【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第28回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「舌苔を取りたいのですがどうすれば良いですか?」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

執筆 金子信子(かねこのぶこ)

医療法人おひさま会 / あさの歯科医院

Np nohara kanji

心不全の92歳女性、舌苔があります。どうすればきれいになりますか?


 舌の表面が白っぽいと誰でも気になるものです。しかし私たちの舌の表面はある程度舌苔が付着しているため白っぽいものを認めるのが正常です。真っ赤な舌、何も付着物がなくつるつるしている舌は何かしらの疾患が疑われます。
今回は舌苔の除去について考えてみます。


【舌苔とは】
舌苔とは舌の表面(糸状乳頭)に口腔内細菌や食べ物などが付着して白色や黒色に変化したものをいいます(参考文献1参照)。 舌苔の原因は食事の内容、唾液分泌の低下、舌の機能低下、服薬、消化器系の疾患など(参考文献2参照)です。舌苔そのものは病気ではなく歯垢のように舌に付着する汚れですが、味が感じにくくなったり、口臭の原因になったりします。

【舌苔の除去方法】
舌苔を除去する前にまずは口腔乾燥の対処方法(「第24回 口腔乾燥」参照)を試してみます。この対処方法を行うだけで改善されることもあります。それでも改善されなかった場合、症状によって次の方法を試してみます。

①舌の上にごくわずかに付着していてフサフサしていない舌苔
舌の表面を傷つけないように水分を絞った清拭用具(スポンジブラシ、不織布など)を用い、奥舌から手前に向かって優しく撫でるように動かして汚れを除去します。奥舌を強く咽頭方向や下方に押すと嘔吐反射が誘発されますので、十分に注意しましょう。また、高齢者の口腔粘膜は脆弱になっているため健常者の舌苔除去と同じ感覚で行ってしまうと舌が傷つきやすく痛みや出血を伴います。市販されている舌清掃用品のなかには材質の硬いものもあります。使用する場合は材質の硬さを指先や手の甲で確認し、患者さんが痛みを伴わないように注意してください。

②舌の表面がフサフサしている舌苔
舌の表面がフサフサしている舌苔を除去するには①の方法だけでは除去できません。そこで患者さんが痛みを伴わず、かつ看護師さんが舌苔除去しやすくするために薬剤を用いても良いでしょう。薬剤はオキシドール(過酸化水素水)を用いますが(参考文献3参照)、使用には2~10倍希釈したものを準備します。オキシドールは独特の匂いや味がありますが、希釈して用いますので患者さんが拒否されることは少ないです。

舌苔を除去する手順です。

手順
1) 希釈液に舌苔を除去するための清拭に用いるスポンジブラシ、口腔ケア用ガーゼ、不織布などを浸して絞ります。
2) 舌苔と薬液をなじませるように舌全体を清拭します。清拭のポイントは奥舌から手前に動かします。
3) 水道水に清拭に用いるスポンジブラシ、口腔ケア用ガーゼ、不織布などを浸して水分を絞り、舌全体を清拭します。舌を清拭するときは常に舌を撫でるように動かし、痛みが伴わないように十分気を付けて行ってください。この手順を2~3回繰り返して行いますが、きれいにならないからと執拗に行なわないように注意してください。

他の方法としてパイナップル片を用いることもありますが、乾燥を助長させてしまうことがあります。また、ごま油やハチミツを用いる方法は口腔内がべたつくため不快感を伴うこともあります。乾燥や不快感が強くならないように注意しながら、症例に合わせて使い分けてみてください。

【舌苔除去は期間が必要です】
舌苔の状態にもよりますが、舌がきれいになるにはある程度数日がかかります。舌苔除去は執拗に行わず、1日に1~2回程度で痛みを伴わないよう適度なところでとどめてください。
舌苔除去を実施する時間は起床時が良いでしょう。なぜなら起床時は就寝時の唾液分泌量が低下して嚥下頻度も少なくなり、機械的刺激が減ることから舌苔がつきやすいためです。

【舌苔の付着を予防する】
舌苔を除去したあとは再付着させないように現状を維持することが大切です。舌苔は口腔内が乾燥していると付着しやすく、除去もしにくくなります。そのため口腔内と舌の保湿を行っておくと良いでしょう。舌の保湿方法は口腔内の保湿方法と同じ方法でできます。具体的な方法は「第24回 口腔乾燥」の項目でご確認ください。

【控えたい症例】
重度の口腔乾燥症、舌に痛みを訴えている時は舌苔除去を控えてください。このような時は歯科医師・歯科衛生士に相談して原因や対処方法を教えてもらうと良いでしょう。

【生活に不都合がないなら経過観察も】
舌苔はひとつの症状であり、疾患ではありません。味覚障害や口臭の原因にもなりうるものですが、舌苔を除去しなかったとしても生活に不都合がなければそのまま経過観察しても問題ないことがほとんどです。執拗に行わず、日々の口腔ケア時の観察や食事などから舌苔除去が必要なのか、患者さんにとって舌苔を除去することが本当に良いのかどうか、経過観察していても良いのか見極めが大切です。

【参考文献】
1)森戸光彦編集主幹, 高齢者歯科学: 永末書店, 京都,2012.
2)全国歯科衛生士教育協議会監修, 高齢者歯科第2版:医歯薬出版株式会社, 東京, 135, 2014.
3)渡邊裕, 看護婦のための口腔ケア講座: 医学の友社, http://www.igakunotomo.com/essay/essay04.html, 2016.6.24.