【連載】看護に役立つ生理学

第41回 なぜ性周期は難しいのか?

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

性ホルモンによって精緻にコントロールされる女性の性周期。その概要は生理学の基礎知識のひとつですが、ひとまわりのサイクルを順序立てて説明できる自信のある人は少ないかもしれません。今回は性周期にかかわる内分泌系の知識を、見通し良く整理してみましょう。


卵巣の2つの役割

初めに、性周期の理解を難しくしている原因を探りましょう。
これはそのまま、女性の生殖・内分泌機能の特色を知ることにつながりますから、詳しく見る価値があります。最小限の登場人物(臓器)を列挙すると、「視床下部・下垂体・卵巣・子宮」の4つとなります(図1)。

これらは内分泌系の原則どおりに階層構造をなしており、最高中枢が視床下部、その直下に下垂体が控えています。いっぽう最下位の標的臓器は子宮であり、子宮自身はホルモンを分泌していません。これだけならば理解しやすいのですが、事を複雑にしているのが卵巣の存在です。

卵巣の主たる機能は、その内部で卵細胞を成熟させて排出することであり、これは下垂体からのホルモンによって制御されていますから、その意味では卵巣は子宮と並ぶ標的臓器です。
しかし、卵巣はそれ自身がホルモンを分泌し、子宮に対して「自分とタイミングを合わせて変化せよ」という指令を出します。卵巣と子宮が足並みを揃える理由はもちろん、排卵後に受精が起こった場合に備えて、受精卵が子宮に着床できる状態を整えておく必要があるからです。

これを実現するためには、「下垂体が卵巣と子宮のそれぞれに指令を出して同期をとる」という設計も可能だったかもしれません。たしかに下垂体が分泌するホルモンの中には、子宮に直接作用するものもありますが、子宮の周期的な変化は、卵巣を介した間接的な作用によってもたらされています。このように卵巣は標的臓器として制御を受けつつ排卵を遂げるのに並行して、内分泌腺としての役割をこなすという二面性があります。

女性の生殖内分泌にかかわる臓器とホルモン説明図
(図1)女性の生殖内分泌にかかわる臓器とホルモン

卵胞と黄体

卵巣で内分泌を担当する具体的な組織が「卵胞」と「黄体」です(図1)。卵胞はその名の通り、形態上は卵細胞を包む袋で、これが破れて排卵が起こり、その後は黄色味を帯びるために「黄体」と呼ばれるようになります。ここできわめて重要なことは、「卵胞はただのカプセルではない、黄体はただの抜け殻ではない」という点です。

これらはれっきとした内分泌器官ですが、下垂体ホルモンの作用により、通常の内分泌腺では考えられないような著明な変化(形態を含む)を見せ、排卵はその中で最も劇的なものといえます。

それとともに、卵胞や黄体が分泌する複数のホルモンの血中濃度は目まぐるしく変化し、さらにそれがフィードバック機構によって上位のホルモンに影響します。一般に内分泌系には、変化を引き戻して恒常性を維持する方向に働くネガティブ・フィードバック機構が備わっており、生殖内分泌系も例外ではありませんが、ことに排卵の際には、それとは反対に変化を増幅させる方向に働くポジティブ・フィードバックが寄与しています。

卵胞と黄体説明図
(図2)顆粒膜・莢膜は協同してホルモンを合成・分泌し、排卵後はこれらの膜が変化して黄体を形成します

どこが始まりか?

 性周期を理解するためには、これらの複雑なホルモン動態を追いかけることが不可欠ですが、一周期に明確な初めと終わりがあるわけではないため、どこから因果関係を考え始めればよいのかわからない、という難しさもあります。

 便宜上は「性器出血の出現」という形で特定できる月経初日が「第1日」とされていますが、これは性周期の一断面に過ぎません。そもそも生殖にかかわる器官たちは、相互に作用しつつ、めいめいが周期的変化を行なっており、「性周期」といえばその全体像を指すと考えるべきです。
 
