1. トップ
  2. 看護記事
  3. 症状から探す
  4. 摂食・嚥下障害
  5. 摂食・嚥下障害患者の食事
  6. 第21回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「Drが経口摂取を許可してくれない場合はどうしたらいい?」

【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第21回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「Drが経口摂取を許可してくれない場合はどうしたらいい?」

  • 公開日: 2016/5/31
  • 更新日: 2021/1/6

80歳の女性。数年前に肺炎の既往はあり。食事でムセがあったとのことで嚥下造影検査(VF)をしましたが、検査の結果少量の誤嚥があったようです。それ以来、経鼻経管栄養で禁食になってしまいましたが、患者さんやご家族からの経口摂取の訴えがよくあります。主治医は胃瘻にして経口摂取を禁止した方がよいという判断です。経口摂取は危険でしょうか?


「主治医から経口摂取の許可がでない」という話は、現場でよく耳にする話題です。「食べさせたい」という立場からみると、禁食は厳しい指示に感じますが、患者さんの身体に最終的な責任を持つのは主治医です。その主治医が「経口摂取が患者さんの健康へのリスクを高める可能性がある」と判断する場合、経口摂取は許可できません。しかしながら、そのなかには、結果的に「過度な禁食」となってしまっているケースがしばしばあります。そこで今回は、過度な禁食への対応を考えてみたいと思います。


本当に禁食?

「過度な禁食」の判断は難しいですが、今回の症例では、禁食の根拠が食事時のムセ、VF時に誤嚥が認められたことのようです。
しかし、嚥下障害の原因となる基礎疾患がなく、短期間に再発を繰り返す肺炎もない様子です。また、以前に書いたように(第19回参照)、検査時に誤嚥が認められても、必ず肺炎になるわけではありません。年齢からは、嚥下機能が低下している可能性は十分に考えらえますが、症例の状況をトータルで考えると本当に禁食にする程度のものなのでしょうか?
このような時は、主治医に禁食となっている経緯と理由、今後の見通しを確認し、再度「食べさせてはダメか?」を相談してみるのもひとつです。その相談の際に重要なことは、ただ「食べさせたい」と伝えるのではなく、主治医が「経口摂取させても大丈夫だ」と判断できるような説明と提案を行うことです。
具体的には、(1)食べさせたい理由、(2)食べさせても良いと考える根拠、(3)経口摂取によって生じるリスクに対して実施可能な対応、の3点をしっかりと示すことが大切です。

ただ「食べさせたい」では……

(1)食べさせたい理由

本人や家族の希望が強い場合は、それをしっかりと伝えることが重要です。とくに施設や在宅にもどる人であれば、病院での禁食の指示はその後の生活でも続くことがほとんどです。少しでも禁食が解除できるための提案は大切です。反対に本人や家族の主訴がない場合は、無理にすすめない方がよいでしょう(万一肺炎を発症した場合、信頼関係が崩れ、トラブルの原因となります)。

(2)食べさせても良いと考える根拠

看護から確認できる所見は貴重な根拠となる情報です。「最近吸引の頻度が減ってきている」、「覚醒が改善してきており活力もある」、「唾液嚥下を頻繁にみとめる」、「呼吸の状態が落ち着いてきている」など、これまでの状態とくらべ改善している点を具体的に示すことが重要です。また、現場によっては、摂食嚥下に関わる他職種の評価や所見もまとめておくことも有効です。

(3)経口摂取によって生じるリスクに対して実施可能な対応

誤嚥性肺炎に関わる「侵襲」と「抵抗」の要素(第4回参照)に分けて、必要かつ実行可能な対応を考えます。
侵襲の要素は、誤嚥物の質の改善のための口腔ケアや、誤嚥の量を減らすための食形態の調整(経管栄養症例では摂取量の制限も)、誤嚥物の排出のための体位ドレナージなどが相当します。抵抗の要素は、咳による喀出力を高める、呼吸のリズムを整えるための呼吸訓練(呼吸リハ)などがそれに相当します。「誤嚥をゼロにすることは難しいですが、口腔ケアと食後の体位ドレナージを徹底します」、「食事の形態や量を制限して、熱発時には摂取させないよう周知します」、「咳の力が弱いので毎日呼吸リハにも取り組んでもらいます」など 提案する対応が具体的で妥当であれば、説得力は増します。

