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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第19回 摂食嚥下障害の臨床Q&A 「検査で誤嚥あり。禁食にしないとダメ?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

執筆 田中 信和(たなか のぶかず)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

脳卒中後の70歳男性。入院中に行ったVF検査にて「誤嚥あり」と判定され禁食となっています。このまま、ずっと経口摂取を禁止にするしかないでしょうか?家族からも相談を受け困っています。


誤嚥による肺炎や窒息は、可能な限り避けたいものです。そのため、検査で誤嚥が認められる患者さんの経口摂取を禁止することは、場合によっては必要な判断です。しかし、以前の回でも触れたように、「誤嚥あり」という検査所見からの判断により食べることを一切禁じられたまま長期間生活している人がいることも確かです。誤嚥があると必ず経口摂取は不可能なのでしょうか? 今回は、この「誤嚥」という所見のとらえ方を脳卒中後の症例から考えてみたいと思います。


「検査場面で誤嚥あり」=「肺炎」か?

誤嚥と肺炎の関係については、これまでこの連載でも何度か取り上げられています(第34回参照)が、検査場面で誤嚥を認めたからといって、必ず誤嚥性肺炎を発症するわけではありません。事実、高齢者を対象とした研究では、検査場面では健常者でも誤嚥を認めるものがいることや、検査場面での誤嚥の有無と胸部CTでの肺の炎症の有無は一致しなかった、との報告もあります。誤嚥性肺炎発症の有無は、誤嚥の頻度や量、誤嚥したものの刺激の強さ、あるいは本人の体力・免疫機能や呼吸機能の状態といった侵襲と抵抗のバランス(第4回参照)が関わってくる問題です。そのため、「誤嚥の有無」は肺炎発症の要素のひとつに過ぎません。


状態は変化する

 また今回の症例では、誤嚥を認めた検査が「いつ実施されたものか?」も大切なポイントです。脳卒中による症状は発症直後が最も強く、頭蓋内圧の軽減などに伴い徐々に改善していきます。このことは嚥下機能についても同様で、発症後半年でも嚥下障害が改善するという報告もあります(自験例では、数年かかって徐々に改善した方もいました)。発症後から半年という期間で改善するということは、(1)一度の検査だけで嚥下機能を評価することは難しい、(2)検査を実施した時期によって、その時の検査所見とその後の嚥下機能が乖離する可能性がある、ということが言えます。特に急性期に実施した検査所見は、その後変わる可能性が十分あります。

今回の症例は脳卒中ですが、肺炎の発症による入院でも同じような経過をたどることがあります。過去の検査で誤嚥を認めたことももちろん重要な所見ですが、今現在の患者さんの状態を再評価することも大切です。なかには退院後、施設に入所した後に胃瘻抜去が可能になるまで嚥下機能が改善していた、という事もしばしば経験します。

「食べさせる」or「食べさせない」だけの判断なのか?

とは言うものの、嚥下機能が発症前と同じ状態まで回復しない人が多いことも事実です。こういった場合、「食べさせる」か「食べさせないか」という極端な判断をしてしまうことがありますが、重度の球麻痺などでない限りは完全な禁食が必要な人はいません。このとき重要なことは、誤嚥の有無よりも、誤嚥があっても肺炎に至らせない支援です。誤嚥物の量や刺激を減らし(侵襲の軽減)、誤嚥しても喀出できる力や免疫能を高める(抵抗の強化)ための対応(第4回参照)が可能であれば()、「摂取の頻度や量」や「食形態や摂取方法」を制限することで禁食が解除できる人は多くいます。そのためには、医療者をはじめとするケアを提供する側の誤嚥と肺炎に対する正しい理解や、サポートする周囲の適切な協力が不可欠となります。

浸襲の軽減と抵抗強化の例、説明表

誤嚥の有無はあくまで判断基準のひとつにすぎず、絶対的な指標ではありません。むしろ経口摂取の可否は、関わる医療者の理解や考え方に左右される部分もあるのではないでしょうか?


引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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