【連載】よくわかる! 気管切開の大事なところ!

気管切開の適応になるのはどんなとき?

執筆 和足孝之

Mahidol University, Faculty of Tropical Medicine.


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気管切開とは? 気管切開の看護


気管切開の適応は大きく3つ

 気管切開の処置は老若男女問わず、救急室や集中治療室などの超急性期から、在宅介護や療養施設などの慢性期まで幅広くみられます。そのため、日常的に遭遇する機会も多いと思います。

 気管切開の適応は、

 1.長期人工呼吸管理が必要な場合
 2.気道分泌物が多い場合
 3.上気道の閉塞

 の、おおよそ3つに大別されます(図)。詳細な病態は下記に示しますが、原則原理はこの3つを理解できれば十分です。
気管切開の適応
図 気管切開の適応

1.長期人工呼吸管理が必要な場合

 脳卒中などの中枢神経障害や難病の神経変性疾患以外に、どうしても抜管できないくらい呼吸状態が悪い状態があてはまります。

2.気道分泌物の除去目的

 簡単にいえば分泌が非常に多い基礎疾患があるか、そもそも自力で痰を出せない状態といえます。

3.上気道の閉塞

 これに関しては、イメージがつきやすいと思いますが、口や鼻から喉頭・声帯に何らかの異物や腫瘍、構造的な異常があり、空気の通過障害がある場合のことをいいます。ちなみに、声帯の動きを支配している反回神経に片方だけ障害があると嗄声(ガラガラ声)になることはよく知られていますが、両側に麻痺を生じると声帯が開かずに窒息してしまいます。

 どのような病態で気管切開が必要になるのか、3つの症例を使って考えてみましょう。

症例1:58歳男性

某大学病院から、本日リハビリ目的で転院となった。7年前に難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受け、徐々に病状が進行してきていた。2週間前から排痰が困難になり、呼吸筋の運動障害が著明に認められてきた。このまま自発呼吸の維持ができなくなると考慮され、家族と相談のうえ、気管切開を施行し、人工呼吸器が導入された。

【気管切開が適応になったわけ】
 58歳と比較的若い男性ですが元々ALSを患っており、身体の四肢の筋肉だけでなく、呼吸筋の麻痺も出てきました。ALSは現段階で治療法のない難病です。今後生涯にわたり人工呼吸器が必要になることが想定されます。よって、1.長期人工呼吸器管理が必要な状態であることと、2.気道分泌物の除去目的から、気管切開が適応になります。

症例2:31歳女性

数日前から咽頭の違和感を訴えていた。本日最寄りのクリニックを受診したところ、感冒との診断を受け抗生物質と解熱薬を処方された。様子をみていたが、次第に唾を全く飲み込めなくなり、声もこもるような状態となったため、夫に付き添われて来院。呼吸数は18回/分、SpO2は98%であったが、吸気時にキューという音が鳴るために、担当医の判断で大至急、大学病院へ転送となった。その後、緊急的気道確保が行われた。

【気管切開が適応になったわけ】
 症例2は典型的な急性喉頭蓋炎の病歴です。喉頭蓋は声帯の直上に存在し、嚥下時に気道に異物が誤入しないように蓋をする優れた解剖学的要素をもっています。その蓋が感染を契機に急激に腫れてしまい、あれよあれよという間に上気道閉塞を起こし、単なる咽頭痛で来院した若年者が容易に死亡に至る危険な疾患(killerthroat painと呼ばれています)として有名です。

 この症例は、若年の健康な人が今にも窒息するかもしれない超緊急的状況です。よって、3.上気道閉塞 があてはまります。喉頭ファイバーによる観察を行い、挿管が不可能と判断されたのち、時間に余裕があれば気管切開、超緊急であれば輪状甲状靭帯穿刺(切開)が選択されます。

症例3:82歳男性 症例3は、COPDの既往がある

 過度の喫煙歴から、既往にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)がある。10日前から肺炎球菌性肺炎の診断でICUに入院し、気管挿管されていた。全身状態も改善してきており、幾度か抜管を試みようとするも痰が非常に多く、なかなかうまくいかない。呼吸器内科医の提案により、気管切開を行ったところ、順調な回復をみせ、自宅で療養することができるようになった。

【気管切開が適応になったわけ】
 82歳男性です。10日以上気管挿管されていますが、痰の量が多くて呼吸器を離脱できない状態です。痰が多いだけで気管切開の適応になるのか、少し不安になる人もいるかもしれません。

 近年では器具の開発と進歩により、人工呼吸器からのウィーニング(離脱)は可能であっても、痰が多くて管理が困難な場合には、排痰目的で輪状甲状靭帯切開を行い、気管吸引を容易に行える器具をつけたりします。それでも困難な場合は気管切開を考慮します。

 ほかに、挿管中でウィーニングが困難であることが予想された場合も気管切開の適応となります。以上の理由から、1.長期人工呼吸器管理が必要な可能性と、2.気道分泌物の管理目的で、症例3では気管切開が適応されると考えられるわけです。

【参考・引用文献】

1)丸川征四郎:気管切開の適応と禁忌.集中治療医学講座13 気管切開 外科的気道確保のすべて.丸川征四郎,編.医学図書出版,2002,p.7-12.
2)Hyzy RC:Overview of tracheostomy.UpToDate 2015(2015 年12 月1 日閲覧)http://www.uptodate.com/contents/overview-of-tracheostomy
3)Diehl JL,et al:Changes in the work of breathing induced by tracheotomy in ventilator-dependent patients.Am J RespirCrit Care Med 1999;159(2):383-8.
4)Gomes Silva BN,et al:Early versus late tracheostomy for critically ill patients.Cochrane Database Syst Rev 2012;3:CD007271.
5)Terragni PP,et al:Early vs late tracheotomy for prevention of pneumonia in mechanically ventilated adult ICU patients:a randomized controlled trial. JAMA 2010;303(15):1483-9.
6)Young D,et al:Eff ect of early vs late tracheostomy placement on survival in patients receiving mechanical ventilation.JAMA 2013;309(20):2121-9.
7)O'Connor HH,et al:Tracheostomy decannulation.Respir Care 2010;55(8):1076-82.
8)Ceriana P, et al:Weaning from tracheotomy in long-term mechanically ventilated patients:feasibility of a decisionalfl owchart and clinical outcome.Intensive Care Med 2003;9(5):845-8.

(「ナース専科」マガジン2016年2月号より転載)


この記事を掲載した2016年2月号についてはこちら
2016年2月号

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