【連載】実践!エンゼルケア

第10回 エンゼルメイクの目的⑥エンゼルメイクは看取りの手段になるということ

執筆 小林光恵

「エンゼルメイク研究会」「看護に美容ケアをいかす会」代表

患者さんがご臨終を迎え、本人の人格やその尊厳を失わないよう、ご遺体がケアする人の手を離れるまでケアを行なう「エンゼルケア(逝去時ケア)」。本連載ではそのエンゼルケアの実践法を解説します。


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エンゼルケア(逝去時ケア)とは?目的・手順など


 エンゼルケア研究会の活動を続けてきた中で、さまざまな事例を通して見えてきたのが「エンゼルメイクは看取りの手段になる」ということです。

 エンゼルメイクには、シャワー浴や簡易シャンプー、お顔のクレンジングマッサージなども含まれます。これらには保清の目的もありますが、エンゼルメイクの場面、場面が、貴重な思い出になる可能性のある行為なのです。

エンゼルケアとは大事な看取りの事実をつくること

 エンゼルケアは看取りの場面と考えることが最も重要な点です。たとえばシャワー浴を行う病院の場合は、ご家族のどなたかに入っていただき一緒に洗ったりします。

 ここでは、エンゼルメイクが貴重な看取りの場面になったと思われるシーンをいくつかご紹介します。

洗髪シーンで

 エンゼルケア研究会では、簡易シャンプーを提案しています。髪の汚れは特に目立つところですから、できれば洗ってあげたいというお気持ちのご家族が多いです。

 ナースがシャンプーの段取りをして進めますが、髪を洗う段階でご家族に手を出していただきますと「まさか自分がこの手で頭を洗ってあげられるなんて思わなかった」とおっしゃいます。実はそれがとっても大事な看取りの事実(手段)になりうるのです。「この手で洗ったんだ」という記憶が何年もずっと残ることになるかもしれないのですから。

ご家族が洗髪しているイラスト
※イラストはイメージです

クレンジングマッサージシーンで

 お顔のクレンジングマッサージをご家族が実施することは少ないのですが、あるケースでは、奥さまを亡くしたご主人が顔を近づけて一所懸命に時間をかけてマッサージをしました。


 このクレンジングマッサージという手段がなければ、長時間奥さまのお顔にふれることはなかったかもしれません。マッサージを通して奥さまとコミュニケーションをとったことが、ご主人にとってその後何年も思い出に残る看取りの手段になったのではないかと想像しています。

ご主人がクレンジングマッサージを行っているイラスト
※イラストはイメージです

口紅を塗るシーンで

 口紅の色が決まり、ナースが紅筆に口紅をとり、どうぞとご家族にお渡しします。するとご家族は一所懸命に塗りはじめます。あるご家族は、唇に注目しながら「こんなこともあったね、あんなこともあったね」とおっしゃりながらなさいました。

ご家族が口紅を塗るイラスト
※イラストはイメージです

爪切りシーンで

 はじめは拒否をしていた息子さん。人の足の爪を切るなんて、やったことがないから出来ないとおっしゃっていました。それでも、どうか爪切りをしていただくよう頼みました。そうしたら渋々、爪切りをもってぎこちなくお父さまの爪を切り始めました。

 そうして一所懸命爪を切っているうちに、彼はお父さまの足をさすり始めました。さらには足に言葉をかけていました。

 何を話していたかわかりませんでしたが、一所懸命さすりながらずっと足に話をしていたそうです。そして爪切りを終えたあと、「爪切りをしてよかったです」と言われて爪切りをお戻しくださいました。

息子が爪切りを行っているイラスト
※イラストはイメージです

ネクタイをつけるシーンで

 ネクタイを輪っかにしてご家族に渡すと首にかけやすいです。あるケースでナースが、息子さんに「つけて差し上げてください」と、輪っかにしたネクタイをお渡ししました。

 それまでは余裕の態度で冗談まで言っていた息子さんでした。しかしネクタイを受け取って、いざお父さまの首にかけようとした瞬間に動作が止まってしまい、号泣してしまいました。

 悲嘆の感情を表出することもとても大事なことです。ネクタイをつけたあと、息子さんは「やってあげられてよかった」とおっしゃいました。

ネクタイを輪っかにしてご家族に渡しているイラスト
※イラストはイメージです

靴下をはかせてさしあげるシーンで

 子どもの時に、亡くなったおじいさまの靴下をはかせてさしあげたときの足の冷たさや感触を、大人になっても鮮明に覚えている方がいらっしゃいました。

 亡くなったその人のエンゼルメイクをする場面というのは二度とないわけですから、自分が行ったのだという実感をともなう看取りの手段はこうしてずっと記憶に残るものなのだと思います。

靴下をはかせてさしあげているイラスト
※イラストはイメージです

 ナースが行うのを間近でご覧いただくだけでも十分ですが、ご家族が行うエンゼルメイクはより実感のともなう看取りの場面につながるのです。

 特にお顔のエンゼルメイクはお顔自体がその人らしさや社会性が凝縮されているところです。肌の色、眉の形、唇の色など親しい方たちとお話をしていると、悲しい場面ではあるけれど、とてもなごやかな雰囲気になってきます。

 ナースの皆さまには、ぜひ「エンゼルメイク=看取りの場面」を意識して、担当していただきたいと思います。

次回は「エンゼルケアの料金設定」について解説します。

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