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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第46回 認知症の人を介護する家族の体験:葛藤からの自己変容

解説 竹内 登美子(たけうち とみこ)

富山大学 大学院医学薬学研究部 教授(老年看護学)  認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン 運営委員

Takeuchi tomiko

Depex

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


認知症の人を介護することは大変です。次第に進む症状と向き合いながら、いつ終わるともしれない介護に、不安やいら立ちを募らせたり、介護うつになったりする家族もいます。認知症人口が増加する今、大変さばかりに焦点があてられる認知症の介護ですが、本当に辛く大変なことばかりなのでしょうか?

家族を介護するという相互作用の中で得られた大切なこと

次のお二人は、葛藤の中で自己を振り返り、自己成長ともいえるご自身の変化について語られています。

アルツハイマー型認知症の実母を自宅で介護する娘(インタビュー時:48歳)

アルツハイマー型認知症の実母を自宅で介護する娘の動画

すごい激しいけんかをして、母親が自分で死にたいと。飛び降りたいと。例えば2階から身を投げようとしたりとか、包丁を持ち出したりとか、結構そういうときがあって…。老いていく自分を、老いてったりとか、認知症を認めたりとかいう自分をやっぱり許せない。だから、長くは生きていたくない。美しいままで死にたいとか、っていう思いが、すごく強い時期があって。それはわたし自身もやっぱり、かなり、母親を責めてたなっていう思いがあるので、その時ですかね。

やっぱり「死にたい」って言われるのは――「やめて」って何回もわたしは言うんですけど、でも、時々口にしてしまう――その原因は、やっぱりわたしの指摘だったりとか、注意だったりとかする部分が割と多いような気がするので、その辺からですかね。やっぱり…いつまでも元気でいてほしいし、まあ、元気な状態で長生きしてほしいし。で、母親はわたしは大好きだし、うん。まあ、そういうところから徐々に…進歩したんだか何だか分かんないですけど、自分で変わろう、自分がこう変わらないと。もうほんとにその時は、自分がつぶれそうだったですね。

そういうふうにしてしまう、母親を見てるのもつらかったし、自分だけで抱えらんない。で、もうほんとに姉に泣きながら電話したり、こうだったみたいな感じで言ったりとかして、自分の心を平常化させるっていうんですかね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 認知症の語り」より

若年性アルツハイマー型認知症の妻を介護する夫(インタビュー時60歳)

若年性アルツハイマー型認知症の妻を介護する夫の動画

もうぼおっとしてる、ただの人形さんみたいな日が、毎日毎日続いてたし。そのあたりにはもう、便を漏らすようになってたんで、「この病気ってどないなんねん」ていう、そういうことがやはり、こう、積み重なってきて、もう心理的不安ばっかりしかなくって。えー、「1つもええことはないんやな、こんな悪いことばっかり続いていくんかな」っていう。
要するに、私の本来の、もともとの性格は、そういう根暗な性格であったんで、人前で出てお話しさせていただくとか、人前で、いろんな方と会うとかいうのは嫌いなほうだったんですけど、家内が、その、病気をだんだん進行さして、していくことによって、自分が気持ちを改めないと、家内の病気には取り組んでいけないなっていうことで、いろんな会に、参加さしていただいたりして。それで、いろんな方と接触することによって、自分なりに、まあ、今まで分からなかったことも分かってきて、やはりこの病気には家族の愛が大切なんやなというのが、やはりこう、ほかの方にも教えていただいて。それがまあ、自分の心理的変化になってきたんだと思います。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 認知症の語り」より


介護を継続するなかで語られた「母親が大好きだし自分が変らないと」という気づきや、「この病気には家族の愛が大切」という言葉に共感する人は多いことでしょう。介護する相手と真剣に向き合い、その相互作用によって自分自身に気づくこと。介護には、自分の問題を発見し、それを受け入れて自己変容していく力や、優しさを引き出してくれる側面があるのです。そして、このお二人のように介護の状況を兄弟姉妹や友人、家族会の方々に話すことによって、心が平常化したり、分からなかったことが分かるようになったりして、介護を通した自己成長を実感することができるようになっていくのだと考えられます。

認知症の人と家族介護者の双方を支える役割を担う看護師は、このお二人のケースのように、大切な人(家族)の介護を行なっているからこそ得られる、介護を通しての気付きや自己成長があることを理解しておきましょう。そのことを理解した上で、家族介護者の戸惑いや混乱、怒り等の過程に寄り添う看護師と、そうではない看護師では、家族介護者の心理面を支える力に大きな違いがでると思われます。葛藤の中に隠れてしまいがちな優しさや愛に意識を向けて、認知症の人と家族介護者を見つめ、支える力をつけていきましょう。



「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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