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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第27回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「義歯を外してくれない患者さんにどう対応する?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

執筆 金子信子(かねこのぶこ)

医療法人おひさま会 / あさの歯科医院

アルツハイマー型認知症の76歳男性、食後の口腔ケアで義歯を外していただきたいのですが、外してくれません。こちらが外そうとすると、口を開けてくれません。どうすれば良いでしょうか。


 患者さんは義歯を使うとき、歯科から義歯について様々な指導を受けています。指導内容は義歯の手入れ方法、口腔内もしっかりきれいにすること、就寝時は義歯を外して水に浸して保管することなどです。患者さんがセルフケアしていたころは、おそらくできていたことでしょう。しかしながら認知症が発症すると、セルフケアが困難になります。歯磨きや義歯のお手入れが患者さん自身ではできなくなることもあります。そのため介助者が口腔ケアを行うことになりますが、義歯を外さないという症状を認めることもあります。まず介助者が外すのではなく、本人に外してもらうことを試してみてください。認知症患者だからといって全てを介助するのではなく、「入れ歯を外してください」、「入れ歯を入れてください」といった単純な言葉で指示すると患者さんが自ら行うこともあります。
今回は指示しても外してくれなく、口を開けてくれないため義歯が外せない、義歯を外そうとすると咬むといった場合を考えてみましょう。


義歯が外せない原因と対応方法

 今回の症例のように義歯を外せなくなってしまった症例の主な原因と対処方法について考えてみます。

1 義歯を義歯と思っていない
アツルハイマー型認知症は中核症状によって義歯が義歯であるという認識がなくなることがあります(失認)(引用文献1)。つまり自分の歯(天然歯)と思っていることがあり、外せるわけがないという思いです。このようなことは急に外さなくなるというよりも、認知機能の低下とともに少しずつ認めるようになります。義歯を外せるときには今まで通り義歯を外しますが、どうしても難しい場合は無理に外そうとせず義歯を装着したままで口腔ケアをしても良いでしょう。口腔ケアの方法は歯がある患者さんと同じ方法で行います。このときに歯磨き粉は使用しないでください。歯磨き粉に含まれている研磨剤で義歯を傷めてしまう可能性があります。しかし歯磨き粉を用いた時の爽快感を得られません。このときは希釈したマウスリンスを歯ブラシの毛先に付けてから磨くと爽快感を得られます。

2 義歯を盗られると思っている
アルツハイマー型認知症の場合、義歯を盗られたくないので外さないということがあります。この場合は義歯を本人に外してもらう、洗面所において患者本人と一緒に義歯を洗うなど、常に自分の手元に義歯があるようにして安心感を持ってもらうようにしましょう。この症状はアルツハイマー型認知症でも末期になると消失します。

3 義歯に対する執着心
認知症の患者さんはこだわりが強くなることがあります。この強いこだわりから義歯に対して執着心が出現し、無理に外すと1の場合と違って不穏状態を引き起こしやすいです。この場合も義歯を外せるときには外しますが、どうしても無理な場合は装着したまま口腔ケアを行うと良いでしょう。

4 義歯を外すときに疼痛を伴ったことがある
患者さんは義歯を外してもらう時に痛かった、乱暴に外されたなどの過去の苦痛な経験から外したくないと思うことがあります(写真)。しかしながら認知症の進行のためその事実を上手く伝えられません。この場合は急に外さなくなることが多いので、歯科医師・歯科衛生士に相談してプロフェショナルの手を借りて口腔内を確認してもらい義歯を外してもらうのも方法です。

義歯によってできた傷、実際の写真

義歯を外さないといった状況は周辺症状や疼痛が緩和されたら義歯を外すようになるため、一時的なことが多いです。
いくつか原因と対応方法を考えてみましたが、1~4が複合していることもあります。今回の症例の場合、認知症初期であれば1もしくは2が原因なことが多く、認知症中期であれば3が原因なことが多くなります。4はアルツハイマー型認知症だけではなく他の認知症でも全般に言えます。もし、義歯が外せるような機会があれば外して、口腔内に異常がないかなど歯科的な治療が必要かどうかを観察してください。口腔内の確認や観察が難しい場合は歯科に相談し、口腔内の現状や口腔ケアの具体的な方法を教えてもらっても良いでしょう。口腔ケアが患者さんにとって苦痛にならないよう、看護師さんも楽になるよう歯科に協力を求めることも大切です。

【引用文献】
1)新井康司, 角保徳, 植松宏, 三浦宏子, 谷向知: 痴呆性高齢者の歯科保健行動と摂食行動. 老年歯学, 17(1): 9-14, 2002.
 

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