【連載】訪看ステーション「よつば」の公開カンファレンス

CASE03 「家族の協力が得られず、社会からも孤立している」ケース

執筆 川上 加奈子(かわかみ かなこ)

株式会社のものも よつば訪問看護リハビリステーション 看護主任

困難事例3「家族の協力が得られず、社会からも孤立している」ケース

Aさんは平成20年に脳梗塞を起こし、左上下肢不全麻痺になり、車椅子生活となった。

娘が1人いるがうつ病があり、社会生活にもともとあまり馴染めていなかった様子である。車椅子生活になってからは、夫がAさんの介護と仕事を両立していたが、平成24年9月、夫が亡くなり生活保護の受給を受けるようになった。その後、娘のうつ病はさらにひどくなり、精神科から処方される薬の内服もままならなくなった。Aさんは自立を目指し、車椅子で家事がこなせるように住宅改修を行い、掃除、洗濯、食事も作っているが、麻痺があるためかなり時間もかかり大変な状況である。

頼りの娘は、「家事をするのはお母さんのリハビリになるから手伝わないの」と話し、最低限しかかかわろうとしない。Aさんは、娘にもっとしっかりしてほしいと思っているものの、自分の子育てで娘が引きこもりになってしまったという自責の念があり、叱ることができずにいる。
娘は、訪問看護師がAさんを訪問すると、「お母さんばかりずるい」と泣くこともあり。そのため、看護師が娘の話を聴いてあげていると、娘は落ち着き、Aさんもホッとした表情になるため、実質2人の訪問に入っているような状況である。
現在、娘は症状が悪化し、精神科の受診や内服も中断。入浴や歯磨きなどの基本的な保清行為さえできず、一日中寝ている。

Aさんと娘は、近所との交流も全くなく、日中も家中の窓を閉め切っており、社会から完全に孤立している。どうにもならない現実に「このまま死んでしまってもいい」とAさんは訴えることもある。


カンファレンスの理由

母親には障害があるが、たった一人の娘にもうつ病があり、社会生活がままならない。
訪問看護師が母親のために訪れても、娘の対応にも追われてしまう。
母親は娘の病状に自責の念を感じており、娘に対応する訪問看護師を許容しているばかりでなく、社会に積極的に助けを求めることもせずにいる。
社会的に孤立してしまっているこの家族に対し、これからどのように対応していけばよいか、よつばステーションでは、カンファレンスを開くことになった。



saki
さき:Aさんのこの状況をなんとかしないといけないと思うのですが、何から手をつけたらいいのか困ってしまって。あんな状態だけど要介護1しか出てないから、サービスを増やすのもなかなか難しいし・・・。

rin
りん:Aさん、介護1しか出てないんですね・・・。区分変更はかけましたか?

saki
さき:かけたけど変わらなかったんです。訪問に行っても、あまりに自宅内が混沌としているから、片付けからしないとケアも始められなくて・・・。まずシーツ交換、更衣から始まり、室内を安全に動けるように片付けたり。本当は掃除や洗濯もしてあげたいのだけど、さすがに時間がないし、本来はヘルパーさんにお願いすべきことなのだけれど、単位が足りなくてお願いもできずにいる状況・・・。

honoka
ほのか:社協に頼んでボランティアに来てもらえないんですかね?

saki
さき:私もそう思ってケアマネにも提案したんだけど、社協が対象としているのは母子家庭のお母さんか子供の具合が悪くて仕事を休めないときの子守などらしく、受けてもらえなくてね。
ヘルパーさんにも買い物だけでなく、室内の環境整備や保清を手伝ってほしいとお願いしたんだけど、保清をしてくれているとき、「清潔にしないから湿疹が治らないんですよ」と言われてショックだったようで。
それ以来、あまり頼みたくないらしくて。清潔にしたくても片麻痺があるから十分に顔を洗ったりできないのはしかたないんですけどね。

kana
かな:悪気はないのでしょうけど、何気ない言葉かけに傷つくことがありますよね。では結局、現状としては環境整備に時間をとられていて、提供したい看護が思うように提供できていないということが問題になっている感じですか?

