1. トップ
  2. 看護記事
  3. 看護クイズ・読み物
  4. 患者インタビュー
  5. 第34回 「大丈夫ですか」の一言もなく淡々と…看護師としてどう思う?

【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第34回 「大丈夫ですか」の一言もなく淡々と…看護師としてどう思う?

  • 公開日: 2016/4/8
  • 更新日: 2021/1/6

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


 患者さんが外来で初めて診断名を聞く。次に入院してこられるときには、既に治療の目的がはっきりしている状況です。

外来看護の機能や相談支援の充実が図られている昨今ですが、この間どのような心情を経験しているのか、患者さんの語りには示唆に富むものが多く含まれています。

自分のとった行動に意識的でありたい

病気の説明を受けた直後の場面について、ある方は次のように話しています。

27歳で乳がんの診断を受けた女性(インタビュー時33歳)

インタビュー動画

(前略)その手足がかたかた震えだして、涙はやっぱり出ないんですけども怖くて怖くって、もう手がすごく震えだしたのを覚えています。で、そうしていたら、看護師さんが入ってこられたので、少し、ほっとして。あ、看護師さんがきっと慰めてくれるんだろうと思って、期待して待っていたんですけど。「10日後に手術がもう決まりましたので、今から入院説明を始めます」っていう、「大丈夫ですか?」の一言もなく、ほんとに淡々と説明が始まったので、自分も「はい、はい」って聞いてはいたんですけど、全く頭に入らなくて。で、一通り説明が終わって、で、看護師さんがおっしゃったのが「今は、動揺しているでしょうから、あとで、この紙、読んどいてください」って置いていかれて、そのまま、またいなくなられて。で、「あれー?」って、「慰めてくれるもんじゃないんだな」とそのときすごく感じたのを覚えています。


「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より


 私は、この語りを聞いてショックを隠せませんでした。そして、少なからず自分のかかわった病名説明の場面、また自分が患者として受療した際の同様の場面を思い起こしました。

 私は、看護師の方々とこのような患者さんの語りを読みあって、思いを共有する活動を行っています。その際看護師から出てくる言葉は、「かかわりたくても時間が無い」「継続できないなら(踏み込むことを)あえてやめておこうと思ってしまう」などの後悔、反省が少なくありません。あらためて現場の苦しい気持ち、悩みつつ前に進もうとする気持ちを共有させていただけることに力強さを感じるとともに、気持ちを分かち合うことで何か解決の糸口が見いだせないかを考えます。

 私も以前、「患者さん、今どう思っただろう」「来週の外来までどうやって過ごすだろう」と後ろ髪をひかれつつ、機械的・あとまわしの対応となったことがいくつもあります。自分の力量に自信がなかったり、継続してケアを行うシステムが充分でないなどと他の理由をつけたりしていたことも否めません。
 私たちにとってそれは多数のうちの一場面であっても、患者さんにとって同じ時間、同じ場面は二度とないと言えるでしょう。看護とは一回性の営みであり、私たちのかかわりが瞬時瞬時の積み重ねであるゆえんであると思います。
 

病名を知った時、またその後日常生活を続ける中で、患者さんがどのように思い病気と向き合っているかを知ることは簡単なことではありません。それは、自分の気持ちもそうであるようにずっと一定であるものでもありません。交代勤務の中で、常により良い方法を考え、一定の質を保ちつつメンバー間でそれらを共有することは、本当に難しいことです。

 しかし、その後のかかわりや効果的なケアが可能かどうかはさておき、自分の取った行動がどうであったかについては、意識的でありたいものです。あえて関わらなかったのか、残念ながら“今日は聞き流す”結果となってしまったのか、そこにスタッフ間でどんなケアの判断があったのか…などについて、私たちは振り返ることを忘れてはならないと思います。
 おそらく先の当事者の方然り、多くの方はこの時に抱いた感情を私たちに教えてはくれません。“苦情申し立て”のような場を容易にもたない私たちは、これら届かない患者さんたちの声に、どうすればアクセスできるでしょうか。