 その中で、幸運にも外から見える形で実感できるのが月経である、ということに注意しましょう。歴史的にはこの月経周期によって性周期の存在が認識されましたが、現在においても、検査の手間や侵襲を考慮すれば、月経周期から他の変化を類推する知恵は無駄ではありません。
 
 月経周期はシステムの末端に位置する子宮内膜の変化であり、だからこそ「目に見えてわかりやすい」というメリットがあるものの、全体像をさかのぼって想像するのは困難です。
 
 卵細胞を女性の生殖活動の主役に据えて眺めるならば、子宮よりもむしろ卵巣の周期的変化を考えたほうがわかりやすくなります。その場合、月経はむしろ一周期の終わりの出来事であると考えたほうがよく、月経の明けるころの前後から、卵巣にとっての次の一周期――すなわち新たな卵胞の成熟――が始まります。
 
 卵胞は周期の中ごろに排卵を迎えて黄体に変わるため、それ以前を「卵胞期」、以後を「黄体期」と呼んで区別します。

卵巣周期と子宮内膜周期の図
(図3)卵巣周期と子宮内膜周期(月経周期)の対応

卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモン

 下垂体と卵巣が分泌する、性周期に関連する主要なホルモンを紹介しましょう。それぞれ2つずつあり、詳しい作用は後述しますが、まずは大まかに、「どの時期に特に活躍するのか」という観点で各ホルモンの個性をつかんでください。
 
 卵巣を標的臓器とするホルモンには「卵胞刺激ホルモン」(以下FSH)と「黄体形成ホルモン」(または黄体化ホルモン、以下LH)の2つがあり、いずれも下垂体前葉から分泌され、「ゴナドトロピン」(または性腺刺激ホルモン)と総称されます。
 
 FSHには文字通り卵胞を刺激する作用があり、排卵に臨むべき卵胞が新たに選ばれる段階から実際に排卵されるまでの間、卵胞が成熟するために不可欠なホルモンです。いっぽう、卵胞が黄体に変わるためには、まず排卵が起こる必要があり、さらにその後で黄体として成熟し維持される必要があります。LHは、この両方の意味で黄体形成を促します。
 
 FSHは卵巣周期の前半に当たる卵胞期で、またLHは排卵期とそれに続く後半の黄体期で、特に活躍するホルモンであると言えます。なお両者とも、いかにも女性特有のホルモンのような名称が付いていますが、男性の下垂体からも分泌され、やはり性ホルモンとして精巣に対して作用するということに注意してください。

エストロゲンとゲスターゲン

卵巣が分泌するホルモンは「エストロゲン」「ゲスターゲン」(プロゲスターゲン、プロゲストーゲンともいう)に大別され、いずれもコレステロールという共通の材料から合成されるステロイドホルモンです。

この2つの名称はホルモンの活性に着目した総称で、例えばエストロゲンにもいくつかの種類があり、その中で最も活性が強いのはエストラジオールという物質です。これに対し、ゲスターゲンに分類される物質も一つではありませんが、ヒトにおいてはプロゲステロンのみがあまりにも有名なため、「エストロゲンとプロゲステロン」という並べ方をされることもしばしばあります。

 エストロゲンの名称は「発情」(estrus)に由来し、明瞭な発情期を持たないヒトにはあまりふさわしくない名称ですが、女子の二次性徴の中心的役割を果たす、いわゆる「女性ホルモン」の代名詞です。エストロゲンの生理作用は、生殖関連以外にもきわめて多岐にわたります。
 
 いっぽうゲスターゲンやプロゲステロンという語には「妊娠」を意味する‐ gest ‐ が含まれ、「妊娠の準備・維持に寄与するホルモン」とされますが、それだけでは特徴がつかみづらいでしょう。ここでは、ゲスターゲンは黄体期に分泌が増すために「黄体ホルモン」とも呼ばれる、ということを記憶しておいておください。これに対してエストロゲンを「卵胞ホルモン」と呼ぶこともあります。
 
エストロゲン系とゲスターゲン系の合成経路
(図4)ステロイドホルモンの合成経路。赤字のものは記憶しておきましょう

(「ナース専科マガジン」2014年2月号より転載)

ページトップへ