【連載】Newsのツボ

「SHARE」とは?がん患者さんとのコミュニケーショントレーニングツール

解説 藤森麻衣子

国立精神・神経医療研究センター/精神保健研究所自殺予防総合対策センター 室長


▼看護師のコミュニケーションとマナーについて、まとめて読むならコチラ
看護師のコミュニケーションとマナー


伝え方の工夫でバッドニュースの影響が軽減

 難治がんの発症や再発・悪化、抗がん剤治療の中止など、いわゆる「バッドニュース」を患者さんに伝えるとき、難しさを感じるという医師の声をよく耳にしました。一方、患者さんもまた、告知のあり方に納得あるいは満足できず、精神的なダメージを受けることが少なくありませんでした。中にはうつ病を発症する人もおり、その数は約2割にも及ぶという報告もあります。

 このような現状を踏まえて始められたのが、「がん患者とのコミュニケーションのあり方を研修で学んだ医師が担当した患者は、手術後や再発告知後の心のつらさがやわらぐという」の研究です。簡単にいうと、医師に対し、バッドニュースを伝える際のコミュニケーションについて研修を行い、患者さんに対する影響と効果を評価するというもの。医師側が伝え方を工夫することで、情報をきちんと伝えつつ、患者さんの心理状態の悪化を防ぐことができるのではないかと予測し、コミュニケーション手法や研修方法だけでなく、それが患者さんに与える効果も評価することを目的としたのです。ここで新たに考えられたのが「SHARE」です。


 以前には米国で作られた「SPIKES」(ウォルター・ベイル作成)というコミュニケーショントレーニングツールを使用した研修が行われていたのですが、日本の国民性にはそぐわない部分があったため、患者さんが何を望んでいるか意向調査を行い、作成されました。

 患者さんが望む4つの構成概念──「支持的な場所の設定」(Supportive environment)「悪い知らせの伝え方」(How to deliver the bad news)「付加的な状況」(Additional information)「情緒的サポート」(Reassurance and Emotional support)をもとにプログラムを組み立てています。

 研修の基本はロールプレイで、SHAREをベースに「準備・起・承・転・結」と時系列で面接のポイントを確認。模擬患者を相手に医師が面接を行い、その様子をビデオ撮影し、第三者が評価します。受講した医師からは、その手法が身に付くだけでなく、自信にもつながるという声が聞かれました。

患者さんだけでなく診療にももたらされた変化

 研究の結果、冒頭のニュースの中にもあるように、研修はある程度の効果が認められました。それは患者さんについてだけでなく、医師の普段の診療にも現れているようです。よく聞かれるのは、話す時間よりも、聞く時間が長くなったということ。その結果、患者さんを理解しやすくなり、患者さん自身にもよい変化が生じるといいます。また、適度な間を取りながら患者さんのペースで話すことができるようになったとも話します。

 私自身臨床心理士をやっていたときにも感じていたのですが、患者さんは、バッドニュースを受け取るときに限らず、常に医師を頼りにし、相談したいと思っています。臨床心理士などによるカウンセリングも有効ではありますが、患者さんが病院でまず第一に求めているのは、実際に治療やケアにあたる医師のサポート。私は、こういった患者さんの声に応えるため、医師を支援したいとこの研究に参加しました。

看護にも活用できるコミュニケーション技術

 看護師のみなさんは、医師が患者さんにバッドニュースを伝えるときに立ち合い、さらにその後の患者さんとかかわることが多いと思います。少なからずショックを受けている患者さんに対することはつらいもので、つい逃げ腰になってしまうこともあるでしょう。その場合、どのように対応したらよいのか、研修プログラムを参考に、いくつかヒントを紹介してみます。

 患者さんが感情を表出させ、涙をこぼしているような場合は、まず黙ってそばに寄り添うことが大切です。そのときの患者さんは、ショックや悲しみ、混乱などのほかに不安も抱えています。誰かがそばにいることで癒されることが多いのです。そして少し落ち着いたら、「大丈夫ですか?」など声をかけ、患者さんの反応をみながら言葉を待ちます。患者さんから「いつまで生きられるのですか?」と予後(余命)について質問されたときは、「気になりますか?」「どうして知りたいのですか?」などと返し、その理由をアセスメントできるような会話へと導いていきます。