自分の関わり方を振り返る材料として、患者さんの語りや闘病記に触れながら、ギャップを埋めることに少しでもつながらないか、考えあぐねる日々が続きます。    


「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)

英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

この記事を読んでいる人におすすめ

カテゴリの新着記事

【書籍紹介】認知症本人やその家族介護者の思いを知って、看護に役立てよう

認知症本人やその家族介護者の思いを知って、看護に役立てよう この本は、ディペックス・ジャパンが運営するウェブサイト「健康と病いの語りデータベース」に収録されている中から厳選された200の語りを紹介しています。 ディペックス・ジャパン(DIPEx-Japan

2017/2/9

アクセスランキング

1位

心電図でみる心室期外収縮(PVC・VPC)の波形・特徴と

心室期外収縮(PVC・VPC)の心電図の特徴と主な症状・治療などについて解説します。 この記事では、解説の際PVCで統一いたします。 【関連記事】 * 心電図で使う略語・用語...

250751
2位

【血液ガス】血液ガス分析とは?基準値や読み方について

血液ガス分析とは?血液ガスの主な基準値 血液ガス分析とは、血中に溶けている気体(酸素や二酸化炭素など)の量を調べる検査です。主に、PaO2、SaO2、PaCO2、HCO3-、pH, ...

249974
3位

人工呼吸器の看護|設定・モード・アラーム対応まとめ

みんなが苦手な人工呼吸器 多くの人が苦手という人工呼吸器。苦手といっても、仕組みがよくわからない人もいれば、換気モードがわからないという人などさまざまではないでしょうか。ここでは、人工呼...

250017
4位

吸引(口腔・鼻腔)の看護|気管吸引の目的、手順・方法、コ

*2022年12月8日改訂 *2022年6月7日改訂 *2020年3月23日改訂 *2017年8月15日改訂 *2016年11月18日改訂 ▼関連記事 気管切開とは? 気管切開...

250001
5位

SIRS(全身性炎症反応症候群)とは?基準は?

*この記事は2016年7月4日に更新しました。 SIRS(全身性炎症反応症候群)について解説します。 SIRS(全身性炎症反応症候群)とは? SIRS(全身性炎症反応...

250839
6位

採血|コツ、手順・方法、採血後の注意点(内出血、しびれ等

採血とは  採血には、シリンジで血液を採取した後に分注する方法と、針を刺した状態で真空採血管を使用する方法の2種類があります。 採血の準備と手順(シリンジ・真空採血管) 採血時に準備...

250858
7位

心電図の基礎知識、基準値(正常値)・異常値、主な異常波形

*2016年9月1日改訂 *2016年12月19日改訂 *2020年4月24日改訂 *2023年7月11日改訂 心電図の基礎知識 心電図とは  心臓には、自ら電気信...

250061
8位

サチュレーション(SpO2)とは? 基準値・意味は?低下

*2019年3月11日改訂 *2017年7月18日改訂 *2021年8月9日改訂 発熱、喘息、肺炎……etc.多くの患者さんが装着しているパルスオキシメータ。 その測定値である...

249818
9位

第2回 全身麻酔の看護|使用する薬剤の種類、方法、副作用

【関連記事】 *硬膜外麻酔(エピ)の穿刺部位と手順【マンガでわかる看護技術】 *術後痛のアセスメントとは|術後急性期の痛みの特徴とケア *第3回 局所浸潤麻酔|使用する薬剤の種類、実施方...

295949
10位

第2回 小児のバイタルサイン測定|意義・目的、測定方法、

バイタルサイン測定の意義  小児は成人と比べて生理機能が未熟で、外界からの刺激を受けやすく、バイタルサインは変動しやすい状態にあります。また、年齢が低いほど自分の症状や苦痛をうまく表現できません。そ...

309636