【連載】看護に役立つ生理学

第34回 消化の定義を考えてみよう!

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

消化器の機能は、数ある臓器系の中でもイメージしやすい反面、それがどのようにして実現されているのか、考えを巡らせることが少ないかもしれません。今回は消化器の機能を支える構造に注目し、単なる「現象」ではなく「機構」として消化器の働きを捉えられるようになりましょう。


消化と吸収

消化器の具体的な構造に触れる前に、消化の概念を整理しておきましょう。

「消化」とは、簡明に定義すれば「食物を吸収可能な形(=栄養素)に変化させること」です消化器の最終目標は消化ではなく吸収消化器の最終目標は消化ではなく吸収であって、どんなに食物の消化を徹底しても、それを吸収することなく排出してしまっては意味がありません。

逆に食物が何の前処理も経ずにそのままの形で吸収可能であったなら、消化という過程は必須ではありません。しかし現実には、吸収のためには入念な消化が必要であり、この前提があって初めて、先ほどの定義が意味をなします。

消化器は多彩なメカニズムによって食物を段階的に消化しており、その働きは「単なる前処理」と片づけるにはあまりにも大きな位置づけを占めています。

また、生体は栄養素をとり入れることでエネルギーを獲得しますが、そのための消化・吸収だけを見ればエネルギーを消費しているということも認識しておきましょう。

消化と吸収説明イラスト

物理的消化と化学的消化

消化を経なくては吸収が進まない理由の一つは、食物が管腔内に存在しても、粘膜に接触している部分しか吸収できないことです。

このため、食物を形態の上で細かく破砕してやることが、消化器の第一の使命となります。また、たとえ粘膜から近いところであっても、吸収不可能な物質が介在していると、やはり吸収が阻まれるという問題があります。

したがって、破砕されたものを混和する(かきまぜる)ことも吸収にとって大きな意味を持ちます。

このように、食物の形態は変えるけれども化学構造までは変化させないような消化の過程を「物理的消化(または機械的消化)」と呼びます。

消化管は破砕・混和を行うだけでなく、口側から肛門側に向かって食物を一定方向に輸送しなければなりません。

理論上は消化を全く伴わない輸送を想像することも可能ですが、実際には消化管運動によって両者は同時並行的に行われるため、ここでは輸送も物理的消化の一部と考えることにします。

以上のことを考えると、食物を歯によって破砕する「咀嚼」や、口腔から咽頭・食道を経て胃まで輸送する「嚥下」の段階で、すでに物理的消化は始まっているということがわかります。

例えばミキサー食の提供は、この物理的消化を代行したものと考えることができますが、残念ながらそれだけではただちに吸収できる状態にはなりません。

腸管粘膜は、比較的単純な限られた種類の物質しか吸収できないため、さらに化学構造を変化させて吸収可能なものにしてやる必要があります。

これが「化学的消化」であり、消化液に含まれる消化酵素によって行われることはよくご存知でしょう。

消化管自身ももちろん消化液を分泌しますが(胃液・小腸液など)、化学的消化に際しては唾液腺や膵臓など、メインルート(消化管)からは外れた副器官の働きも重要です。そこで、消化「管」と副器官を合わせて消化「器」と呼びます。

消化は以上のように、概念上は物理的消化と化学的消化に大別されますが、もちろん実際には消化管は消化液を分泌しつつ運動しており、両者を同時に行いながら徐々に消化を進めていきます。

なお、これらに加えて、腸内細菌による分解を「生物学的消化」と呼んで含めることもあります。

消化管を支える自律神経系

消化器の置かれた状況は食事中~後と空腹時とでは全く異なり、管腔を通過する食物の状態は刻一刻と変化します。

消化器には、この変化に迅速に対応して振る舞いを決定することが求められ、その実現には神経性の反射が大きな役割を占めています。

摂食・嚥下・排便など、一連の消化過程の初期と末期には意志によって(随意的に)コントロールできる部分がありますが、大半は不随意な作用であり、上記の随意的な作用にさえ、反射による機構が併存しています。


内臓の神経性反射には自律神経の存在が欠かせず、消化管も例外ではありません。一般に、自律神経の遠心路によって作動する代表的な組織といえば平滑筋と分泌腺です。

消化管は平滑筋を備え、その運動によって物理的消化を営み、同時に消化液の分泌腺を備えて化学的消化に寄与します。

その他にも、粘液分泌による消化の補助や粘膜の保護、また消化管血流を調節する血管壁の平滑筋の働きも見落とすことはできません。こうして見れば、消化管は自律神経に支配された組織の塊のような臓器であることがわかります。

よく知られているとおり、消化管の活動は原則として副交感神経刺激により亢進し、交感神経刺激によって抑制されます。

副交感神経の経路として最も重要なものは迷走神経です。脳神経核から伸びた迷走神経は、食道・胃のみならず、ずっと尾側にある小腸や大腸(さらには肝・胆・膵などの副器官)にまで枝を伸ばし、解剖学的には文字どおり迷走するかのように広範に分布しています。

消化管の末端部のみは、仙髄から伸びる骨盤神経が副交感神経としての経路を担っています。いっぽう交感神経は、これらの間のレベル(胸・腰髄)から、やはり広く消化器に分布しています。

このように、消化管の神経支配と言うと自律神経のイメージばかりが先行してしまいますが、実は消化管はさらに特徴的な神経系を備えているということを、次回から解説していきます。

(『ナース専科マガジン』2013年10月号より転載)

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