べることはできません。

2.きざみ食のメリット

とはいえ、きざみ食には良い点もあります。

例えば、きざみ食は、特別な調理過程が必要なソフト食(ムースやプリン状の食形態)とは異なり自宅でも簡単に作れます。

また 家族と同じメニューを食べることができるのも生活面からみると大きな利点と言えます。

また、食塊形成については、しっかりと唾液と混ぜ合わせて一塊にまとめることができれば、多少粒(細かくきざまれた物)があっても安全に飲込めることが当部の研究でも明らかとなっています。

このように考えると「きざみ食はダメだ」とは一概に言えません

きざみ食しか選択肢がない場合、どう対応するか?

近年、食べやすい(=安全に飲み込める)食形態に対する考え方が見直されてきており、統一された基準を作る流れがあります。現場レベルでも、きざみ食を廃止する、あるいはきざみ食とは異なる食形態を導入する病院や施設が増える傾向にあります。

ただし、筆者の経験するかぎりでは、コストや調理体制などの問題からきざみ食からの変更が難しいため、食形態への取り組みは病院・施設間でかなり差があるように感じます。

また、退院後の生活を考えた場合、生活や支援の環境によっては提供できる食形態が限られるため、きざみ食の否定が自宅退院を妨げることにもなりかねません(ソフト食を家庭で作るのは困難であることも多いです)。

今後はともかく、現状きざみ食しか提供できない場合は、①唾液と混ぜ合わせて食塊をまとめる代わりに、あんかけやとろみの付与などで食塊形成を助ける、②咬みにくい物、かたい物についてはいっそう細かく刻む、あるいは一段階食形態を下げて提供する、③水分などでの交互嚥下を行う、などの工夫が効果的です。

食形態をめぐる議論は、今後も活発になってくることが予想されます。もちろん機能面から食形態の良し悪しを考えるのも大切ですが、医療の現場では、目の前の患者さんをとりまく環境、つまり「生活」のことも配慮して食形態を考えることが大切ではないでしょうか?退院後の生活までを配慮した看護を目指しましょう!

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