【連載】冬の多発疾患を極める!

冬と疾患の関連性

解説 福永 篤志

公立福生病院脳神経外科 脳神経外科 医長/気象予報士

今回は、気象条件が身体にどんな影響を与えるのか、また、冬に発症・増悪のリスクが高まる疾患について解説します。

気象の変化と身体のしくみ

気温の変化による影響

 まず、気温が下がると、血圧は上昇します。その要因には、「寒い」と感じること自体がストレスになること、寒冷刺激により血管が収縮することで血管抵抗が増え、かつ末梢の血液が中心に集まり、心臓の拍出力が増大することが考えられます。逆に、温度が上がると末梢血管が拡張するので、血圧は下がります。このとき、人体には血圧を調整するオートレギュレーション(自動調節機能)が働き、血管に柔軟性がある若年者の場合では、急激に気温が低下してもすぐにその変化に順応できます。しかし、動脈硬化が進んだ高齢者では血管がなかなか拡張せず、元の血圧に戻りにくいために、高血圧による脳心血管イベントが起こりやすくなります。
 
 さらに、気温の変化は自律神経に影響を与えます。寒さを感じると、身体は体温を一定に保つために体温を上げようとします。すなわち、交感神経を優位にして末梢血管を収縮させて、身体の中心に血液を集めようとします。また、交感神経が優位になると、体内ではリンパ球が減り、副交感神経が優位になるとリンパ球は増えます。つまり、平均気温が低い冬場はリンパ球が減少することで、ウイルスや細菌への抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなります。逆に、暖かくなる春先は副交感神経が優位になりやすく、体調を崩すとうつ病などの疾患を発症しやすくなります(文献3参照)。

 脳動脈瘤の破裂にも、気温は大きく影響しています。私たちは4℃の水に片手を30秒間つけるだけで、血圧が50mmHg程度上昇します。冬場の気温の低い時季に、急に寒冷刺激を加えることが発症のリスクにつながるのは、こうした血圧の変動があるからです。

気圧の変化による影響

 台風などによって気圧が低下すると、身体にかかる圧力が弱まることで、身体はわずかに膨張します。その変化に対して、体内ではヒスタミンという炎症物質を放出して対応します。関節リウマチや関節痛の患者さんが、気圧が下がると痛みを訴えるのはそのためです。

 名古屋大学の佐藤純准教授は、動物実験により、気圧や気温の変化と痛みの関係を科学的に検証しています。それによると、①痛みは気圧や温度の変化で増強する、②気圧の低下による痛みの増強には交感神経が関与している、という結論を引き出しています(文献4参照)。気圧が変わると内耳がそれを感知し、交感神経の活動を亢進させて血管収縮に伴う虚血痛、筋肉の攣縮痛などの痛みが出るのです。

 さらに気圧の変化、特に季節の変わり目や台風などの気圧の急激な変化は、身体にストレスを与え、自律神経のバランスを崩します。

湿度の変化による影響

 大気が乾燥する冬場では、インフルエンザなどの感染症が流行することが知られています。これは空気中の水蒸気が減ることで、細菌やウイルスなどが飛散しやすくなることと、ウイルスの生存率が上がること、私たちの咽頭粘膜の繊毛運動が低下することが原因と考えられます。さらに気温が低くなると体力も落ちるので、感染性胃腸炎なども発症しやすくなります。人にとって適度な湿度は50~60%程度といわれており、70%を超えると不快を感じるようになります。それがストレスとなって血圧が上昇することもあります。

特に冬場に増えやすい疾患、増悪しやすい症状

循環器疾患、呼吸器疾患、炎症性疾患、感染症の発症・増悪に注意

 冬に多くみられる疾患として、まずは心筋梗塞が挙げられます。広島市医師会の調査(文献2参照)でも、気圧が低く気温も低いときに最も心筋梗塞の発症率が高いとされ、中でも朝から午前中に発症することが多いとしています。その原因には、交感神経の緊張状態により血圧が上昇し、冠動脈の攣縮が起こりやすい上に、夜間の脱水も加わって血液が凝固しやすい状態になっていることが挙げられます。

 脳卒中(文献4参照)のうち、脳出血は気温が低い日や、気温格差の激しい日に起こりやすくなります。脳出血は多くは高血圧が原因なので、血圧が上昇しやすい
条件下では要注意です。中でもくも膜下出血は、気温が低い日で、前日との気圧変化が10hPa以上の日に注意とされています。冷水を使いながらの力仕事や、寒いトイレでいきんだとき、急に咳き込んだときなど、血圧が急激に上昇するような状況も、動脈瘤の破裂が起きやすいと考えられます。

 また脳梗塞の場合、脳塞栓は冬だけでなく、猛暑日に脱水をきたし、血液がドロドロになった状態で発症することもあります。脳血栓も脱水が起こるような猛暑と冬場のほか、日内の温度差が10℃以上の、気温の変化が激しい時季にも起こりやすくなります。気温差の大きい季節では血液粘稠度が増加し、むしろ正常血圧の人がつまりやすくなるという報告もあるので注意が必要です。

 気管支喘息は冬場と季節の変わり目に増悪しやすい疾患です。非アトピー性では急に温度が下がるなどの寒冷刺激で、アトピー性では移動性高気圧が空気を撹拌し、アレルゲンを飛散させることが要因となって発作が起こります。
 肺炎も、冬場によくみられる疾患の一つです。気温の低下で免疫力が下がることと、基礎代謝を上げるために体力を消耗することに起因します。従って、体力がない高齢者や小児は気象の影響を受けやすく、肺炎にかかりやすいといえるでしょう。

 このほか、前項で説明したインフルエンザやノロウイルスなどの感染性胃腸炎、関節リウマチ、関節痛などの痛みも冬場に発症・増悪しやすい疾患です。

気象変化によって発症・増悪しやすいと考えられる疾患・症状
●心筋梗塞 ●脳卒中 ●肺炎 ●気管支喘息 ●結核●インフルエンザ ●関節リウマチ ●神経痛 ●片頭痛 ●精神疾患

【文献】
1)豊田章宏:全国労災病院46000例からみた脳卒中発症の季節性(2002-2008年)、脳卒中、33(2)、p.226-
235、2011:3.
2)松村 誠 ほか:心筋梗塞予報、広島医学、57(5)、p.469-475、2004:5.
3)小林弘幸:なぜ、「これ」は健康にいいのか?副交感神経が人生の質を決める、サンマーク出版、2011.
4)佐藤 純・福永篤志:特集 気象が体に与える影響、武田薬報、456号、p.9-17、2009.

(ナース専科マガジン2013年12月号より転載)

ページトップへ