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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第27回 がんが疑われる胸のしこりに気づいてもすぐに受診しないのは?

解説 鷹田 佳典(たかた よしのり)

早稲田大学人間総合研究センター 招聘研究員 認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 運営委員

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。

そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


乳がんの場合、胸のしこりに気づいて受診したところ、がんが見つかるというケースがありますが、患者さんの中にはさまざまな事情で、異常に気づきながらもすぐには検査を受けない人もいます。それは、単に「がんと診断されたらどうしよう」という不安だけではないようです。

家族の介護や経済的負担を考えて先送りせざるを得ない人も

47歳のときに乳がんと診断された女性(インタビュー時54歳)
こちらをご覧ください
インタビュー動画
私は、平成13年にがん告知を受けました。その前に、主人ががんにかかっていまして。もう、私のほうも、そのときにある程度、自分の中では怪しいなっていうものはありましたが、なかなか病院に行く勇気はなくて、それから3年間、放っておきました。それで、もう、4期だったんですね。(中略)
もう私は、もう駄目だって自分で思い込んでいたもんですから、主人との生活を(新たに引越した)この部屋で2カ月間暮らして、もう私は死ぬんだなっていう、そんな気持ちで病院に行きました。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より

この女性は3年前から胸のしこりに気づいていて、「自分の中では怪しいな」と思っていましたが、「なかなか病院に行く勇気」がありませんでした。さらに、夫ががんで療養中だったことや、その夫の退職、引越しも重なって忙しく、受診しないまま時間が過ぎていきました。

しかし、その間、症状は確実に進行していきました。そして、胸が陥没し、患部から膿が出て、痛みも強くなり、「どうしてももう我慢できなくなって」検査を受けたところ、ステージⅣの乳がんと診断されました。


42歳のときに乳がんと診断された女性(インタビュー時42歳)
こちらをご覧ください
インタビュー動画
診察を受けるまでの期間というと、最初に自分で気が付いてから、気が付いたのが11月で、年が明けて健康診断に行ったのは8月なので、10カ月近くは何もしていない状態でした。
まず、踏ん切りが付かなかったというのもありますし、あと、経済的なことを考えると、ちょっとその時の状況で、もし、進んだがんだった場合に、家族が病気療養をしてましたので、…かなりちょっと経済的な負担が大きくなるだろうというのと。
少しそこまでに、自分のことに使うまでの余力をちょっと付けるために、仕事を優先しようと思ってました。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より

この女性も左胸に異常を感じ、インターネットなどで調べて乳がんを疑いましたが、当時病気療養中の家族がおり、また、がんと診断されて治療が始まれば、手術や入院などの医療費もかかるため、すぐに検査を受けて治療することは「ちょっと考えにくかった」と話しています。

このように、患者さんには、体の異常に気づいていても、家族のケアや退職、引越し等のライフイベントが重なってしまってなかなか受診のチャンスがなかったり、経済的な負担を考慮して受診を先延ばしにせざるをえないことがあります。

医療者の立場からは「なぜもっと早く検査を受けなかったのか」という気持ちになるかもしれませんが、患者さん自身も、どこかで「もっと早く受診していれば」という後悔の気持ちを抱いていることが少なくありません。

まずは、そうした気持ちにしっかりと寄り添い、患者さんの声に耳を傾けることが必要でしょう。また、受診までの経緯は、これからの療養生活を支えるうえで参考となる患者さんの生活状況や病気との向き合い方を知る重要な手がかりとなります。
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