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【連載】慢性肝疾患由来の皮膚そう痒

慢性肝疾患が原因となる皮膚そう痒へのケアの実際

解説 小林 雅代(こばやし まさよ)

東京慈恵会医科大学附属病院看護部主査 皮膚・排泄ケア認定看護師

解説 高橋 香織(たかはし かおり)

東京慈恵会医科大学附属病院看護部主任

慢性肝疾患の症状は多岐にわたり、なかでも皮膚そう痒は患者さんからの訴えが多い症状です。患者さんは低栄養状態であることが多く、免疫機能の低下や創治癒の遅延がみられ、掻破部からの感染を起こしやすく、重症化しやすい状態にあります。

そこで今回は、消化器病棟主任の高橋香織さんと、皮膚・排泄ケア認定看護師である小林雅代さんに、皮膚そう痒のケアの実際について、症例を通してお話を伺いました。


【症例】
Aさん、60歳代、男性、肝硬変(C型肝炎)。元・会社員であり、40代でC型肝炎を発症し、外来フォローしていたが、2015年に入り肝機能の低下を認め、腹水コントロール目的で入退院を繰り返すようになった。その頃から皮膚そう痒が出現、4月の外来受診時に体幹に掻破痕が多く認められたため、尿素配合のローションが処方された。さらに6月には抗アレルギー薬が処方されたが、症状はあまり改善せず、睡眠中に掻きむしり下着が血液で汚れることもしばしばあった。
【既往歴】脳出血(後遺症なし)。【家族背景】妻、子ども(2人)


ローションで改善しない皮膚そう痒にどのようなケアを行いましたか?

高橋: 私は、Aさんが腹水コントロールで何度目かの入院をしたときからかかわりました。肝疾患の治療をされており、持参薬としてローションを使用していることと、外来で医師が体幹の掻破痕を確認していたことから、皮膚そう痒へのスキンケアが必要と判断しました。

スキンケアでは、保湿と保護が中心となりますので、入院時は患者さんだけでなく、下着などの衣類選びや背中に保湿薬を塗るといった日々のケアをされている奥様にも、保湿薬の塗り方、入浴時の湯温、室温・湿度の管理の仕方、木綿の下着の着用などについて、機会をみつけてお話しするようにしました。

小林: Aさんは入退院を繰り返していましたので、その都度、病棟と外来の看護師がAさんの情報を共有し、ケアを継続してきました。しかし、指導を行ってもそう痒感はなかなか改善せず、スキンケアの継続に疑問をもたれることもあったようです。

そこで外来看護師が、皮膚・排泄ケア認定看護師へのコンサルテーションを依頼し、私が介入することになりました。

スキンケアをしなければ乾燥によりそう痒感がさらに強くなったり、皮膚損傷などのスキントラブルを招くおそれがあるため、三者それぞれで連携して、皮膚の保護や保湿が欠かせないことを粘り強く患者さんに指導し続けました。

小林 雅代さんと高橋 香織さんの写真
左:小林 雅代さん、右:高橋 香織さん


【症例つづき】
その後も抗アレルギー薬やケアだけでは症状に改善がみられず、Aさんの苦痛も強かったため、これまでとは異なる新しい作用機序を持つ止痒薬が処方された。すると同薬の投与後には、Aさんより「ぜんぜん痒くない」という発言がみられるほどの皮膚そう痒の軽減が認められた。


その後もAさんには、スキンケアを継続したのでしょうか?

高橋: 皮膚そう痒は改善しましたが、その結果、Aさんはスキンケアそのものをやめてしまう、という新たな問題が生じました。

小林: 肝疾患が原因であった皮膚そう痒は改善したとはいえ、外来で観察すると、Aさんの皮膚には強い乾燥と掻破した白い痕が認められました。全身に高度な浮腫が出現してきており、この結果、皮膚は薄く脆弱な状態で、疾患の進行にともなう易感染性や出血傾向も亢進しているため、皮膚の損傷による感染リスクはさらに高まっていました。そこで感染予防のためにも、スキンケアを続ける必要がありました。

スキンケア中断の理由をAさんに聞くと、「べたつくことが嫌だ」という声も聞かれたため、処方されているローションに加えて、伸びがよく使用感の良い市販の保湿薬の使用を勧め、奥様には塗り方を指導しつつ、スキンケアの重要性を再度お伝えするなど、繰り返し指導を続けました(図)。

慢性肝疾患が原因の皮膚そう痒へのケアの過程説明図

慢性肝疾患が原因となる皮膚そう痒をもつ患者さんへのケアで大切なことはなんですか?

高橋: スキンケアが必要な患者さんには、家族の協力を得て、それぞれの生活に合った継続可能なセルフケアを指導することが最も大切です。

これまでも痒みに対するスキンケアでは、ヨモギや重曹・ハッカ油などが一般的に使われてきましたが、多くは一時的に症状が改善しても効果が持続せず、したがってケアも継続できずに悪化を繰り返してしまいました。このようなときには、病棟や外来で患者さんにかかわる医療従事者が互いに連携し、継続できるセルフケアの方法を模索していく必要があります。

小林: 患者さんは、ついつい痒みに対して諦めてしまい我慢しがちですが、医師のほうでも仕方ないものだと思いがちです。しかしレミッチ®のような薬も認可されはじめ、患者さんの訴えに耳を傾けるとともに薬物療法とスキンケアを両立させることで、今まで以上に皮膚そう痒の症状コントロールは可能になることが期待されています。

皮膚そう痒が、いかに患者さんの生活の質を脅かすものであるかという問題意識をもち、患者さんと家族に働きかけて、積極的にスキンケア指導を行っていくことが重要です。そのためには、外来の看護師も病棟の看護師も、私たち皮膚・排泄ケア認定看護師をどんどん活用し、積極的にコンサルテーションを依頼してほしいと思います。


東京慈恵会医科大学附属病院の写真

東京慈恵会医科大学附属病院

明治15年(1882年)、民間唯一の施療病院として開院。「病気を診ずして病人を診よ」という建学の精神で患者中心の医療をめざす。病床数は1,075床(一般1,026床/精神49床)を有し、特定機能病院をはじめ、地域周産期母子医療センター、地域がん診療連携拠点病院などに指定されている。

〒105-8471 東京都港区西新橋3-19-18


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