【連載】看護に役立つ生理学

第37回 炎症ってどういうこと?急性炎症・慢性炎症

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

「炎症」という概念がカバーする現象の範囲はあまりに広く、原因も多岐に渡ります。本来は複雑なはずの病態も、一概に「炎症を起こしている」と表現されるとわかったような気になってしまいますが、「具体的に何が起こっているのだろうか?」という疑問を少しだけ掘り下げて、より正確な炎症のイメージをとらえましょう。


【目次】


炎症とは?

炎症は定義が難しい

炎症(inflammation)は、その語の中にflame(炎)が見えるとおり、「赤く腫れ上がって熱を持った状態」を、炎の燃える様子になぞらえて表現した言葉です。

「発赤・腫脹・熱感・痛み」といった炎症の代表的な徴候は二千年前から記載されていますが、「炎症とは何か」という定義はきわめて難しい問題です。

これらの徴候は、主として「生体が侵襲を受けたときに共通して現れる変化」として経験的に知られてきたために、とりあえず「炎症」という名前が付けられ、ひとまとまりの症候概念として理解されてきました。

その後、炎症の機序が少しずつ解明されると同時に、種々の疾患が実は炎症性変化を伴っているということが明らかになり、炎症に対する理解はそれに従って変化していきました。

上記の古典的な徴候の記述は、現在の目で見れば「炎症の結果として表面に現れる現象しか捉えていない」という欠点があるものの、現象論だからこそ、現在でもそのまま通用するという地位を保っています。

一方「炎症が何のために起こるのか」というのも、これまた難しい問題ですが、「防御」や「修復」といった言葉で説明されるのが一般的です。

炎症の場には白血球を初めとした免疫に関与する細胞が集積することからもわかるように、免疫反応の一環として炎症を理解することができます。

免疫機構においては、異物を認識して攻撃・排除する「特異性」が大きな特徴です。しかし、特にその初期の段階では、原因や病原体の種類にかかわらず、ある程度共通した反応が見られます。前述のような徴候は、主にこの急性期における変化をとらえて記述したものですが、一方で末期の修復の段階や慢性期にも、やはり共通点が見られます。

このように、免疫反応のうち比較的特異性の低い一連の症候を「炎症」と呼ぶのだと、とりあえず理解して先に進みましょう。

急性炎症ってどうやって起こるの?

急性炎症の主役は血管の変化

炎症の厳密な定義や意義はひとまずおいて、実際に起こっている現象の機序に注目してみましょう。

先に挙げた徴候のうち「発赤・腫脹・熱感」はいずれも、局所の血流が増加し、さらに血管内から血管外(細胞間)に血漿成分が滲出することによって生じた結果です。

炎症の最初期から見られるこれらの変化は「局所の循環の変化」としてまとめることができます。

炎症の起こり始めた局所における「細動脈→毛細血管→細静脈」という微小循環系では、動脈側の拡張により血流が増加し、その結果、毛細血管や静脈側も拡張して充血をきたします。

さらに、血管内皮細胞どうしの隙間が開大して、血漿成分(水やタンパクの分子)が滲出し、また好中球などの細胞成分までも遊出してきます。

これらの変化は、傷害部位の防御・修復にあたる細胞を動員するという観点からは、合理的であると考えることができます。
急性炎症時の微小循環解説図
図 急性炎症時の微小循環

炎症に関与する細胞とケミカルメディエータ

急性炎症の徴候の多くは血管内皮細胞にそのメカニズムを求めることができますが、では血管内皮細胞は何を契機として変化を起こし始めるのでしょうか?