saki
さき:残念ながらそうなりますね。だから、少しでも生活しやすいように、たんすの把手を麻痺のある手でも引っ張りやすいものに変更したり、リメイクが上手なたーちんに頼んで古布を利用して防水シーツを作ってもらったり、私も脱ぎ着がしやすいような服を作ってあげたり・・・。
地道にできることからサポートしているのだけど、すべてボランティアになってしまっているし、娘さんに自立してもらわないことには、Aさんの根本的なストレスは解消されないとも感じているんです。



真正面だけでなく側面からのアプローチを考える

ta-tin
たーちん:私はこの状況を改善する為には、なんとしても娘さんにも訪問看護を入れるべきだと思いますね。結局、Aさんのサポートをしたいのにできない状況にあるのは、娘さんがネックになっているからでしょう。
娘さんが自立していればもっと状況は変わってくるはず。だからまずは娘さんが受診できるようにサポートすることから始めないとね。

saki
さき:私もそう思って、実は今までもボランティアで、娘さんの受診援助もしてきたんです。精神障害者支援活動をしているNPO法人にも連絡をいれました。でも、娘さんが自分の状況をうまく伝えられなくて、訪問してほしいと訴えても未だに実現していない現状。
その後にうつ病で1か月入院し、退院後は更に不安定で、とても電車で通院なんてできない状況だったので、歩いて行けるメンタルクリニックを探して、そこに紹介状を書いてもらえるように病院に連絡もしたんですけどね・・・。

kana
かな:さきさんがやっていることは、ほとんどが娘さんに実施する訪問看護の仕事ですよね。
やはり娘さんに訪問看護を入れてほしいですね。Aさんのケアマネや行政の窓口に、娘さんの訪問看護が必要だという相談はしましたか?

saki
さき:何度も相談しました。そうしたら是非そうしてくださいって返事が来たので主治医にFAXもしました。さらに娘さんが受診するタイミングに合わせて、訪問看護指示書と手紙も送ったんです。
でも、なんと娘さんは受診しなかったんです。理由を聞いたら「行きたいと思うけど外に出られない!」って・・・。
流石に私は娘さんの担当看護師でも家族でもないから、受診に同行まではできなくて。娘さんが受診しないことには指示書も書いてもらえないし。

honoka
ほのか:でも、このまま受診できなくて薬も飲めなくて、更に不安定になるのでは悪循環ですよね。そこはNPOの方などが動いてくれるとありがたいですよね。

saki
さき:そうですね。なので今、再度連絡を取っているところです。

ta-tin
たーちん:遠回りのように見えるかもしれませんが、Aさんへの訪問看護では、真正面からのアプローチが難しいのであれば、側面である娘さんへのアプローチから介入していくのは良いかもしれませんね。
Aさんへの地道な看護を続けるのと並行して、娘さんの訪問看護導入へのアプローチを続
け、メンタルの安定を図ることが、いずれ娘さんの自立へとつながり、その自立こそがAさんの1番のメンタルケアにつながる・・・そうなればいいですね。

rin
りん:似たような環境の方は他にもいっぱいいると思います。1人で解決できないときは、他職種はもちろんのこと、行政も巻き込んで、粘り強くなんとか解決の糸口をみつけて行きたいものですね。



次回は、理解力が低く血糖コントロールが難しいケースについてカンファレンスします


ステーション「よつば」スタッフプロフィール

りん(所長)
訪問8年目(看護歴32年救急他)在宅ケアでの創意工夫の才能はピカイチ。勉強家で人情が厚く面倒見がよい。スーパーポジティブ思考の持ち主。
さき
訪問6年目(看護歴28年オペ室他)
神社仏閣巡りが趣味の歴女。またDIYも得意。面白き事もなき世をおもしろくが座右の銘。夢への妄想パワーは半端なし。
たーちん
訪問11年目(看護歴33年):スーパーグランマナースで超自由人。しかし可愛い笑顔で憎めない。利用者さんの為ならエンヤコラ。テニスから茶道までサラリとこなす我がステーションの親分的存在。
ほのか
訪問1年8カ月(看護歴15年小児科他)老若男女に好かれる天性の明るさの持ち主。癒し系キャラ。現在、スポーツクラブのZUMBA(ダンス)にハマっている。
かな(主任)
訪問5年目(看護歴16年。NICU他)思い込んだら一直線。やや天然ボケあり。訪問看護と猫と執筆活動(この原稿含)と音楽活動をこよなく愛している二児の母。


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