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【連載】慢性肝疾患由来の皮膚そう痒

肝疾患が原因となる皮膚そう痒の病態とケア

解説 小林 雅代(こばやし まさよ)

東京慈恵会医科大学附属病院看護部主査 皮膚・排泄ケア認定看護師

解説 高橋 香織(たかはし かおり)

東京慈恵会医科大学附属病院看護部主任

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患者さんのQOLを低下させる皮膚そう痒は様々な原因によって引き起こされます。 とりわけ肝疾患によるかゆみ自体は知られているものの、そのメカニズムについてあまり知られておりません。

そこで今回は、消化器病棟に勤務する高橋香織さんと皮膚・排泄ケア認定看護師である小林雅代さんに、慢性肝疾患が原因となる皮膚そう痒のメカニズムとケアについてお話を伺いました。


なぜ慢性肝疾患が原因となる皮膚そう痒に取り組んでいるのでしょうか?

高橋:まず、患者さんの苦痛の緩和があげられます。慢性肝疾患の患者さんは、倦怠感や食欲減少、重度の浮腫などさまざまな苦痛を抱えていますが、それにかゆみが加われば苦痛が増し、睡眠が妨げられるなどQOLも低下します。

また、肝臓は糖質やタンパク質などの栄養素を合成しますが、慢性肝疾患では免疫細胞に必要なタンパク質の産生が低下して免疫機能が低下したり、創傷の治癒が遅延するなどの問題が起きます。そこにかゆみで掻きむしってしまうとそう痒部から感染を起こし、容易に重症化してしまいます。

このような事態は看護師の介入により防ぐことができるため、当院では皮膚・排泄ケア認定看護師に相談しながら皮膚そう痒へのケアを行なっています。

高橋 香織さんの写真
高橋 香織さん

慢性肝疾患が原因の皮膚そう痒はどんな患者さんに見られますか?

高橋:肝臓で代謝をうける血中ビリルビンが、肝疾患により胆管が破壊されて胆汁として排泄されず血液中に逆流し、皮膚の表皮と真皮の境界部にあるC線維神経終末を刺激してかゆみを引き起こすことがよく知られています。

私たち看護師は患者さんからかゆみの訴えが出る前に、胆汁がうっ滞する原因となる肝炎や胆管閉塞の患者さんにはかゆみが出ている可能性があると考え、随時確認しています。具体的には、血中ビリルビン値が高い人や黄疸が出ている人がその対象となります。

小林:肝疾患の患者さんは皮膚が脆弱で出血傾向もあるため、引っかき傷や裂傷、点状出血などによってかゆみがあることに気づくこともあります。

高橋:このような患者さんには減黄(黄疸の改善)を図りますが、原発性胆汁性肝硬変などでは、ビリルビン値とは無関係にかゆみが出ることがあるので注意しています。

小林:ビリルビン以外のかゆみの原因として、内因性オピオイドの関与があげられています。脳内で生成される内因性オピオイドに、かゆみを誘発するβ-エンドルフィンとかゆみを抑制するダイノルフィンがありますが、肝臓の炎症によりβ-エンドルフィンが生成され、大脳にかゆみを伝達する求心性C線維に作用し、かゆみを誘発すると考えられています(図1)。

かゆみのメカニズム説明図
図1 かゆみのメカニズム

慢性肝疾患が原因の皮膚そう痒へどのようなケアを行ないますか?

小林:肝疾患の患者さんは浮腫などもあり皮膚が脆弱ですから、皮膚損傷を起こさないことがもっとも重要です。一般的な皮膚そう痒と同じように、まずは保清・保湿・保護といったスキンケアの基本である「3つの保」を確実に行います。

保清として皮膚への刺激となる汚れを弱酸性石けんなどで除去し、保湿としては、洗浄後に患者さんの皮膚の状態にあわせて、ヘパリン類似物質、尿素、セラミド含有の保湿剤を選択します。ワセリンは皮膚に膜を張り保護にもなるので効果的です。

保護としては、皮膚が傷つかないよう、爪の整容やベッド柵などの保護を行い、靴下やレッグウォーマーなどを履かせるようにします。

また、冷罨法として氷枕などで冷却するときは、冷やし過ぎによる凍傷や皮膚損傷とならないよう、氷枕が皮膚に直接当たらないよう綿でくるむなどします。

慢性肝疾患では肝性脳症により傾眠傾向や意識障害がある患者さんもいるので、患者本人の理解力やセルフケア能力を確認しながら、ベッド柵による転落防止や外傷からの保護など、細やかな生活指導をすることも大切です。

小林 雅代さんの写真
小林 雅代さん


高橋:当院ではかゆみに対して、清涼感と保湿効果によるかゆみの緩和を期待して、エタノール、Lメントール、グリセリンなどを配合した止痒水を用い、滅菌ガーゼに含ませてパッティングすることもあります。

スキンケアでかゆみが緩和しない場合や、患者さんがかゆくてしかたがない、眠れないなどと訴える場合は医師に相談し、肝代謝型でない抗ヒスタミン薬などによる治療を開始します。最近は慢性肝疾患の皮膚そう痒に効果のある薬剤も出てきているので、抗ヒスタミン薬が奏功しない場合に使用します。

服薬後にかゆみについて患者さんに伺い、その患者さんが本当に服薬の必要性があるのかについても看護師としてモニタリングしますが、かゆみにはさまざまな原因があるので、医師に相談して原因を除外しながら原因にあったケアを行なうことが重要です。


東京慈恵会医科大学附属病院の写真

東京慈恵会医科大学附属病院

明治15年(1882年)、民間唯一の施療病院として開院。「病気を診ずして病人を診よ」という建学の精神で患者中心の医療をめざす。病床数は1,075床(一般1,026床/精神49床)を有し、特定機能病院をはじめ、地域周産期母子医療センター、地域がん診療連携拠点病院などに指定されている。

〒105-8471 東京都港区西新橋3-19-18


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