経口摂取によって生じるリスクに対して実施可能な対応について話し合っているイラスト

QOLとしての観点から

また以前(第14回参照)も取り上げましたが、終末期や重度の嚥下障害といった「回復の見込みもなく、リスクも高い」症例の経口摂取についても「過度の禁食」があてはまることがあります。
本人(家族)がリスクを理解した上で強く食べることを希望しているのに、経口摂取を許可しないという状況もある意味「過度な禁食」と言えます。
このような例では、主治医や家族の考え方や価値観も関わるため難しい時がありますが、患者さん(や家族)と主治医が直接話し合ってもらうこともひとつの方法です。現実的には、2,3口といった極わずかな量の摂取しか許可できないことも多いです。しかしながら、この程度の医学的、生理的に意味のないと考えられる量でも、禁じられず「食べても良い」状態で過ごせるのは、患者さんや家族のその後のQOL、なかでも精神的な面に、大きく影響します。

食べさせたい理由と対応が妥当なものであれば、主治医としても許可を出しやすくなるのは間違いありません。ただ「主治医が許可してくれない」で終わるのではなく、「主治医が許可できるような」マネジメントを考えてみましょう。


イラスト/たかはしみどり


引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
アマゾンで買う

この記事を読んでいる人におすすめ

カテゴリの新着記事

食事介助に関する看護計画|嚥下機能が低下してきている認知症患者さん

認知症による嚥下機能低下から食事介助が必要な患者さんに関する看護計画  認知症は血管性、アルツハイマー型、レヴィー小体型などの原因によって病状の進行度合いは異なるものの、脳の活動低下に伴うさまざまな症状が発症し社会生活に支障が生じていきます。今回は認知症の進行に伴い嚥下機能

2023/11/29

アクセスランキング

1位

SIRS(全身性炎症反応症候群)とは?基準は?

*この記事は2016年7月4日に更新しました。 SIRS(全身性炎症反応症候群)について解説します。 SIRS(全身性炎症反応症候群)とは? SIRS(全身性炎症反応...

250839
2位

心電図でみる心室期外収縮(PVC・VPC)の波形・特徴と

心室期外収縮(PVC・VPC)の心電図の特徴と主な症状・治療などについて解説します。 この記事では、解説の際PVCで統一いたします。 【関連記事】 * 心電図で使う略語・用語...

250751
3位

【血液ガス】血液ガス分析とは?基準値や読み方について

血液ガス分析とは?血液ガスの主な基準値 血液ガス分析とは、血中に溶けている気体(酸素や二酸化炭素など)の量を調べる検査です。主に、PaO2、SaO2、PaCO2、HCO3-、pH, ...

249974
4位

人工呼吸器の看護|設定・モード・アラーム対応まとめ

みんなが苦手な人工呼吸器 多くの人が苦手という人工呼吸器。苦手といっても、仕組みがよくわからない人もいれば、換気モードがわからないという人などさまざまではないでしょうか。ここでは、人工呼...

250017
5位

サチュレーション(SpO2)とは? 基準値・意味は?低下

*2019年3月11日改訂 *2017年7月18日改訂 *2021年8月9日改訂 発熱、喘息、肺炎……etc.多くの患者さんが装着しているパルスオキシメータ。 その測定値である...

249818
6位

アプガースコア(アプガー指数)

【関連記事】 ●新生児仮死における低酸素虚血性脳症の重症度分類|Sarnat分類 ●小児救急におけるトリアージと適切なアセスメント ●第1回 無痛分娩の麻酔の適応、方法、禁忌、外来での説...

248441
7位

心電図の基礎知識、基準値(正常値)・異常値、主な異常波形

*2016年9月1日改訂 *2016年12月19日改訂 *2020年4月24日改訂 *2023年7月11日改訂 心電図の基礎知識 心電図とは  心臓には、自ら電気信...

250061
8位

陰部洗浄の目的・手順・観察項目〜根拠がわかる看護技術

*2020年4月16日改訂 関連記事 * おむつ交換のたびに陰部洗浄は必要? * 膀胱留置カテーテル 陰部洗浄・挿入・固定のコツ * 在宅療養におけるオムツ使用と陰部洗浄について知...

249675
9位

吸引(口腔・鼻腔)の看護|気管吸引の目的、手順・方法、コ

*2022年12月8日改訂 *2022年6月7日改訂 *2020年3月23日改訂 *2017年8月15日改訂 *2016年11月18日改訂 ▼関連記事 気管切開とは? 気管切開...

250001
10位

導尿の看護|手順やカテーテルの種類など

導尿とは?  何らかの原因で自力での排尿が困難な場合、尿道口からカテーテルを挿入し、人工的に尿を排出させることを導尿といいます。 【関連記事】 ●持続的導尿とは? 知っておきたいポイント...

308684