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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第21回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「Drが経口摂取を許可してくれない場合はどうしたらいい?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

執筆 田中 信和(たなか のぶかず)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

80歳の女性。数年前に肺炎の既往はあり。食事でムセがあったとのことで嚥下造影検査(VF)をしましたが、検査の結果少量の誤嚥があったようです。それ以来、経鼻経管栄養で禁食になってしまいましたが、患者さんやご家族からの経口摂取の訴えがよくあります。主治医は胃瘻にして経口摂取を禁止した方がよいという判断です。経口摂取は危険でしょうか?


「主治医から経口摂取の許可がでない」という話は、現場でよく耳にする話題です。「食べさせたい」という立場からみると、禁食は厳しい指示に感じますが、患者さんの身体に最終的な責任を持つのは主治医です。その主治医が「経口摂取が患者さんの健康へのリスクを高める可能性がある」と判断する場合、経口摂取は許可できません。しかしながら、そのなかには、結果的に「過度な禁食」となってしまっているケースがしばしばあります。そこで今回は、過度な禁食への対応を考えてみたいと思います。


本当に禁食?

「過度な禁食」の判断は難しいですが、今回の症例では、禁食の根拠が食事時のムセ、VF時に誤嚥が認められたことのようです。
しかし、嚥下障害の原因となる基礎疾患がなく、短期間に再発を繰り返す肺炎もない様子です。また、以前に書いたように(第19回参照)、検査時に誤嚥が認められても、必ず肺炎になるわけではありません。年齢からは、嚥下機能が低下している可能性は十分に考えらえますが、症例の状況をトータルで考えると本当に禁食にする程度のものなのでしょうか?
このような時は、主治医に禁食となっている経緯と理由、今後の見通しを確認し、再度「食べさせてはダメか?」を相談してみるのもひとつです。その相談の際に重要なことは、ただ「食べさせたい」と伝えるのではなく、主治医が「経口摂取させても大丈夫だ」と判断できるような説明と提案を行うことです。
具体的には、(1)食べさせたい理由、(2)食べさせても良いと考える根拠、(3)経口摂取によって生じるリスクに対して実施可能な対応、の3点をしっかりと示すことが大切です。

ただ「食べさせたい」では……

(1)食べさせたい理由

本人や家族の希望が強い場合は、それをしっかりと伝えることが重要です。とくに施設や在宅にもどる人であれば、病院での禁食の指示はその後の生活でも続くことがほとんどです。少しでも禁食が解除できるための提案は大切です。反対に本人や家族の主訴がない場合は、無理にすすめない方がよいでしょう(万一肺炎を発症した場合、信頼関係が崩れ、トラブルの原因となります)。

(2)食べさせても良いと考える根拠

看護から確認できる所見は貴重な根拠となる情報です。「最近吸引の頻度が減ってきている」、「覚醒が改善してきており活力もある」、「唾液嚥下を頻繁にみとめる」、「呼吸の状態が落ち着いてきている」など、これまでの状態とくらべ改善している点を具体的に示すことが重要です。また、現場によっては、摂食嚥下に関わる他職種の評価や所見もまとめておくことも有効です。

(3)経口摂取によって生じるリスクに対して実施可能な対応

誤嚥性肺炎に関わる「侵襲」と「抵抗」の要素(第4回参照)に分けて、必要かつ実行可能な対応を考えます。
侵襲の要素は、誤嚥物の質の改善のための口腔ケアや、誤嚥の量を減らすための食形態の調整(経管栄養症例では摂取量の制限も)、誤嚥物の排出のための体位ドレナージなどが相当します。抵抗の要素は、咳による喀出力を高める、呼吸のリズムを整えるための呼吸訓練(呼吸リハ)などがそれに相当します。「誤嚥をゼロにすることは難しいですが、口腔ケアと食後の体位ドレナージを徹底します」、「食事の形態や量を制限して、熱発時には摂取させないよう周知します」、「咳の力が弱いので毎日呼吸リハにも取り組んでもらいます」など 提案する対応が具体的で妥当であれば、説得力は増します。

経口摂取によって生じるリスクに対して実施可能な対応について話し合っているイラスト

QOLとしての観点から

また以前(第14回参照)も取り上げましたが、終末期や重度の嚥下障害といった「回復の見込みもなく、リスクも高い」症例の経口摂取についても「過度の禁食」があてはまることがあります。
本人(家族)がリスクを理解した上で強く食べることを希望しているのに、経口摂取を許可しないという状況もある意味「過度な禁食」と言えます。
このような例では、主治医や家族の考え方や価値観も関わるため難しい時がありますが、患者さん(や家族)と主治医が直接話し合ってもらうこともひとつの方法です。現実的には、2,3口といった極わずかな量の摂取しか許可できないことも多いです。しかしながら、この程度の医学的、生理的に意味のないと考えられる量でも、禁じられず「食べても良い」状態で過ごせるのは、患者さんや家族のその後のQOL、なかでも精神的な面に、大きく影響します。

食べさせたい理由と対応が妥当なものであれば、主治医としても許可を出しやすくなるのは間違いありません。ただ「主治医が許可してくれない」で終わるのではなく、「主治医が許可できるような」マネジメントを考えてみましょう。


イラスト/たかはしみどり


引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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