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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第18回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「薬剤性の嚥下障害にはどう対応する?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

執筆 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

入院中の87歳の男性。夜間にせん妄が出現し、転倒リスクが高いために投薬でコントロールされています。投薬により症状は改善しましたが、そのころより徐々に食事摂取量が減り、ムセの頻度も高くなりました。考えられる原因は何でしょうか?


高齢者の嚥下障害の原因で意外と多いのが薬剤の副作用によるものです。最近は論文報告も増えつつあり、薬剤性の嚥下障害が臨床で認識されつつありますが、まだまだ対応仕切れていないのが現状です。超高齢社会となり爆発的に増加している脳卒中慢性期や認知症による嚥下障害は「治らない嚥下障害」ですが、薬剤性の嚥下障害は投薬変更によって「治る嚥下障害(treatable dysphagia)」です。これを見逃してはなりません。


 今回の症例も投薬とほぼ同時期に発症した嚥下障害です。他に脳卒中や進行性疾患などの原因がないので、薬剤性の嚥下障害が疑われます。今回は薬剤性の嚥下障害について解説します。


どの薬剤がダメ?

漠然と「中枢神経系に作用する薬剤が嚥下によくないのでは?」というイメージがあるのではないでしょうか?そのような中枢神経系に作用して精神活動に影響を与える薬剤を「向精神薬」といいます。具体的には「抗うつ薬」、「抗不安薬」、「睡眠薬」、「抗精神病薬」などがありますが、これらすべてが嚥下に悪い影響を与えるわけではありません。しっかりとこれら薬剤を区別して考えることが重要です(表1)。

向精神薬の種類と誤嚥への影響、解説表

抗うつ薬

 抑うつ症状などに対して用いる薬です。少し前までは三環系や四環系の抗うつ薬が多く用いられてきましたが、最近では副作用の比較的少ないSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が広く用いられています。これら薬剤は、嚥下に関する副作用としては口腔乾燥症がありますが、誤嚥の原因となることはありません。

抗不安薬・睡眠薬

 抗不安薬と睡眠薬はほぼ同じ薬剤が用いられます。抗不安薬・睡眠薬の代表はベンゾジアゼピン系の薬剤です。これら薬剤は抗不安作用や催眠作用があるだけでなく筋弛緩作用ももっています。その結果、嚥下関連筋も弛緩するために誤嚥の原因となることがあります。一方,非ベンゾジアゼピン系のZ系といわれる睡眠薬は、抗不安作用や筋弛緩作用が少ないため嚥下障害の原因になることはあまりありません(傾眠が強くなると嚥下が悪くなることがありますが…)。睡眠薬として用いるのであれば、ベンゾジアゼピン系の薬剤よりもZ系の方が嚥下にとっては安全です。

抗精神病薬

主に統合失調症に対して用いられる薬剤ですが、高齢者のせん妄に対しても用いられることがあります。この薬剤は主としてドーパミンをブロックすることによって効果を発揮します。
 ここでピンとくる読者の方もおられるでしょう。嚥下・咳嗽反射には、大脳基底核のドーパミンに誘導されて咽頭に放出されるサブスタンスPの濃度が重要であり、その濃度が低下すると反射が低下します。抗精神病薬はこのドーパミンをブロックしてしまうため、副作用として嚥下・咳嗽反射の低下を生じ、誤嚥の原因となります。臨床では、この抗精神病薬に起因する誤嚥が問題となることが多々あります(表2)。
 一般には「定型」とよばれる古い抗精神病薬と比べると、新しい「非定型」の方が副作用が弱いと思われていますが、非定型の抗精神病薬でも薬剤性嚥下障害の原因となります。とくに高齢者では、思った以上に非定型の抗精神病薬が嚥下障害を引き起こしています。

代表的な抗精神病薬記載表

その他の薬剤

 意外かもしれませんが、制吐剤もドーパミンをブロックして作用するものがあり、それら薬剤は誤嚥・嚥下障害の原因になることがあります。あとは筋弛緩作用を有する薬剤(嚥下関連筋も弛緩するため嚥下障害の原因となる)、傾眠作用を有する薬剤(意識レベルが低下し嚥下障害の原因となる)にも注意が必要です。

まとめイラスト

 主な嚥下障害の原因となる薬剤を列記しました。今回の症例は、せん妄に対して出された薬剤で嚥下障害が出現したようですので、抗精神病薬の影響がもっとも疑われます。可能であれば抗精神病薬が不要となるように、せん妄が出ない,もしくはせん妄が出ても支障がないようなケアプランを考えましょう。
 薬剤性嚥下障害の原因となる薬剤はすべて中断すればいいかというと、そうではありません。副作用が出ない症例も多々ありますし、主作用を期待して出さざるを得ない場合もあります。よくないのは副作用を考えずに漫然と服薬が続くことです。「嚥下障害が出るかも?」と思って服薬が始まった場合は、副作用が出たときに即座に対応できます。この副作用にもっとも早く気づけるのは看護師の皆さんです。
 薬剤性嚥下障害を常にアタマに置きつつ,日々の嚥下のケアに取り組んでください。

注:くれぐれも勝手に服薬を中止しないようにしましょう。主作用と副作用のバランスをよく考えて、処方医の先生としっかりと相談してから服薬を継続するかどうかを決めてください。


引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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