【連載】口腔ケアって簡単に言うけどねぇ…

第5回 周術期の口腔ケアはなぜ必要?

執筆 関谷秀樹

東邦大学医療センター大森病院 栄養治療センター嚥下障害対策チーム長、がんセンターがん口腔機能管理部長、口腔外科、東邦大学医学部口腔外科学教室

術前の口腔衛生状態は術後にも影響する

みなさん、こんにちは。今回のテーマは、前回の続編の「外科手術の周術期管理と口腔ケア(その2)」です。その1では、「外科手術周術期におけるオーラルマネジメント」のなかで、全身麻酔周術期のオーラルマネジメントについてお話させていただきましたが、今回は外科手術の視点からお話させていただきます。

当院での手術周術期の口腔ケア・管理のタイミングを図1に示しました。私たちは、他の病院で行われている周術期管理とやや異なる方式を採っています。通常は、外科医より依頼されて口腔管理を行う方式ですが、当院では周術期センターに常駐した歯科衛生士が、口腔管理の必要性を口腔チェックにより、かかりつけ歯科へ通院するか、口腔外科外来を受診させるか、そのまま手術可能かをトリアージします。これを口腔トリアージ方式と呼んで布教しています。

周術期口腔管理の流れ

何らかの形で術前歯科(口腔外科)受診が必要なトリアージ率は、外科系総合で図2のように2割程度となっています。看護師さんは、この割合を念頭に、周術期(とくに術前)のオーラルマネジメントを計画する必要があります。術前の口腔衛生状態の不良は、術後にも影響するということを心してください(術前きれいにしていれば、術後もしばらくは維持できる、そして、術前に不良な患者さんほど、術後も不良になるのが早い)

看護部主導で、術前の口腔のチェックを含めた周術期(入院)センターを術前に受診するシステムを構築するすることが
看護師が口腔ケアのコーディネーターとして役割を果たすのではないか、と思います。

周術期センターからの口腔外科受診率

オーラルマネジメントの必要性

オーラルマネジメントの必要性についてエビデンスのある外科手術は、いまのところ、心臓血管手術、生体臓器移植手術、消化管悪性腫瘍手術です。

心臓血管手術において、口腔衛生管理が必要なことは、心筋梗塞の血管内のプラークに口腔常在菌が存在したという報告からもおわかりかと思います。まだまだ私たちは研究を進めなければなりませんが、歯周組織や根尖病巣より侵入した細菌が免疫による攻撃や撃退を受けずに、血管内に到達した現象と思われます。ということは、ある基準(研究中です)を超えた歯周病(歯槽膿漏)や齲蝕による根尖病巣(虫歯菌の歯根尖への漏出)が存在したままであると、心臓血管手術の術後合併症のリスクが上がってしまうことになります。だからこそ、術前術後の口腔ケアは重要になるわけです。

生体臓器移植手術においては、臓器の生着のために術後に強力な免疫抑制を行います。その段階で、いままで自己免疫で発症を抑えられていた歯周病(歯槽膿漏)などが急性発作を起こして、強い腫れや痛みを惹起させます。その段階では移植臓器に負担をかける抗菌薬や消炎鎮痛剤などの治療は制限を受けますので、十分に症状を緩和することができない悪循環になってしまいます。当院腎センターでは、移植が決まりドナー・レシピエント精査の段階で、こうした感染源が口腔に存在しないかをチェックしますが、担当医師からの歯科・口腔ケアへの術前の受診依頼率は、外来の看護師さんの説明にかかっているといっても過言ではありません。

最後に、上部消化管悪性腫瘍手術の術後肺炎などの合併症は口腔ケアで減少させることができる、という論文をご存知でしょうか? これらの論文で、外科周術期の口腔ケアの重要性が注視され、歯科診療報酬に「周術期口腔機能管理」という概念が入ってきました。この概念は、まだまだエビデンスに乏しく、私たちを含めた多施設で臨床研究が展開されており、実際に外科手術のどの部位の手術合併症予防に口腔ケアは有効なのか、という点を掘り下げています。
外科手術周術期のオーラルマネジメントのまとめ図3に示しました。

周術期のオーラルマネジメントまとめ

このように、「入院して外科手術を受けること」を契機に、一生涯で継続可能な口腔機能管理が行われるような意識の高い国になってくれることを願ってやみません。退院後のかかりつけ歯科を作ることも大切です。
それではまた次回。Tschüs! Bis dann!(さようなら。またね。)

ページトップへ