このように次々に原因を追究していくと、複雑な炎症のシステムが浮かび上がってきます。複雑すぎて手に負えないほどですが、大きな枠組みとして、炎症に関与する「細胞」と、それらが産生・分泌する「物質」とに分けて考えましょう。

一例を挙げると、炎症の最初期には、侵襲の起きた組織に存在している肥満細胞という細胞がヒスタミンなどの物質を産生・放出し、これが血管内皮細胞に作用して、血管の透過性を高める原因のひとつとなります。

その一方で血管内皮細胞自身が、単なる「壁」として受動的に働くだけでなく、種々の化学物質を分泌しています。

これにより、好中球が炎症部位に接着・遊走して異物の貪食に当たるなど、初期の非特異的な免疫反応が始まります。

さらにこの好中球や、もともと組織に存在していたマクロファージなどの細胞が別の化学物質を放出し……といった連鎖的な反応によって、やがてリンパ球を主役とした特異的な免疫応答や、全身性の変化引き起こされます。

このような、炎症に関与する細胞の間で媒体(media)の役割を果たす化学物質のことを「ケミカルメディエータ」と呼び、その種類は現在見つかっているものだけでもきわめて多数にのぼります。

物質名を逐一記憶する必要はありませんが、「炎症とは細胞とケミカルメディエータによって動的に展開されてゆく一連の過程である」というイメージを持っておきましょう。

血管透過性の亢進による変化説明図
図 血管透過性の亢進による変化

慢性炎症ってどういう状態?

炎症のもう一つの姿

これまでに触れた炎症の徴候はいずれも、急性期の変化に限定されたものでした。経過が良好な場合には、やがて炎症は沈静化して治癒に向かいますが、時には慢性的な炎症状態に移行することがあります。

その原因は、自己免疫性疾患による持続的な炎症刺激や、結核・梅毒などの一部の感染症、あるいは急性炎症と治癒が反復した場合など、さまざまなものがあります。いずれにせよ、その姿は急性期のそれとはかなり様相の異なったものとなります。
 
慢性炎症の主役を演じる細胞のひとつがマクロファージです。この細胞は、炎症が長期戦になると組織に残留して大型化し、傷害された組織細胞の処理に当たります。

それによって生じた欠損部には、正常細胞が再生して治癒するのが理想的ですが、それが追いつかない慢性炎症においては、代わりに肉芽組織を形成して補うことになります。

マクロファージはそのために血管内皮細胞や線維芽細胞を刺激し、増殖を促す役割も果たしています。

このように、慢性炎症の標準的な病態を一言で言えば「増殖性炎」と表現することができます。結核やサルコイドーシスなど、特定の疾患において見られる「肉芽腫性炎」は、この増殖性炎のさらに特殊な一形態です。

「肉芽組織・肉芽形成」という言葉が、通常の炎症の瘢痕治癒過程や慢性炎症で見られる像を意味するのに対し、「肉芽腫」と言えば、上記のような特定の病理像を指すことに注意してください。

慢性炎症時のマクロファージの動き説明図
図 慢性炎症時のマクロファージの動き

炎症の活動性の指標として用いられるCRP

炎症の活動性の指標として用いられる検査項目と言えば、CRP(C reactive protein:C反応性タンパク)がきわめて有名です。この物質を通して、急性期の炎症反応の「その後」の理解を深めることができます。

 ケミカルメディエータによって局所で展開された炎症・免疫反応は、やがて全身にも影響を及ぼし始めます。まずは単球・マクロファージが中心となって、インターロイキン1などを分泌し、体温の上昇をもたらすと同時に、肝臓に対しても働きかけるようになります。肝臓はこれを受けて種々のタンパク質を合成し、やがてそれらが全身の血中を巡ることになります。そのようなタンパク質のひとつが、CRP にほかなりません。このことを考えると、臨床においてCRP 上昇の見られるタイミングが、感染成立の直後ではなく、発熱や白血球増多に少し遅れて見られやすいことにも説明がつきます。CRP は単に炎症の指標として有用であるだけでなく、それ自体が免疫系の一部を活性化させる働きを持っています。


 なお、「C反応性」のCとは、ある種の細菌の細胞壁に存在する「C多糖体」と呼ばれる物質のことで、CRP はこの物質に結合することが知られていたために、このような名前が付いています。なぜCという文字が用いられたのかは、今となっては定かではありません。実際にはCRP は細菌感染だけでなく、さまざまな原因による炎症で非特異的に上昇するため、残念ながらCRP だけで原因を推測することは困難です。

(「ナース専科」マガジン2013年12月号から転載)

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