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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第31回 人生の終わりを締めくくる意思決定について考える

解説 射場 典子(いば のりこ)

認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 理事 聖路加健康ナビスポット るかなび コーディネーター

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。

そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


認知症に限らず、終末期の意思決定は、生の尊厳について改めて考えさせられる、大切で、かつ悩ましい問題です。

認知症の進行によって、誤嚥や嚥下障害を起こし、「口から食べる」ということが難しくなり、胃ろうを造設するかどうかといった選択を迫られたとき、家族は何を考え、どのようなプロセスで決断をしたのでしょうか。

食べられなくなったら、どうする?その人らしく生きることを支えるには

若年性アルツハイマー型認知症の夫を介護していた女性(インタビュー時62歳)
こちらからご覧ください
インタビュー動画
主人からは「胃ろうはしたくない」っていうのは、私、言われてたんですね。(中略)で、私1人で主人が言ってたからって決めるのもっていうのがあったので、子どもたちにも主人が言ってたことは言わないで、「医者から胃ろうじゃないともう無理だって言われてるんだけど、どう思う」っていう話をしたんですね。で、子どもたち2人も「お父さんらしくないね」って。

食べることにすごく興味のある人だったんですね。(中略)おすし屋さんに行っても、もう本当ネタをすごく刻んでくださって、それをちょっととろみつけたら食べてたんですね。で、うなぎもおいしいうなぎ屋さんだと食べてたんですよ。だから「食べることが好きだった人に胃ろうしたら、お父さん、食べることの楽しみがなくなる。だからお父さんは好まないんだろうね」って、子どもたちにも言われたんですね。

で、そこで、「いや、実はお父さん、こう言ってたんだ」って言ったら、「じゃあ、もう悩むことないじゃない」っていう子どもたちの返事もらったんです。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 認知症の語り」より


レビー小体型認知症の父親を介護していた女性(インタビュー時62歳)
こちらからご覧ください
インタビュー動画
救急車で搬送されて、で、そのときに、(搬送先の)先生のほうから「何で、早くに胃ろうにしなかったんですか」っていうようなことを言われて。(中略)

主治医の先生にすぐ電話して、相談して、……とにかく先生はね、本人に確認するのが第一で、レビー(小体型認知症)だから(判断)できるから、覚醒しているときを狙ってって言われて。(中略)

で、覚醒してるときに、「お父さん、こういう理由で栄養が取れないから、胃ろうを付けたいと思うんだけども」って言ったら、父が「自分も水を飲むのも大変だった」と。「まだ生きれる。だから頑張りたい」って本人が言ったんで、私もちょっとびっくりはしたんですけど、……「お願いします」って、胃ろうを付けたんです。。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 認知症の語り」より


胃ろうの問題は、その人の生と死を左右するような命の問題であり、決断することは容易ではありません。今回、紹介した語りは認知症の種類や本人の意思を確認した時期・状況は違いますが、どちらも本人の意思がわかっていて、「その人らしく最期まで生きる」ことを支える決断をしています。

しかし、たとえ意思がわかっていても、本当に良いのか迷ったり、家族間でも思いが異なり、身近にいない家族は本人の意思と言われても実感が持てないこともあります。まして本人の意思がわからない場合、生と死に直面した決断をしなければならない家族は、相当なストレスを体験しています。

インタビューに答えてくださった人の中には、医療者に答えを急かされたり、暗に誘導されたり、辛いときに心無い言葉を受けていた人たちもいました。自分の決断が正しかったのか、患者さんの死の悲しみに加えて、周りからの非難で後悔の念に悩まされた人もいました。

決断のプロセスでは医学的な情報提供だけでなく、患者さんの「その人らしさ」について家族の話を聞くことも援助のひとつとなります。また看護師は患者さんの経過の先を見通し、時が差し迫る前に患者さんとご家族の意思を確認する機会が持てるよう、働きかけることが大切となります。

最近では、終活やエンディングノートという言葉が聞かれるようになり、リビング・ウィルや事前指示(アドバンス・ディレクティブ)として、終末期の医療について意思表明ができるようになりました。状況は異なりますが、ぜひ一度、自分や自分の家族と、こういった話をしてみることをお勧めします。患者さんやご家族の思いを考える機会になるとともに、自分の価値観に気づく機会にもなるのではないでしょうか。


「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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