【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第16回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「嚥下内視鏡検査(VE)や嚥下造影検査(VF)ができないと嚥下機能は評価できない?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

執筆 田中 信和(たなか のぶかず)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

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当院では、嚥下造影検査(VF)の設備がなく、嚥下内視鏡検査(VE)を実施できるドクターも現在いません。VFやVEを使用しない嚥下機能評価法はありますか?
また、嚥下障害を疑う患者さんにはどのように経口摂取(嚥下訓練)を進めていけばよいでしょうか?


VEやVFは、有用な嚥下機能の評価法で、誤嚥の検出率が非常に高いことが知られています(第3回参照)。また画像を用いた検査であるため、食形態の変更などの効果を検査時にその場で確認できる利点があります。この「画像ですぐ確認できる」メリットにより経口摂取や嚥下訓練のプランがたてやすく、これらの検査を実施しない場合よりも摂取や訓練をスムーズに進めることが可能です。

しかし、VEやVFがないからといって、嚥下機能の評価や嚥下訓練ができないわけでは決してありません。そこで今回は、VFやVEを用いずに行う嚥下機能の評価、なかでも誤嚥の有無の評価法を中心に説明します。


事前に確認しておくべき事項

経口摂取や嚥下訓練を安全に始めるためには、事前に確認しておくべきことがいくつかあります。その一つが「現在、誤嚥のリスクがどの程度あるのか」を予測することです。事前にリスクを確認しておくことで、経口摂取をどれくらい慎重に進めていく必要があるかの目安となります。

疾患によって嚥下障害の症状は異なります。そのため誤嚥のリスクを予測する上で基礎疾患は必ず確認しておきたいところです。

基礎疾患が原因となって嚥下障害が生じる可能性があるか、可能性がある場合は、(1)進行性の有無、(2)影響をうける(障害される)機能、(3)発症後の経過、などを確認しましょう。

例えば脳卒中は、ダメージを受けた部位や発症の回数によって、嚥下機能は大きく変わります。またパーキンソン病であれば、初期では嚥下機能は保たれるものの、経時的な低下を認めるため、経過の長さは嚥下機能を予測する上で参考となります。

また誤嚥については、嚥下反射や咳反射の誘発に重要な役割を担う「大脳基底核」が障害される疾患は、不顕性誤嚥を生じるリスクが高くなることを知っておきましょう。(ちなみに脳卒中もパーキンソン病も大脳基底核が障害される可能性がある疾患です)

ベッドサイドでの評価

事前に誤嚥のリスクの程度を予測し、経口摂取がトライ可能な全身状態であれば、ベッドサイドにて誤嚥のリスクを評価します。ここでは、RSST(反復唾液嚥下テスト)やMWST(改定水飲みテスト)などのスクリーニングやVE、VFを用いずに誤嚥の有無を推測できる所見を確認してみましょう。

(1)唾液誤嚥を疑う所見

 まず安静時の状態を確認しましょう。特に摂取前から唾液誤嚥がある場合は、嚥下機能の低下が著しいケースが多いため十分に注意が必要です。唾液誤嚥の評価には、呼吸音や声質が有効な手がかりとなります。特に呼吸に伴い聞こえる湿性の喘鳴(咽頭ゴロ音)や湿性嗄声は唾液の垂れ込みによる誤嚥を疑うサインです(図)。



 

(2)食物の誤嚥を疑う所見

 唾液誤嚥を疑う所見が認められない場合は、少量の安全な食形態(第9回参照)を用いて評価を行います。ムセの有無は最も信頼できる誤嚥の指標ですが、不顕性誤嚥は評価できません。そこでベッドサイドでは、食物の摂取中に湿性の喘鳴や嗄声が出現する、あるいは悪化しないかに注意します。

また、誤嚥の検出にはある程度習熟が必要であるものの、頚部聴診を行うことも有用です。頸部聴診では、不顕性誤嚥は嚥下前後の呼吸音の変化(嚥下後の呼吸の乱れ)として聴取され、少量の気管への垂れ込みや不顕性誤嚥の有無をある程度チェックすることができます。摂取時に上記のような症状が認められる場合は、食形態や摂取時の姿勢の調整で症状が改善しないかを試します。


経過観察で誤嚥の兆候を見逃さない

ベッドサイドでの評価の結果、経口摂取(訓練)が開始になってからも、経過は必ず確認しましょう。経口摂取開始以降、食後に痰が増える、湿性の喘鳴がでる、原因がはっきりしない熱発がある、などは誤嚥を疑うサインです。

また血液検査を実施している施設では、経口摂取開始前後のデータをチェックすることも有効な手掛かりとなります。摂取開始以降に原因不明のCRPやWBCの上昇があれば誤嚥による炎症の可能性も疑います。このような徴候が認められた時には摂取の中断や「食形態を一段階下げる」、「摂取量や頻度を減らす」などの調整をしましょう。

このように日々の看護のなかでも、上記のような所見を丁寧にとることで、得られる情報は想像以上にたくさんあります。毎日得られるこれらの情報や所見を駆使することで、VEやVFほど効率は良くありませんが、少しずつ(段階を踏んで)経口摂取や訓練を進めていくことは可能です。ベッドサイドでの所見を大事にしましょう!


引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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