【連載】Newsのツボ

向精神薬|日本での使用法と一般病棟でも使用されるリスク

解説 吉尾 隆

東邦大学薬学部 医療薬学教育センター臨床薬学研究室 教授 薬学博士/精神科専門薬剤師

欧米との差が歴然 日本の向精神薬の使用法

薬物療法が治療の中心である精神科医療において、これまでの日本では、向精神薬の「多剤大量処方」が当たり前でした。これは、疾患の特徴からくる患者さんごとの個体差が顕著で、また本人の自覚症状や満足感に依る部分も多いため、一層高い効果と継続を求めて治療薬の種類・量を上乗せしていったことに起因していると思われます。

しかし時代とともに、薬理学や治療学は発展し、薬効は上がりました。これに伴い症状と薬理的特徴をマッチさせた薬剤選択が可能になり、一方で副作用にも目が向けられるようになったのです。

米国では、多剤処方と単剤(1剤)処方での治療効果の差についての研究が行われ、その結果「差がない」ということがわかりました。約20年前のことです。これに基づき、単剤処方が欧米でのスタンダードとなり、近年では患者数の8割は単剤処方となっています。しかし日本では、その数は現在でも4割に届かず、約3分の1が3剤以上の処方。なかなか改められていないのが現状です(統合失調症の場合)。

今回の改定はおもに外来診療にかかわるもので、3剤以上の抗不安薬または睡眠薬、4剤以上の抗うつ薬または抗精神病薬を処方すると、精神科継続外来支援・指導料が算定できなくなり、処方箋料・処方料・薬剤料が減算になるというもの。抗不安薬と睡眠薬については、前回改定でも評価の見直しが図られましたが、本改定でそれがさらに厳しくなりました。

また入院についても、精神科救急入院料などで加算される非定型抗精神病薬加算2が削除となりました。

これらの規制は、多剤処方による医療費の増大を抑制するという面もありますが、何よりも副作用の発生を問題視しているものなのです。

向精神薬で起こりがちな副作用とは

それでは、向精神薬にはどのような副作用があるのか、統合失調症の場合でみてみましょう。錐体外路症状は、抗精神病薬の代表的な副作用です。

筋肉のこわばり(筋強剛)や緊張(急性ジストニア)、震え(振戦)、落ち着きがなくなる(アカシジア)などの症状がみられ、これがひどくなると服薬困難になってしまうこともあります。

また、黒質線条体などの神経に対する副作用が少ないとして、近年よく使用されるようになってきた非定型抗精神病薬でも、体重増加や脂質代謝異常、血糖値の上昇、心臓への影響など身体面での副作用がみられます。

大量に飲み続けると致死的な不整脈に陥ることもあります。また、眠気やだるさなど過剰な鎮静作用の出現や高齢者の誤嚥リスクも高まります。

全身のモニタリングが行われることの少ない精神科では、これらの異常に気付きにくく、発見が遅れる恐れも出てきます。

こうした副作用は、多剤を大量に飲み続けることで起こりやすくなります。この飲み過ぎを判断する目安となるのが「クロルプロマジン換算」です。

向精神薬では、クロルプロマジンという薬剤を基準に換算し、各薬剤の力価をみます。服用している薬剤のクロルプロマジン換算値の合計が、600mg /日程度で効果は頭打ちになり、1000mg /日を超えるとさまざまな副作用がみられるようになってきます。2014年の改定で定めた「抗精神病薬3剤併用まで」がこの1000mg /日となり、ギリギリのラインなのです。

抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、それぞれの注意点

一般病棟や外来でも、抗不安薬や睡眠薬、抗うつ薬などの向精神薬が処方されることは少なくありません。これらの使用にも注意が必要です。

術後せん妄の症状緩和や、がん化学療法に伴う吐き気の抑制などに用いられるハロペリドール(抗精神病薬)は、錐体外路症状を引き起こしやすいため、投与後の症状観察が必要になります。