 知りたい理由が不安であれば、さらに何に対して不安を感じているのか、また、会社などの社会生活や結婚式など家族的なイベントとのかかわりであれば、どのような希望があるのか、より具体的な理由を明らかにしていきます。理由が明確になれば、対応が可能であることも多く、またその方法を一緒に考えることで患者さんとの信頼関係を深めることもできます。

 看護師も患者さんの治療やケアと密接なかかわりがあります。ですから、医師と同様に患者さんにとっての頼れる存在であってほしいと思います。

 今回の研究で実施した研修は、日本サイコオンコロジー学会で継続して定期的に行っています(がん医療に携わる医師に対するコミュニケーション技術研修会)。こちらは医師を対象としたものですが、同学会では、がん患者さんの精神心理的ケアのアセスメントと具体的な対応方法について学べる看護師向けの研修も実施しています*。機会があったらぜひ活用してみることをお勧めします。

 *……2014年9月現在の情報。実施しているかは、サイコオンコロジー研修会http://jpos-society.org/seminar/でご確認ください。

Nurse's comments がん患者さんとのコミュニケーションについてどう思う?

ナース専科コミュニティの会員のみなさんにがん患者さんとのコミュニケーションについてどう思うかを聞きました。

●患者さんが思いを表出してくれるようになるまで時間を要する。信頼関係ができてしまえば、本人も家族も言いたいことを言ってくれるが、それまでに貴重な時間を費やしてしまうことに悩んだことがある。(神奈川県 のこ)

●この研修はよいと思います。しかし普段は患者さんのところに足を運ばないような医師の場合はどうでしょう。何かあったときだけの面接では信用されていないと思います。医師が患者さんと日常的に話をすれば、この研修がもっと役に立つと思います。(福岡県 ちいさん)

●患者さんと医療従事者の信頼関係は必須。一方通行でなくコミュニケーションが可能な関係から治療は始まると考えます。(茨城県 なな)

●医師向けの緩和ケアセミナーに参加した。患者さんの思いを受け止めながらの告知方法など、さまざまな研修を2日間行い、医師もコメディカルも実際の患者さんに告知するときにとても役立つ研修だったと思う。このような研修は1人でも多くの医師やコメディカルに参加してもらいたい!!(長野県 みつやさいだー)

●死に対する恐怖や、医師に対する怒りの感情を露にされたとき、どのようなリアクションをとってよいのかと悩みます。私の発した一言が、患者さんの心に傷を
つけたりしないか、構えて接してしまいます。(大阪府 しょうた)

●がん患者さんがいかにその人らしく過ごせるかは、看護を提供していく看護師にとって重要な課題。患者さんのことを少しでも理解するために、コミュニケーシ
ョンを図るのはとても大切なこと。言語的コミュニケーションだけではなく、非言語的コミュニケーションも活用していくことで、さらに患者さんについて理解
が深まると思います。(北海道 はるな)

●告知が苦手な医師が多いと思う。本人の精神的ダメージを考えて告知しない、なんて言う医師がいるが、医師自身が弱いだけなのではと感じる。(沖縄県 プーさん)

●あとどのくらい生きられるか、死んだらどうなるのかなど、自分にもわからないことを聞かれると言葉につまる。(京都府 ぱんだチーズ)
●がん看護にかかわっていますが、このような研修があるなら私も参加したいと思いました。患者さんは言葉で表現できないほどの苦痛を抱えています。業務に追われてしまい、精神ケアまで手がまわらず不十分な対応にとても悩んでいます。(千葉県 ぴーち)

●コミュニケーションが取れる医師がいることは、患者さん家族にとっても心強いと思う。十分な説明をし、治療を一緒に考えていくことが必要だから。中には、十分な説明もせず、独断で決めて、承諾を得ればいいというような医師もいるし。(静岡県 つぐとも)

(ナース専科2014年10月号より転載)

次回は、看護師が行うコミュニケーションについて考えていきます。

ページトップへ