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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第40回 自分の認識を問い直すー「生活者としての患者」へのまなざし

解説 澤田 明子(さわだ あきこ)

いわき明星大学 保健管理センター 認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 運営委員

Sawada

Depex

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


皆さんは簡単には治らない病気、長く病気を抱えて生きていかねばならない患者さんを前にしたとき、どんなことに意識が向きますか?疾病管理と治療に関わる情報収集やアドバイスは、もちろん大切ですが、目前の疾患のみに注目した会話だけで、果たして十分と言えるのでしょうか?ここでは「生活者としての患者」をテーマに、患者さんとのコミュニケーションのあり方を考えてみましょう。


その人の「生活」に目を向ける

57歳のときに進行性の前立腺がんで余命1年と診断された男性

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それも気功の先生に言われたんだけども、要するに、肝臓がんでも、肝臓がんだったら、普通は酒を飲んじゃいけないって言われますよね、医者が。ね。でも、その気功の先生は、本当にお酒が好きだったら、ね、特効薬として飲みなさいって。それが救いでしたね。よし、おれはもう助かったと思った。あ、特効薬いただきますって言ってね。いつも、ビール飲むときに、うん、感謝して特効薬をいただくと。やっぱりストレスがね、すごいね、いけないと思う。だから、僕は、がんになっても何しても、病院以外だったらビールでも何でもやめなかったし。飲んだら大変になるとか何とも何にも思わなかった。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 前立腺がんの語り」より

70歳のときに進んだ前立腺がんでもはや手術は難しいと診断された男性

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それからあとは、そうですね、食べるもの、それまでの私の日常の習慣、そういうふうなものは何ひとつ変わっていません。相変わらず、もうあの出血があって、なんかして、まあ1ヶ月ぐらい休みましたかね。もう2ヶ月目には同じようにゴルフに行き、スポーツクラブで泳ぎ、やっぱりこれは病人にならなかった、入院しなかったからだと、まあそんなふうに、自分では思っておりますね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 前立腺がんの語り」より


この2つの語りに、どんな印象を持ちましたか?最初の方は、がんが全身の骨に転移していても、治療を医師任せにせず自分なりに考え、西洋医学だけでなく、東洋医学や民間療法などにも挑戦し、奥様とともに日々取り組んでいらっしゃいました。好きなお酒はやめることなく特効薬として楽しみつつ、がんが大人しくしてくれていることに感謝しながら暮らしていました。2人目の方は、医療関係の仕事柄、入院したら、病人になってしまうと感じ、通院できる治療法を選び、これまで通りの生活や趣味を続けてきたそうです。

病院という限られた場で出会うと、医療者はどうしても患者さんの「病人」としての側面だけを見てしまいがちです。先ほどの患者さんたちも、進行がんを患いながらも自分たちにとって、できるだけ「元気でいられる」ような生活を続けていました。お二人がお酒やゴルフを楽しまれていたように、患者さんにはそれぞれ病気になった後も病気になる前と変わらない健康的な側面があり、それはその人の日々の生活の中に現れてくるものだと思います。

医療者が「病気」や「治療」にばかり目を向けることで、生活に制限をするなどして患者さんの生きようとする力を弱めてしまってはいないでしょうか。患者さんと対話するとき、自分のうちに見方の偏りがないか、時には振り返ってみてください。患者さんには、一人ひとり異なる価値観があり、生活があります。生活に彩りや潤いがあることが結果的に病気の勢いを弱めてくれることもあります。その人の「生活」に目を向け、自分らしくあろうとする患者さんの言葉に耳を傾け支援することが大切なのではないでしょうか。


「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。