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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第25回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「口腔ケアを嫌がる患者さんにどう対応する?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

執筆 金子信子(かねこのぶこ)

医療法人おひさま会 / あさの歯科医院

認知症(レビー小体型)の84歳男性、少しずつ口腔ケアを嫌がっていましたが、今は断固としてさせてくれません。しかも口腔ケアをしようとすると指を咬まれそうになります。口臭も目立ってきましたし、以前に誤嚥性肺炎もしているので口腔ケアは必要だと思います。どうしたら良いでしょうか。


レビー小体型認知症はパーキンソン病に似ており、嚥下機能の低下を認め誤嚥しやすい認知症です。つまり、他の認知症に比べると誤嚥性肺炎のリスクが高いということです。そのため、誤嚥性肺炎予防の口腔ケアは不可欠です。しかしながら認知症の周辺症状のうち陽性症状(暴言・暴力、過食などエネルギーが多い状態1))が出現すると、口腔ケアに苦労します。
今回はレビー小体型認知症の陽性症状が強い(前頭葉症状が表面化するLewy Pick Complex=LPC)患者さんについて考えてみます。


口腔ケアを嫌がる原因と対応を考える

まずは認知症患者さんが口腔ケアを嫌がる原因と対応方法を挙げてみましょう。

1 自分で磨きたい
認知症患者さんは介助が必要と思い込みがちですが、歯ブラシを渡せば自分で歯磨きができる方もいます。拒否していたのは「自分でできるのに」という思いがあったかもしれません。まず歯ブラシを本人に渡してみてください。このときの声掛けにはポイントがあります。認知症患者さんは長い文章を理解するのが苦手なので、単純に「磨いてください」だけの方が理解してもらいやすいです。磨きはじめたら見守りをしつつ、義歯の手入れや含嗽など必要に応じて手伝ってあげてください。また、自分で磨いたとしてもどの程度磨けているのか、義歯装着時に義歯を誤飲しないか、うがいの時に誤嚥していないかなどの確認をしましょう。
 
2 口腔ケアが痛かった
介助者が口腔ケアをする場合、「歯磨きをしなくてはならない」という心理的負担と緊張から力が入りすぎることがあります。この状態で口腔ケアを行うと歯・歯肉・口腔粘膜が傷つき、痛みを伴います。その痛みが口腔ケアを拒否する原因になったのかもしれません。口腔ケアで痛みを伴わないようにするには力を入れすぎず、優しく磨くことがポイントです。そのためには、歯ブラシはペングリップ(鉛筆を持つ持ち方)で持ち、文字を書く筆圧程度の力で磨きます。動かし方は2~3cm程度の往復運動で、少しずつ磨く場所を移動してきます。このとき、上唇小帯に歯ブラシのプラスティック部分が当たると非常に痛いです。小帯の位置は口唇をめくって確認し、歯ブラシが小帯に当たらないようにします(写真)。 口腔ケアが痛くなければ、拒否も和らぐかもしれません。

口唇小帯

3 口腔内に原因があった
認知症患者さんは歯科疾患が進行していても、症状をうまく訴えることができません。歯ブラシがう蝕・歯周病の患部に当たり、痛かったのかもしれません。もしくは義歯を外そうとしたときに痛みがあったのかもしれません。指を咬もうとする行為は、触ってほしくない意思表示の可能性もあります。このような場合は歯科に協力してもらい、口腔内を確認してもらうと良いでしょう。

口腔ケアはできそうなときに無理せず

今回の症例はレビー小体型の認知症です。レビー小体型認知症の特徴は良い状態と悪い状態の変動が大きいことです。そのなかでも陽性症状が強いLPCは、強制的に開口させて口腔ケアをしない方が良く、口腔ケアができそうなときに無理せず行いましょう。そのかわりに食事時に提供されている水分を摂取して、食事が口腔内に残らないようにします。特に粘稠性の高い食事形態(ミキサー、ペースト状など)の場合は口腔内に食事が残りやすいので、食事の最後は水分摂取を徹底して口腔内をきれいに保てるようにしてください。含嗽は無理にさせると誤嚥する可能性があるため、嚥下機能が低下しているレビー小体型認知症患者さんには控えても良いでしょう。また、歯磨粉の使用は歯磨粉を誤嚥する可能性がありますので控えてください。

何日も口腔ケアができていない、口腔ケアを介助して咬まれた場合は歯科によるプロフェショナルケアをしてもらうのも方法です。しかしながら歯科のプロフェショナルケアを利用したからといって、日常的な口腔ケアがいらないということではありません。プロフェショナルケアの後はその状態をなるべく維持することが大切です。それには看護師さんの日常観察と日々の口腔ケアがかかせません。

【参考文献】
1)伊古田俊夫: 脳からみた認知症. 株式会社講談社, 東京, 101-122, 2012.

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