【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第30回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「剥離上皮(痂皮)の取り方を教えてください」

監修 野原 幹司(のはら かんじ)

大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座 顎口腔機能治療学教室

Np nohara kanji

執筆 金子信子(かねこのぶこ)

医療法人おひさま会 / あさの歯科医院

Np nohara kanji

上顎に剥離上皮がついているのですが、乾燥していてなかなかとれません。時間を掛けずに取る方法を教えてください。


上顎(以下、口蓋)に着く汚れには痂皮、剥離上皮、痰などがあります。痂皮は血液成分、滲出液、膿などが再生上皮の角質層に移行し凝固・固着したものです。剥離上皮は新陳代謝によって剥がれた粘膜をいいます。
今回は痂皮や剥離上皮が口蓋に付着している場合の口腔ケアについて考えます。痂皮と剥離上皮は異なるものですが、除去方法はほぼ同じです。そのため今回は痂皮や剥離上皮を「口蓋の汚れ」とします。


【口蓋の汚れはどうして着くのか】
私たちが嚥下するとき、通常口蓋と舌が密着します(「第1回 摂食嚥下障害とは」参照)。密着することで口蓋と舌はお互いに汚れを取り合っています(図1)。そのため口蓋の汚れはほぼ残らないので特別なケアは必要ありません。しかしながら食事摂取が減った終末期の患者さん、絶飲食の患者さんは口蓋と舌が密着する機会が減っているため口蓋に汚れが着きやすくなります(参考文献1参照)。

【口蓋の汚れを除去するには】
口蓋に汚れが着きやすい患者さんはセルフケアが困難なことが多いため、看護師さんによる汚れの除去が必要です。
症例のような乾燥した汚れが口蓋にある場合は、汚れをやわらかくしたほうが除去しやすいため保湿剤を用いて汚れをやわらかくすることからはじめましょう。保湿剤は液体とジェルがありますが(第24回「口腔乾燥」を参考)、このときに用いる保湿剤は汚れに馴染みやすくかつ咽頭に流れにくいジェルが良いでしょう。さらに種類が多くあるジェルの中でも、粘度が低いものをおすすめします。粘度が高い保湿剤は乾燥している汚れの上から塗布しても保湿剤が汚れに浸透してやわらかくなるまで時間を要すため、汚れをやわらかくするには不向きです。

乾燥した汚れにジェルを塗布していきますが、ジェルの量は汚れが覆われる程度にしましょう。汚れが柔らかくなるには乾燥状態にもよりますが5分程度かかりますので、汚れが柔らかくなるまでの時間を利用して他の部位の口腔ケアをします。乾燥した汚れが十分にやわらかくなったところで、スポンジブラシや歯ブラシを用いて汚れを除去します。汚れを除去するにはやわらかめの歯ブラシがおすすめです。やわらかめの歯ブラシに不織布を巻きつけて除去すると(写真1)痛みを伴いにくく、汚れが楽に除去できます(参考文献2参照)。歯ブラシの動かし方は奥から手前に動かしましょう(写真2)。口蓋の汚れを除去するために何度も何度も歯ブラシで擦ると口蓋の粘膜が傷つき、痛みや出血を伴うことがあります。痛みや出血を回避するには、口蓋を擦る回数を減らす工夫が必要です。歯ブラシを口蓋にしっかりあててゆっくり動かすと汚れが歯ブラシに絡みやすくなり、除去しやすいです。このように工夫すると、何度も口蓋を擦らなくてすみます。

通常の口腔ケアを行う時、口蓋の汚れが無くてもこのような清拭を行っておきましょう。そうすることで汚れが溜まりにくく、汚れが着いていたとしても比較的簡単に汚れを除去できます。

【汚れが取れた口腔内を維持するために】
口蓋の汚れを除去したあとは、汚れが取れてきれいになった状態を維持させることが大切です。きれいになった口腔内を維持するには、口腔内が乾燥しないようにしておきましょう。口腔内が乾燥しないようにするには、第24回「口腔乾燥」を参考にしてください。

口腔内の状態は患者さんのライフステージや残存機能によって変化します。そのため口腔ケアの内容も患者さんの状況によって変化しなくてはなりません。セルフケアができなくなった患者さんがよりよい口腔内で気持ちよく過ごすには看護師さんの観察力と口腔ケアが必要です。

【参考文献】
1)入院患者に対するオーラルマネジメント. 財団法人8020推進財団, 東京, 19-21, 2008.
2)金子信子: 認知症終末期を支える口腔ケア. 終末期の摂食嚥下リハビリテーション-看取りを見据えたアプローチ-野原幹司編集、 Monthly Book Medical Rehabilitation No.186、 東京、 9-14、 2015.