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【連載】Dr.パクのドタバタ離島医療奮闘記

第14回 夜間救急―患者さんのヘルスリテラシーを高める

執筆 朴 大昊(ぱく てほ)

鳥取大学医学部地域医療学講座 助教

Np drpaku pic

看護師は夜勤のラウンドや訪問看護など、患者さんの健康状態を確認する機会が多くありますが、患者状態を適切に判断するためには、プライマリ・ケアの技術が大いに役立ちます。

本連載では、拠点病院などによる後方支援を期待できない土地で、医療・検査機器などもない患者宅で医療を提供する「へき地医療」を通じ、“究極のプライマリ・ケア”と地域医療の実際を解説します。


「夜間救急」「コンビニ受診」はもう言い古されたぐらいに有名な、医療の問題です。時間外受診や救急対応をする医師は疲弊しており、“軽症で夜中に救急を受診するのは控えましょう”といった啓蒙は様々なところでなされています。

通常、救命救急センターなどの救急医は「救命」することが仕事です。

貴重な救急のマンパワーを使って、患者さんのナラティブな経験、文脈を理解した上での状況判断は、むしろしてはいけないのです。

ですから、心肺停止で救命センターに行けば看取りではなくて心肺蘇生が待っていますし、そこに考える時間はありません。じっくり考える場ではなくて、そんな暇があったら治療する場所なのです。

現実には、翌日の外来でもよかったとか、緊急性の乏しいケースは多々あって、その対応に多くのエネルギーが注がれています。それによって本当に助けなければならない患者さんの受け入れができないこともあるでしょう。

しかし、だからと言って「不必要な時間外受診は控えましょう」というだけの啓蒙活動にも私は疑問です。

患者自身がトリアージをすべき!?

「日本は先進国で唯一、患者が自らトリアージしなければならない国だ」と言われることがあります。

すなわち、症状の重症度や原因を患者が自分である程度診断しなければならないのです。

熱が出たりお腹が痛い時に、これは朝まで待てないか、もしくは週明けの外来まで待つべきか。

胸が苦しい時に呼吸器内科に行くべきか、循環器内科医に行くべきか、消化器内科に行くべきか。

当然患者さんは医学的に素人ですから、この判断は多々間違っています。

そして、受診タイミングが早いと「コンビニ受診」と言われ、遅いと「なんで放っておいたの!」と叱責される。診療科を間違えると、検査してお金払った挙句「うちじゃない」と言われることも。

医療は博打ではありませんが、しかし現実は、「背中が痛いけど、これは胃だろう!」と患者が予想して消化器内科を選ぶ、そんな状態とも言えます。これは少し酷ではないでしょうか。

受診のタイミングは難しい

波照間島でも時間外受診は少なくありませんでしたし、医学的に見て翌朝の通常外来受診ですんだものが、もしかすると過半数かもしれません。

“どこに行けばいいか”という迷いは(波照間診療所以外に選択肢がありませんでしたから)、あまりなかったように思いますが、“いつ受診すべきか”は他の地域同様、難しい問題でした。

例えば熱が出た場合、医学的に言って“風邪”に抗生剤は効きません。それどころか風邪薬を飲んだからって早く治るわけではありません。周りにうつさないように注意して、重症化しないようにしっかり休むぐらいしかやることがないんです(一時的な症状改善のためには風邪薬などは効果があります)。

しかし、私も熱が38度越えると、「これは普通の風邪ではないかもしれない」「風にしてはしんどすぎるかもしれない」などと余計なことを考えますし、一人で寝ていると非常に辛いものがあります。

ましてや、子どもの世話に不慣れな若いお母さんが泣き叫ぶ39℃の赤ちゃんと家にいれば、おろおろして当然でしょう。

基本的に夜間受診する患者さんたちは困っていますし、苦しんでいます。

「なんで来たの、明日でいい」と言われても、次に患者さんが受診しにくくなることはあっても、患者さんがよくなったり医療者がそれで楽になることもありません。

患者さんも医療者も互いを見知っているからこそ

私も人間ですからイライラをこらえながら救急診療をしていたことがあります。

しかし、顔の見える波照間島では、電話してきた人が普段サトウキビ畑で汗だくになっている姿であったり、子育ての様子も、この間喜んでいたことも、日頃遠慮がちであることも、すべてわかってしまうのです。

患者さんの方もむしろ過剰なくらい不必要な受診でないか、医師である私に負担でないか、気にされている方も少なからずおられました。患者にとっても私のプライベートが見えている分、“利用するサービス”というより“近所の医者に頼む”という感覚だったのかもしれません。

離島医療というと救急ヘリ搬送はドラマチックですし、夜な夜な時間外対応する姿はカッコいいかもしれませんが、実は離島医師としての腕の見せ所はヘリ搬送や時間外受診を減らすところにあります。

それは重症患者を搬送しないで診療する力でもありませんし、時間外受診を断る力でもありません。急患発生を減らすための地道な努力です。

時間外受診を減らすための努力とは?

波照間島では保健師さんと協力して、0歳児のお母さんに集まってもらい、子どもの発熱や子どもに出す薬、怪我した時の対応などについて話しあったことがあります。

“どういう時に受診すべきでない”というより、“どういう時こそ受診すべきか”を伝えました。

医者は子どもの診療でどういうところで悩んでいるのか、正直に伝えました。そしてお母さんたちが迷っていること、困ることを直接相談してもらいました。

こうする中で島の時間外受診が劇的に変わったとは言いません。しかし、少しお母さんたちにも影響があったのではないか、医師も患者も相談しやすくなったのではないかという気がします。

離島医療に興味がある人にありがちな勘違いですが、「私が努力したから何かが変わった」というのは少し危険です。実際は非常に複雑な努力の積み重ねで成り立つ離島医療で、たかだか2-3年赴任した医者が島の人々の行動を変容できるというのはおこがましいといえます。

しかし、それでも私が波照間島で最も誇らしかったことの一つは、そういった長年の積み重ねや地域の背景から、非常にヘルスリテラシーの高い地域であったということです。

医療に関する地域の人々の行動パターンは「文化」だと思います。歴史や環境に基づく島民性や社会的背景、保健師や医師や看護師やその他たくさんの肩書きのない人たちの積み重ねが築き上げたものなのです。

皆さんの地域のヘルスリテラシーはいかがでしょうか?

問題があるとすれば、それは地域や患者さんが悪いと言えるのでしょうか?医療者はそれに対してどう向き合っているのでしょうか?