お気に入りに登録

【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第22回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「義歯を急に使わなくなったとき、どうしたらいい?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

執筆 金子信子(かねこのぶこ)

医療法人おひさま会 / あさの歯科医院

認知症の82歳女性。いままで使っていた義歯を食事中に外すようになりました。何度か装着を試みましたが拒否されました。食事形態は一口大のままですが、食べることはできています。しかし窒息も心配です。もう一度義歯を使うようにしたら良いでしょうか。それともこのままで良いのでしょうか。


義歯は良好な食塊形成に必要で、できる限り装着した方が良いでしょう。さらに義歯は咀嚼だけではなく、顔貌の維持、構音にも影響があります。そのため日ごろからの装着が望ましいということです。では、認知症患者さんが義歯を外してしまうのはどのようなときでしょう。認知症の患者さんは具体的な理由を伝えることが苦手になっているため対応が困難です。再び装着を試みても不隠状態になることもあります。
今回は義歯を拒否してしまう認知症患者さんについて考えてみます。


義歯を外すようになった理由を考える

まず、患者さんが今まで使っていた義歯を外すようになる理由についてです。義歯を外してしまう一般的な原因と対処方法を挙げてみましょう。

(1)口腔内に原因がある

 認知症の患者さんは症状を上手く伝えられないことがあります。疼痛や違和感があっても訴えられないまま、義歯を外しているのかもしれません。義歯を外す行為があったら、疼痛の原因や違和感の有無を確認してみてください。
 
 疼痛の原因として考えられるのは口内炎、義歯が擦れたことによる潰瘍、う蝕の進行、歯周病(歯肉腫脹)です。また、義歯が壊れている、欠けている、適合が悪いなど義歯の違和感が原因で外すこともあります。義歯装着時は義歯を軽く押さえて口腔内で安定させますが、この時に義歯が不安定ではないか、部分義歯の場合はバネが緩いもしくは硬くないか確認してみましょう。
 
 口腔内の問題(痛みや義歯の違和感など)が解決できれば再び義歯を使える可能性がありますので、歯科の受診を勧めてください。また、口腔内の確認がむずかしいときも歯科受診をすすめましょう。
 

(2)義歯の使い方が分からなくなった

 認知症のなかでもアルツハイマー型認知症は中核症状に「失認」があります。その影響から食具(箸、スプーン、フォークなど)が認識できず、手づかみで食べる患者さんもいます。これと同じように、「義歯は口腔内に入れて使うもの」が分からないことがあります。
 
 これは拒否というよりもわからなくなってしまったという症状です。認知症患者さん本人が義歯を着脱していた場合にみうけられますので、看護師さんが本人に代わって装着することで使えることもあります。

(3)義歯を異物と感じる

認知症患者さんのなかには義歯を突然に異物として認識してしまう患者さんがいます。最初は義歯を装着して食事しますが、義歯を異物と思い始めると食事中に外すようになります。義歯を装着できる時間はさらに短くなり、ついには義歯を装着してもすぐに外してしまいます。このような場合は義歯をもう一度使うことはむずかしくなります(写真)。

(4)義歯の安定が悪い

 まず義歯はどのように安定するのかをお伝えします。総義歯は粘膜と義歯の間に唾液が入ることで安定します(吸盤と同じ原理)。部分義歯はこれに加えて義歯についているバネ(クラスプ)が残っている歯に引っかかることで安定します。さらに不安定になった義歯を抑えるときは、舌・頬・口唇が適度に緊張し義歯を安定させるため、口腔機能も義歯安定に影響します。このような義歯安定の条件が不足していると,咀嚼とともに動いてしまい食塊形成がしにくくなります。このような状況では義歯が無い方が食べやすいため、患者さんは義歯を外してしまいます。

(5)違う人の義歯が入っている

 施設の場合は同じような形の義歯が多く、誤って違う方の義歯を使っていたということもあります。この場合は入れ違ってしまった双方の義歯をきれいに消毒してそれぞれ持ち主に戻せば問題ありません。本人の義歯か分からないのであれば、歯科受診して本人のものかどうか診てもらいましょう。

今回の患者さんの場合

では、今回の患者さんを考えてみましょう。(2)は今回の患者さんには当てはまらなく、(1)(5)は義歯を外す原因が解決できれば義歯を使うことができるので食事形態も一口大で大丈夫です。(4)は歯科受診で解決できるかもしれません。むずかしいのは(3)です。義歯の再開は困難なため、食事形態の変更を検討します。

看護師さんの見守りが可能であれば一口大で様子をみても良いかもしれません。見守りがむずかしいのであれば窒息予防のため、食事形態は刻むあるいは食塊形成の必要がない形態に変更したほうが良いでしょう。この提案に対してご本人やご家族が食事形態の変更をどうしても拒否する場合、食事形態は一口大のまま様子をみることになります。この時は窒息リスク(時として生命の危機になること)を十分に説明してご本人・ご家族にご理解いただいてください。

患者さんが義歯を使わなくなってしまう原因はこのようにいろいろあり、対処方法もいくつかあります。患者さんが食生活を安全に楽しく保つには、看護師さんの日頃の観察がとても重要です。

認知症患者さんの食事の写真

ページトップへ