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【連載】訪看ステーション「よつば」の公開カンファレンス

CASE02 やり場のない痛みのコントロールと向き合う

執筆 川上 加奈子(かわかみ かなこ)

株式会社のものも よつば訪問看護リハビリステーション 看護主任

Kawakami02

Yotuba

困難事例2「“誰もから見放されてしまった”という、やり場のない痛み」があるケース

64歳女性。59歳のとき、自動車事故で頸髄(C3.4)を損傷し緊急入院。
車椅子生活になると同時に嚥下機能も不完全となり、退院後も誤嚥を繰り返していた。
それから約7年後、長年の車椅子生活と誤嚥性肺炎を繰り返すことで栄養状態と免疫力が落ちてきたためか、仙骨部と左踵に褥瘡を形成。
褥瘡の発症とともに下肢の痺れや痛みが出現し、痛みの原因を探るべく再度入院へ。

検査の結果は異常なしとのことで、内服の変更とボトックス治療を試みることに。
しかし、痛みは全く軽減されず。さらに痛みを抑える内服薬が増量となり、傾眠がちで食事量も低下し体重も減少(10キロ減)した。
半覚醒での食事摂取による誤嚥リスクの増加とともにストレスが増大し、本人の強い希望で退院となった。

入院中に褥瘡は治癒したものの、下肢の痛みと痙性は改せず悪化。特に夜間に痛みが強く、1時間ごとの体位交換と4時間ごとのロキソニン内服で、本人も家族も限界の状況。そんななか、2016年4月に再び誤嚥性肺炎を発症。
往診医もよつばスタッフも入院を勧めたが、家族より「肺炎より、痛みをなんとかしてほしい。どこの病院に行っても、『あの有名な専門病院で痛みのコントロールができないなら、うちでは無理ですから』と断られてしまい、もうどこに救いを求めたらいいのかわからない」と訴えがあり、入院を拒否。

「殺してほしい」「脚が焼けるように熱い、痛い!」と訴え続けるAさんの状況に、よつばスタッフもじっとしてはいられず、地域のペインクリニックを調べ、利用者情報を送り、受け入れ先を必死で探した。この結果、「ブロック注射を試してみましょうか」というクリニックがみつかった。

Aさんによれば、初診時にクリニックの院長から、「今まで本当に大変でしたね。一緒に痛みをコントロールできないか考えて行きましょう」とはじめて言われたのこと。
その後も、処方薬に大きな効果はみられず、試行錯誤を繰り返してはいるが、クリニック受診の日だけはAさんは「ぐっすり眠れる」とのこと。
このクリニックの院長に出会えたことで、Aさんは心をやっと開いたのであった。


カンファレンスの視点

傾聴や受容とは、よく耳にするものの実際、利用者さんにとってどれくらい重要なことなのだろうか。
病院を変えても投薬量を増量しても痛みのコントロールができなかったAさん。多くの病院から匙を投げられ、家族も対応に苦しんでいたAさんが、ペインクリニックの院長との出会いによって眠れるようになった。
今回、深く考えさせられた事例があったため、よつばステーションでは、振り返りとしてカンファレンスを開くこととなった。


rin
りん:今回の事例、いろいろ視点があると思うけど、何が1番大事だと思いますか?

kana
かな:この事例の場合、たしかに病状的には誤嚥性肺炎で大変だったのだろうけど、Aさんにとっては痛みのコントロールをすることが1番大切だったみたいですね。

saki
さき:私はAさんの痛みをなんとかしてあげたいと思ったけれど、薬の調整は先生がすることだし、だから、なるべく傾聴をして痛みに寄り添うように努めたつもりです。

ta-tin
たーちん:ご主人も一生懸命介護をしているけれど、どうにもしてあげられないジレンマで、夫婦で喧嘩になることもありました。だから私もAさんとご主人、両方の気持ちに寄り添えるようにしていましたね。
Aさんが眠っているときにはご主人の気持ちに寄り添い、Aさんが夫に腹を立てているときは、いかに痛みがつらいのかということに共感して、気持ちが落ち着くようかかわっていました。

honoka
ほのか:ご主人も、痛みに関してはなかなかうまく対応できずにいたので、実際に奥様に何かをしてあげられているという実感をもてるよう、ご主人への吸引指導も始めましたよね。
はじめは怖がられていたけど、何度か指導して行くうちにできるようになられて・・・。
Aさんも看護師を待たずに、苦しいときにご主人に吸引をしてもらえるようになって嬉しそうだったし、何よりご主人が吸引できるようになられたことで、発熱の頻度が明らかに減りましたものね。

saki
さき:うん。ご主人が吸引できるようになられたことで、ご主人も自分が妻の役に立てているという充実感を少しはもてたのではないかと思う。家族はずっと側でつらい状況を見ているから、家族にわかりやすい役割を与えることも大切なのかなと感じた。

ta-tin
たーちん:Aさんの痛みの原因は、もちろん疾患からくるものも大きかったと思いますが、精神的ストレスや不安からの痛みも拍車をかけていたのだと思います。
だからこそ、メンタルフォローもできつつ、痛みの治療を主とするペインクリニックを紹介してあげられたことが、Aさん家族にとってはとても意義のあることだったのだと思います。知っていそうで知らない情報というのも多々ありますからね。

rin
りん:はい。でも、私は何より、このペインクリニックの先生の対応が素晴らしかったと思うんです。とことん痛みの訴えに向き合って一緒に考える姿勢。これこそムントテラピーだと感動したんです。
きっと他の先生方も治療としては同じようなことをしてくれていたとは思うんです。それでもAさんがその先生に厚い信頼を寄せたのは、とことん患者さんの訴えに耳を傾ける“傾聴”の姿勢ができていたからなのかなと思ったんです。

saki
さき:そうなんですよね。だから受診したその日だけはぐっすり眠れた。つまり、薬じゃないんですね。もちろん薬も必要なんだけど、それ以上に、『この先生は諦めずに話を聴いてくれる』という安心感が、痛みさえ緩和させてるってことですよね?



次のページでは、「ムンテラ」の意味を考えます。