【連載】看護に役立つ生理学

第42回 エストロゲン・ゲスターゲンと月経周期

執筆 梵天ゆとり(ぼんてん・ゆとり)

医師、日本医学放射線学会会員

4ホルモンの推移と卵巣周期

 性周期とは、前回紹介した4種のホルモンがどのように推移するのかが核心であると言ってよく、いよいよその詳細を追いかけてみましょう。そのためには、いったん視床下部と子宮のことは忘れて、しばらくは下垂体と卵巣の相互作用に集中すると理解しやすくなります。
 
 卵巣周期の始まりは、前の周期の終わりに低下していたFSH分泌が上昇することからスタートします。それによって卵巣から新たな卵胞が成熟を始め、これがエストロゲンの分泌量を増してゆきます。卵胞がエストロゲンを合成するためには、まずアンドロゲン(男性ホルモン)を合成し、さらにそれをエストロゲンに変換するという過程を踏む必要がありますが、前者にはLHの、後者にはFSHの作用が必要になります。つまり2つのゴナドトロピンは共同して卵胞にエストロゲンを合成させる作用をも有しているのです。
 
 エストロゲンは血中レベルがそれほど高くない間は上位の器官の分泌活動に対して抑制的に働きますが、やがてあるレベルを超えると一転して促進的に働くようになり、その結果、下垂体からLHが大量に分泌されます。
 
 これが有名な「LHサージ」です。「サージ」(surge)は英語のままで呼ばれることが多いですが、あえて日本語に訳すなら「怒涛」(どとう)という語がぴったりです。エストロゲンからのポジティブ・フィードバックによって、まさに怒涛のようにLHが分泌され、これが排卵を引き起こします。
 
 ここで、「なぜ、ある時点からフィードバックがポジティブに転じるのか?」「なぜ、LHサージによって排卵が起こるのか?」といった疑問が生じますが、残念ながらいずれも明瞭な答えは出ていないのが現状です。とにかく、排卵の直前はエストロゲンが最も高くなっている時期であり、それによってLHが急激に上昇すること、またLHほどではありませんがFSHも高まりを見せるということを押さえておきましょう。
 
 排卵が終わると、LH・FSH分泌はすみやかに鎮静化し、エストロゲンのレベルもいったん低下して黄体期を迎えます。ここからの主役はゲスターゲンですが、まもなくエストロゲンも再び上昇し、黄体期のあいだ高いレベルを維持します。このとき下垂体は抑制を受けてFSH分泌が低下していますが、やがて黄体が消退するとエストロゲン・ゲスターゲンも退潮し、FSH分泌が返り咲きます。これで卵巣周期がひとまわりしたことになります。妊娠が成立した場合には、胎盤の分泌するホルモンにより黄体が維持され、エストロゲン・ゲスターゲン分泌が持続します。

LH、FSH、エストラジオール、プロゲステロン

エストロゲン・ゲスターゲンと月経周期

前回解説したように、卵巣周期によって生じるエストロゲン・ゲスターゲンの推移により、子宮内膜の周期的変化が生み出されます。

二つの周期を重ね合わせてみましょう(図)。卵胞期におおむね対応する期間は、子宮においては「増殖期」と呼ばれ、エストロゲンの作用によって内膜が肥厚するなど、着床・妊娠のための基礎的な変化が起こります。

いっぽう卵巣が排卵を終えて黄体期に入り、ゲスターゲンが上昇すると、子宮は「分泌期」と呼ばれる時期を迎えます。この「分泌」はホルモンの分泌ではなく、子宮自身の粘液分泌が盛んになるという意味です。

分泌期にはこれに加えて子宮内膜の間質を中心とした変化により、子宮の着床環境はさらに整って、受精卵の到着を待ちます。着床が起こらずに黄体が消退すれば、エストロゲン・ゲスターゲンによって保たれていた子宮内膜は構造を維持することができなくなり、ついに剥がれ落ちて月経として観察されます。

月経周期の図

さらにワンポイント

視床下部が分泌するGnRH

ここまでの説明では、最高中枢のはずの視床下部について全く触れていませんでしたので、少しだけ見ておきましょう。視床下部からは下垂体のゴナドトロピン(LH・FSH)の分泌をさらに上位から促進する、「ゴナドトロピン放出ホルモン」(GnRH)という長い名前のホルモンが分泌されます。

このホルモンは当初はLHRH(LH放出ホルモン)と呼ばれ、FSHの分泌を促す視床下部ホルモンは別に存在すると考えられていましたが、現在では両方の分泌を促進するらしいことが分かり、まとめてGnRHと呼ばれるようになりました。

GnRHは不規則なタイミングで噴出するように分泌されることが特徴で、これによってゴナドトロピンも時間単位で見ればパルス状の分泌をきたします。

その意義は明らかではありませんが、注射投与によってGnRHのレベルが一定に保たれた状態を人為的に作ると、ゴナドトロピン分泌が起こらなくなってしまうことから、この分泌様式は性周期の形成に不可欠であることは間違いありません。

逆に、ゴナドトロピン分泌を抑制する必要があるような病態では、GnRHに類似した物質(いわゆるLHRHアゴニスト)を用いて治療がなされることがあります。

(ナース専科マガジン2014年2月号より転載)

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