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第2回 そのとき、あれから -捨てられなかった「やくそく」-

執筆 辰濃 哲郎(たつの てつろう)

ノンフィクション作家

大海原に放り出されて

自宅には懐中電灯やろうそくを初め、乾電池、コンロ、レトルト食品など、被災への備えができていた。
自分の運転するワゴン車は、ドアの開閉にコツがいるほど古いのに、段ボール2箱分の防災グッズを詰め込んで「3日間は持ち堪えられる」と豪語していた。

1960年のチリ地震による津波では、この雄勝も被害を受けている。
経験者の1人でもあるこのお年寄りの言葉に、たまたま病院の工事に来ていた作業員らは、病院のすぐ裏山に向かって走り始めた。
だが、鈴木副院長は、平然と答えた。
「患者を置いて逃げられない」
そう言うと、病院の正面玄関から院内へと消えていった。その直後のことだ。病院から道路を挟んですぐ海際に立つ防潮堤を超えて、海水が流れてきた。

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