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【連載】Dr.パクのドタバタ離島医療奮闘記

第13回 マイナーエマージェンシーへの対応―医療資源がない場合の工夫

執筆 朴 大昊(ぱく てほ)

鳥取大学医学部地域医療学講座 助教

Np drpaku pic

看護師は夜勤のラウンドや訪問看護など、患者さんの健康状態を確認する機会が多くありますが、患者状態を適切に判断するためには、プライマリ・ケアの技術が大いに役立ちます。

本連載では、拠点病院などによる後方支援を期待できない土地で、医療・検査機器などもない患者宅で医療を提供する「へき地医療」を通じ、“究極のプライマリ・ケア”と地域医療の実際を解説します。


医療資源がない場合の工夫

資源のない離島では、時に「小技」が大きな力を発揮します。

褥瘡に対するラップ療法は一世風靡をしましたが、他にも在宅診療などをされる人たちは、ハンガーを使って点滴をぶら下げたり、お手製リハビリグッズを自宅に作ったり、それぞれ小技集があるように思います。

離島赴任前に指導医から習ったものも数多くあります。

目にゴミが入った場合

波照間島は日本で最南端の有人離島であり日本の観測地点の中で最も気温が高い日も少なくありませんが、山がなく外洋に囲まれているため、いつも風が強く意外と過ごしやすいです。

しかし、この風の強い波照間島で眼球異物はサトウキビ農家の職業病とも言えるものでした。

通常はベノキシール®などの点眼麻酔薬を用いて局所麻酔をした上で、フルオレセインを用いて眼球表面の染色を行います。 少し部屋を暗くして眼球の横から光をあてるとちょうど蛍光ペンの黄色と同じ色で光ります。

風に舞った粉塵や葉っぱが目に入って受診される方に上記の処置をすると、多くの場合、違和感が残っているけれどすでに異物が残っていないことが多かったのですが、時に小さなゴミの欠片が残っていることもありました。

そんな場合はまず、徹底的に水で洗うこと、次に綿棒で眼球表面をやさしくこすること、これでほとんどの場合は問題解決します。

鉄粉やアルカリ性の製剤などの場合は比較的短時間で視力に影響することがあるので急ぎます。鉄粉の場合は注射針を使うなどして除去するのですが、離島ではリスクが高いかもしれません。

巻き爪(陥入爪)の場合

巻き爪ではまず白癬(水虫)などが原因になることがあるので、そちらの治療をしっかりすることが大切です。

爪が肉に食い込んで痛みが強くて受診する場合が多く、疼痛コントロールしながら徐々に矯正していくのが基本です。深爪(特に爪の両端を極端に短く切るケース)では治りが悪く、痛みが増強しますので爪をやや長めにしてもらいます。

最近では巻き爪矯正キットが市販されており、そちらをまず試してみるのがいいかと思います。

外科的処置としては上記のようなワイヤー法の他に、指ブロック麻酔の上で、爪の両端に点滴チューブやガーゼを詰めることもあります。細い点滴チューブを1cm程度準備して、長軸に1箇所カットして、コの字型にします。それを爪の両端に挟み込んで食い込みを防止するのです。

それでもなかなか治りが悪いようなケースでは、爪の両端3-5mm程度を爪根部まで抜いてしまうという方法もあります。 波照間島ではそれでも治りが悪く、専門医のもとで全抜爪された方がいました。

耳に虫やおもちゃが入った場合

耳に虫、というのもたまにありました。

想像するだけで背筋がひんやりしますが、耳がゴゾゴゾするという患者さんの耳に耳鏡をあてると、鼓膜に頭を向け(こちらにお尻を向けて)、耳の奥から出られずにもがいている虫を拡大してみることができます。

この場合はピンセットで容易に取れればいいですが、患者さんは痛がっており、虫はもがいて逃げるのでなかなか難しいこともあります。

その場合、虫を溺死させてから取ることが一般的です。注射器にトンボ針をつけ、チューブのところで切断し、断端のチューブを耳に入れて液体を注入します。オリーブオイルの滴下などもよく言われますが、私は上記のようにして点耳薬を注入していました。

子どもがおもちゃの鉄砲玉(通称BB弾)を耳に入れてしまった場合などは、ピンセットでいじっても奥に入っていくだけなので、接着剤をつけた綿棒で接着して除去します。

しかし、それ以上に一般的なのは耳垢塞栓です。

多くの場合、「耳あかがたまってよく聞こえない」と患者さんは訴えません。介護職員に相談される場合はよくご存知ですから「耳あかかもしれない」と言われますが、家族に相談される時は「認知症が進んだみたい」とか「反応が鈍くなった」と言われるかもしれません。

そして耳垢塞栓をピンセットで愛護的に除去すると、驚くほど高齢者の反応が良くなることがあります。

些細な症状がより大きな問題を誘発することも

耳垢塞栓は非常にバカバカしいような、面白いような話かもしれませんが、同時にとても重要なものの隠喩のような気もします。

おそらく日本のどこかには、耳垢塞栓で認知症が進行したと判断されて、認知症の薬が始まった人もいることでしょう。それを軽々しく馬鹿にはできないのです。

耳垢というと「なんだそんなこと」かもしれませんが、こんなバカバカしいことが非常に大きな問題を起こしていることは良くあります。

いくつも病気があって、薬も山ほどもらっていて、どうにも調子がすぐれない人が、薬を3つに減らしたら調子が良くなったなんて、信じられないかもしれないですが、よくある話です。

もっと広く考えれば、ほんの些細なものが人生を左右しているのかもしれません。どこに就職して誰と結婚して、ほんの気の迷いが人生を大きく変えて、寿命もそんなものが左右しているところが大きいかもしれません。

いくら様々な研究や実績をもとに進歩してきたとはいえ、依然医療が耳垢を除去することに及ばないケースも多々あるのです。