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【連載】Dr.パクのドタバタ離島医療奮闘記

第16回 医療者らしく振る舞うということ―患者との信頼関係を築くには

執筆 朴 大昊(ぱく てほ)

鳥取大学医学部地域医療学講座 助教

Paku

看護師は夜勤のラウンドや訪問看護など、患者さんの健康状態を確認する機会が多くありますが、患者状態を適切に判断するためには、プライマリ・ケアの技術が大いに役立ちます。

本連載では、拠点病院などによる後方支援を期待できない土地で、医療・検査機器などもない患者宅で医療を提供する「へき地医療」を通じ、“究極のプライマリ・ケア”と地域医療の実際を解説します。


1年前の自分が恥ずかしい

みなさんは恥ずかしい過去をもっているでしょうか?
昔のテレビ番組で、日本の大学進学を目指して日本でアルバイトをする中国人留学生を追いかけたドキュメンタリーがありました。

最後に夢の第一歩となる大学合格を果たしたとき、彼は「1年前の自分が恥ずかしい」と言ったのを強烈に覚えています。

こうした過去の自分への「恥ずかしい」という感情は、自分が四苦八苦もがいて成長して、その先で感じる感情なのかもしれません。

波照間島に来て、そこで医療をしていると、いわゆる“島医者っぽく”ありたいとか、早く信頼されたいとか、見方によっては非常にエゴイスティックな感情にもなります。

「地に足ついてる?」とか「まだ来たばかりでしょ?」とは誰も注意してくれません。時間をかけて徐々に島の人ともお互い見知ってきますので、それなりに“島医者っぽく”振る舞うことができるようになっていきます。

医師も人間なので

私が島に来て1年が経過した頃(この頃にはすっかり自称“島医者っぽく”なっていたことと思います)、波照間島は医療関係者のいう、いわゆる“荒れて”いる状態でした。

時間外の急患や重症患者が立て続けに発生し、少ない月で10件強しかない時間外の呼び出しが、細かいものを入れると1週間で20件という状態が約1カ月ほど続いていたのです。

私が来てから、今までになく急患の発生が少なくなったといわれていましたが、このときばかりは少し“荒れて”いました。

少しイライラしたり余裕がなかったようにも思いますし、それこそ以前書きましたユタにでもお祓いしてもらいたいと思ったぐらいです。
(月に80時間の時間外対応、年間50件以上ヘリ搬送をしている一人島医者もいます。ゴメンなさい)。

患者との関係が変わるとき

そんな頃、ある患者さんが受診されました。

普段から頻回受診気味のその人は、診察してもいつも要領を得ません。なんだか調子が悪い。ふらふらする。「はぁ……」といつも診察室では不満顔で、受診することでよくなるわけではなくても、なかなか帰ろうとはしません。

よくならない患者さんや不満が溜まっている患者さんの診察が続くと、医療者にも疲れがたまってきます。

そんなとき、ふとしたことがきっかけで、患者さんが家庭に複雑な問題を抱えていることを吐露しました。家庭に大きな問題があって自分の病気を振り返っている時間もない、むしろそれこそが病の原因だったのです。

“らしく”振る舞うことだけが、患者さんとの信頼を築く方法ではない

私は当然それまでも“島医者らしく”患者さんの社会背景や家族背景などもケアしているつもりでしたが、医者が聞いても患者さんが真実を語るとは限りません。語れるとき、語れる相手にしか語らないものでしょう。

別にその患者さんに限ったことではありません。
地域に根ざした診療をしている医師は、離島に限らず、関係の継続性のなかで患者さんとの信頼関係を築いていきます。

同じ外来にずっと来ているだけではなかなか関係性のブレイクスルーは難しいかもしれませんが、ほんのちょっとしたきっかけが、患者さんとの関係を大きく変えることがあります。

それは患者さんが急病になったときかもしれませんし、近い親族が亡くなったときかもしれません。島の祭りかもしれないし、集落の掃除をしているときかもしれません。

この変化に至るまでには、単純に継続する物理的な時間が必要なだけでなく、心理的な密度の濃さも影響します。簡素な医師患者関係の外来何年分もの濃密な時間が、島の生活にはあったように思うのです。

私は島にたかだか1~2年いただけで信頼関係が築けるとはいいません。
ただ、家族にも言えない、友達にも言えない、医療者だからこそ言えることもあるのだと気がつきました。

逆にいうと、島医者の難しいところは、濃密であるがゆえに、医療者だから言えたはずのことが、友達や家族になってしまうことで言えなくなってしまうリスクをはらんでいることです。

ともかくそれに気づいたとき、私はそれまでの自分のスタンスを恥じました。
人のこと、島のことをわかったように振舞っていた、エゴイスティックな自分を恥じました。

医療現場でもよく「あの人は〜だから」とか「シンプルな高血圧」ということがあります。便宜上やむをえないのは承知の上ですが、やはり違和感を感じます。

その人の何を私は知っているんだろう。振り返れば自分だってそうです。
誰しも語っていない青春やつらい経験、家族の秘密だってあるはずです。

10キロ平米程度の小さな島でしたが、その小さな社会で、自分の見ている世界はほんの一部に過ぎず、本当はもっと広く多面的で複雑であることに気づかされたのです。


島の中心部