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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第41回 患者さんの本当の気持ちに寄り添うには、自分を知ることも大切

解説 中村 千賀子(なかむら ちかこ)

認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 理事

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Depex

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


患者さんには痛い、苦しい、淋しいなど、自分でもよくわからない感情がたくさんあります。そんな不安や悩みで苦しむ患者さんに声をかけようとする看護師たちの心も、実は動いています。患者さんの言葉や表情からその気持ちを理解して適切な声掛けをするには、まず、看護師自身の感情を知ることが大切です。


自分の感情を言葉にして自分を眺め、落ち着きましょう

27歳で乳がんと診断された女性(インタビュー当時33歳)

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病室で1人になって、そのときに、すごい恐怖が襲ってきて、…その手足がかたかた震えだして、涙はやっぱり出ないんですけども怖くて怖くって…。そうしていたら、看護師さんが入ってこられたので、少し、ほっとして。あ、看護師さんがきっと慰めてくれるんだろうと思って、期待して待っていたんですけど…「大丈夫ですか?」の一言もなく、…「今は、動揺しているでしょうから、あとで、この紙、読んどいてください」って。…「あれー?」って、「慰めてくれるもんじゃないんだな」とそのときすごく感じたのを覚えています。
――「NPO法人 健康と病の語りディペックス・ジャパン>乳がんの語り」より

42歳で乳がんと診断された女性(インタビュー当時44歳)

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(この語りはテキストのみです)

(友人から)言葉をかけてもらいたいとは思っていないんですけど、逆に「あんまり心配しないで」っていうか、「そこ、気にしなくていいよ」って思うんですよ。「私を見て、そこ(病気)のところをまだ気にしなくていいよ。そういうところじゃないところを共有しましょ」って。…(中略)…まあ、お酒を飲んだりすることの友達が多かったので、あんまり、そういうような、深刻な話とかを、もともとしないので。ただ、いつでも皆さん、やっぱり駆けつけてくださったし、それはもう、本当にどこのどんな人でも、みんな飛んできて、お見舞い来てくれたり、声掛けてくれたりあって。早く戻りたいなっていうのはありましたけど。
――「NPO法人 健康と病の語りディペックス・ジャパン>乳がんの語り」より


ケアには患者の感情への働きかけがとても大切です。社会学者のアーリー・ホックシールドは、看護師をルーツとする客室乗務員を研究し、このような仕事を「感情労働」と名づけました。肉体労働は体力を、頭脳労働は知識を提供し、感情労働は、相手の感情をより適切な状態にすることで対価を得ます。看護師の仕事はまさに「感情労働」です(パム・スミス)。

相手に対する社交的・表面的な関わりなら、看護師の心は動かずに済みます。しかし、本気で、相手をケアし、その気持ちをよりよいものにしたいと思うと、看護師自身の感情も大きく動きます。看護師はそんな時でも自分の感情におぼれず、理性的に考え、相手に言葉をかけなければなりません。

「今は動揺してるでしょうから」といった看護師にも、「病気のことばかり気にする」友人にも、その人を思いやる気持ちはあるのです。けれども、みな、良かれと思うだけで、本人の気持ちをじっくり理解する前に、自分なりに相手を決めつけ、言葉を掛けてしまいました。「大丈夫ですか?」という言葉を待つ人や、「そこ、気にしなくていいよ」と思っている人にはピンとこない言葉なのです。

その理由の一つに、声を掛ける自分の中に流れる感情に邪魔されていることに気づかない場合があります。自分の無意識の感情に流され、目の前の人を理解しようとする前に、あわてて一般的な声掛けをしてしまうのです。そんな時は、自分の中に生まれている感情を、心の中で「今、私は、動揺する患者さんをみて悲しく、辛くなった」とか、「友達ががんといわれて、悲しくてかわいそう」と、言葉にしてみると、少し落ち着けることでしょう。

その上で、相手の表情や言葉から伝わってくる感情を、じっくりと味わい(これこそ、理性的な行動です)ながら、「ショックを受けたのですねえ」、「病気のことばかりでしんどいですね」などと、その話の内容や相手の表情から理解できたことを、言葉にして相手に確かめ、「そうです」という答えをもらってから、相手に自分の意見や希望を伝えても遅くありません。


「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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