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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第43回 患者さんや家族の経済的な気がかりに目を向けよう!

解説 森田 夏実(もりた なつみ)

東京工科大学医療保健学部看護学科 教授  認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 運営委員

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


 医療者の一番の願いは、患者さんが治療を継続して、少しでも生活の質を向上させてほしい、ということです。でも、看護師は、患者さんを理解するとき、長期治療や介護にかかる費用について、しっかりと考えているでしょうか?患者さんが、回復するためには高額な治療費が必要だけど、治療費を払うと生活ができなくなるかもしれない…と悩んでいることを、十分に理解できていますか?また、患者さんを支える家族にも、仕事を辞めたり、収入が減ったりするという、経済的な気がかりがあることに目が向けられているでしょうか?


治療や介護を続けながら生活していくって、お金がかかるんですよ

高額な治療費にびっくりした64歳で前立腺がんと診断されたAさん

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一番びっくりしたのは、そのリュープリンという注射ですよね。あれは1ヶ月に1本っていう感じでするということだったんです。その1本がね、3割負担で、その当時、1万7,000円ぐらい。3割負担で1万7,000円ですから、1本、何万円するんですかね。で、3ヶ月持つやつもあるんですよね。それは、3倍近くしたらしいですわ。まあ製薬会社が、その薬だけで何百億円かもうかったっていう話があるくらいですから、まああれなんですけど。でも、薬だと、飲む薬カソデックスと、注射のリュープリンだけですから、まあずっとその調子でいくと、まあ月2万とかね、2万5,000円とか、そういうことがかかるんですよね。だから、毎月それだけかかるとなると、ほかの病気もありますから、年金生活ではちょっとなかなかっていう感じですよね。
――「NPO法人 健康と病の語りディペックス・ジャパン>前立腺がんの語り」より


がん患者さんは、長期間にわたって外来で治療を継続しますが、副作用による体調不良のため、公共交通機関が使えずタクシーを使わなければならないとか、休職を余儀なくされ、収入がなくなるという状況も生じることがあります。

認知症の実父を介護している27歳のBさんは、19歳の時に父親が脳梗塞になりました。その後父親がアルツハイマー型認知症と診断され、それまで介護していた母親も体調を崩したため、一人娘だったBさんは介護退職。両親の面倒を見ていますが、経済的にも追い詰められたと話しています。

介護離職で収入無く、両親の年金では介護や生活できないと嘆くBさん

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家で、父親を看て、母を看て。介護離職してしまっているので、そのときまで貯めていたお金で。あと両親のほうは、年金を前倒しでもらってしまっていたからか、2人合わせて、12万しか入ってこないところに、父を在宅で看ようという話で、どうしてもいろいろ設備も整えなければいけないとか、お風呂に父を入れるときに訪問で入浴サービスを呼んだりしなきゃいけなくなってきたので、だんだん、経済的にも本当に苦しい状態になってきてしまって。…2人の年金が12万円でも、出ていくお金は毎月の介護費用とか、介護保険適用分を超えた分とか合わせていけば、もう10万円以上出てくという状態とかなので、それにプラス生活費とか、とてもとても暮らしていける状態ではなくって。で、たぶん私が介護離職してちょうど1年ぐらいたったときとかですかね、もう、うちがそういう状況なので、母のほうの友達も私のほうの友達も、…誘わなくなってくるんですよね。気遣ってくれてるのはすごく分かるんですけど。そうすると、だんだんこっちのほうとしても、もう、「あ、友達までいなくなってしまった」っていうふうに、すごい孤立の状態になってしまっていて。
――「NPO法人 健康と病の語りディペックス・ジャパン>認知症の語り」より


経済的な困窮は、社会的孤立も引き起こします。Bさんは、一度は死も考えるまで追い詰められたそうです。

患者さんや家族は、治療費や生活をサポートする経済的支援体制に関する情報を自分で探さなくてはならないのが現状です。医療者は、医療費・生活費のことについても知識を持って、情報を提供できるようになる必要がありますね。

乳がんの語り、前立腺がん、認知症の語りには、経済的負担に関する項目があります。また、大腸がん検診の語りには、検診を受けることさえ経済的負担があるので、受診を躊躇する人もいることが語られています。是非、ほかの語りもご覧になって、経済的な気がかりについて患者さんと家族の理解を深めて、実際に役立てていただけることを期待します。



「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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