また、がん患者さんの抑うつ症状の緩和として抗うつ薬(SSRI:選択的セロトニン再取込み阻害薬)が処方されたときは、吐き気や味覚障害、性機能異常などに注意が必要です。

さらに睡眠薬や抗不安薬では、特に依存性への配慮も必要です。一定期間服用後、症状が治まったからといって突然服用をやめてしまうと、離脱症候群が生じる恐れがあります。この場合は、少しずつ減薬していくように対処します。

また、睡眠薬が頓服で処方されたとき、「眠れないときに飲んでください」という指示を出してしまうことがありますが、これも依存を誘発しやすくなります。患者さんが好きなときに好きなだけ服用できる環境をつくってしまうためです。

「向精神薬の多剤処方の是正」でどう変わる?

2014年4月の「向精神薬の多剤処方の是正」では影響を受けない医療現場も多いでしょう。

しかし明確な制限が設けられたことで、精神科医療全体として減薬に取り組む方向が示されたのだと私は思います。最近では、精神科の看護師から積極的に質問を受けることが多くなりました。

向精神薬は精神科だけでなく、多くの診療科にまたがって使用されるもの。ですから、他の診療科で働くより多くの看護師さんにも関心をもってもらえるようになるといいですね。

向精神薬や「向精神薬の多剤処方の是正」について看護師さんのコメントを紹介

●高齢患者さんは、薬剤の影響・効果が強すぎることがあり、ADLが十分に自立していたのに、内服治療後に寝たきりとなってしまう場合も。制限は必要かと思います。(長野県 O・P)

●薬への依存、副作用の予防・軽減について興味があります。ただし薬を制限するだけでは解決できない問題も出てくるのでは。病院で処方がないため、他人から購入したり、市販薬・アルコールとの併用を行うなど、依存している人はあらゆる方法を取ります。今後どのように変わるのか興味があります。(大阪府 沖田)

●考え方としては賛成ですが、患者さんには個別性があります。制限内で収まる処方で効果があればよいのですが、精神科の場合は難しいように思います。診療報酬を請求できなくなると、必要であっても限度超えになるため処方されないという問題が起き、患者さんのためにならないこともあるのでは。(愛知県 ポンコツナース)

●1回での処方のみの制限ならば、ドクターショッピングが増えてしまうのではないかと思うのだが……。(千葉県 m.m.m)

●向精神薬の副作用で気になるのは便秘。便秘からイレウスになった人もいるし。緩下剤を多剤併用することもあり、お腹にやさしい向精神薬がないのかと思う。(広島県 なまけ猫)

●薬物依存を防ぐための措置であるなら、その旨を本人やご家族にきちんと説明してほしい。(大分県 みんみん)

●向精神薬服用患者さんには、処方と病状がマッチしているか、マッチしていなければ医師からはどのように説明されているのかを確認。精神疾患は本人の訴えが診断に大きく影響するので、患者さんがどのように訴えているのかも確認するようにしています。(埼玉県 ラッキー)

●最近は内科医でも不穏が強い患者さんに向精神薬を処方するケースがよく見受けられます。睡眠薬、精神安定薬、睡眠導入薬など、かなりたくさん内服されている患者さんがいても、本当に本人が使用しているのか、昼間の睡眠はないかなどのアセスメントもなく、患者さんの申し出だけで処方することもあります。制限することで本当に利害を被る患者さんがないようにしてほしいと思います(大阪府 しょうた)

●正しく処方ができる医師が必要に応じて処方し、正しく観察できる看護師が観察できれば、多剤処方でも問題ないのでは。必要な患者さんには処方可能な医師を設けておくことも必要なのではと感じた。(兵庫県 あつぽん)

●脳梗塞の後遺症で杖歩行の患者さんに向精神薬が処方され、服用後副作用と思われる転倒を繰り返したため医師に報告。でも処方変更にならなかった。(愛知県 メリーさんの執事)

(ナース専科マガジン2014年5月号より転載)

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