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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第45回 障がいを持っている人が感じる検診/検査のハードル

解説 菅野 摂子

電気通信大学 特任准教授 認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 運営委員

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Depex

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


障がいを持っている人が検診や検査を受ける時に感じるハードルとはどのようなものでしょうか。障がいを持っている人々は、普段から医療機関を利用することに慣れていると思われがちですが、自身の障がいとは関係のない病気について、特に検査を受けたり検診に行ったりする際、さまざまな不都合が起こります。DIPEx-Japanの大腸がん検診の語りから、いくつかの例を見ていきます。

それぞれの障がいに合わせてサポートすることが必要

がん検診を受けてこなかった多発性硬化症の男性(インタビュー時66歳)

がん検診を受けてこなかった多発性硬化症の男性の写真

―― 今はお体の方の都合で、がん検診も受けてらっしゃらないということですね。

特定健診も受けてません。
というのは、どこのバス停で下りても、あの、かかりつけ医まで歩いて行けないんですよ。だから結局タクシーで行くかどうかしかないんですけれども、要するに、難病になってしまうとですね、もういいやっていう気になっちゃうんですよ。
その上でがんになって、じゃ、治療するかと。今でもほとんど歩けないんで、治療で手術なんか受けたら、それこそ車いすになっちゃいますよね。そしたらもうそんなのいいやっていう気になっちゃう人が多いんですよ、おそらく。
(中略)

―― 早期発見しようっていう感じじゃなくなるっていうこと。

例えば、今は便潜血反応が入ってるから、あの、特定検診を、仮にタクシーで受けに行ったとしますよね。そうすると最初検診を受けに行って、便潜血検査のキットを出しに行って、最後に聞きに行くわけですよね。と、3回行かないと駄目でしょう。この体でそれをやるのは、もうしんどいんですよね。
ーー「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 大腸がん検診の語り」より


 この男性は、歩くのが困難になり、59歳で多発性硬化症と診断されました。杖をついて歩くことはできますが、徐々に遠出はできなくなり、現在は自宅で仕事をしています。こういった人たちにとって、医療機関に行くこと自体のハードルが高く、また検査結果が悪い場合、精密検査を勧められても、治療が障がいのある身体に悪影響を与えるのではないかと懸念していました。
 
 ベッカー型の筋ジストロフィーの男性は、脱肛で内視鏡検査をしたことがありましたが、介助者は中に入れず看護師の補助もなかったため、横向きの姿勢を保つことが大変苦しかったといいます。これ以上障がいが進んだら、検査を受けることが難しくなるのではないか、と心配していました(DGK19さん)。
しかし、障がいがあるからこそ検診を受けた方が良い、と言う人もいました。

46歳の時に大腸がんと診断された視覚障がいを持つ男性(インタビュー時52歳)

46歳の時に大腸がんと診断された視覚障がいを持つ男性のインタビュー動画
ええ、やっぱり、視覚障がいのためにですね、あの、血便が出てるかどうか、まったく見えなかったんですね。で、やっぱり、人間ドックでは、色んなところ、例えば、肺であるとか、胃であるとか、そういうのは、全部調べるんですけれども、大腸に関しては、検便の検査だけだったんでね。痔なのか、ほかに悪いものがあるのか、はっきりしたいと思いましたので、それで専門のクリニックに行って受診しました。
ーー「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 大腸がん検診の語り」より


この男性は、会社の健康診断で便潜血検査が陽性となりましたが、1年目は精密検査を受けませんでした。2年目に再び陽性となったため、その出血が痔のせいなのか、大腸がんからの出血なのか確かめるために内視鏡検査を受けました。その場でポリープを切除し、病理検査の結果、大腸がんだと診断されました。早期の発見だったため、特別な治療はせず、現在も普通に生活しています。ただ、検査の結果は画像を見ながら説明されることが多いため、同行する家族がいない人は理解するのが難しいのではないかと心配していました。

障がいとひと口に言っても色々な種類がありますが、検査の介助や説明の仕方など、障がいを持つ人々への特別な配慮は必要です。どのような配慮が必要かは、障がいの種類や程度によって異なるので、何より本人や普段介護にあたる人から情報を得ることが大切です。また、医療機関へのアクセスが困難な人たちにとって、検診が後回しになりがちなことも、心に留めておくべきでしょう。発見された病気の治療が難しい場合もあるかもしれません。できる限り検診や検査の負担を軽くできるよう工夫するとともに、治療や療養生活について本人の思いや希望をよく聞き、今後どうしていくのがいいのか一緒に考えることが必要ではないでしょうか。



「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。