【連載】訪看ステーション「よつば」の公開カンファレンス

CASE10 医療関係者と家族との間に温度差があったケース

執筆 川上 加奈子(かわかみ かなこ)

株式会社のものも よつば訪問看護リハビリステーション 看護主任

困難事例10 自宅の環境整備を受け入れない夫婦


80歳女性のBさん。膀胱がんで治療中。
3年前にがんが発見されたとき、外科的な手術をするかどうか迷ったが、手術はせず内科的な治療で、残りの人生を夫婦2人で楽しみながら過ごすことを決め、現在に至る。
最近までは大きな体調の変化は見られなかったが、膀胱の腫瘍が大きくなるにつれ、血尿が出たり、浮腫で脚がパンパンになったり、倦怠感が増え、転倒も増えてきていた。
主な介護者は81歳の夫である。娘も毎日のように様子を見には来ているが、同居してはいない。
そんな矢先、Bさんがベッドから滑り落ち、立ち上がれないとの連絡があり、緊急対応を行った。


カンファレンスの目的

Bさんがベッドから滑り落ち、立ち上がれなくなり、緊急対応を行ったことをきっかけに、今後のことを考え、よつばスタッフで生活環境の整備について、カンファレンスすることになった。


rin
りん:Bさんは、下肢の筋力も低下し、かなり不安定な状況になってきているので、寝室から居間までの動線に、簡易式の手すりを設置したり、椅子やベッドから滑り落ちないように、滑り止めをつけたりしたほうがいいと思うのですが。

honoka
ほのか:はい。先日も同じような提案をしたのですが、Bさんにもご主人にも「まだ必要ない」と却下されてしまって。
「寝起きだとフラフラして、危なっかしいく見えるけれど、しっかり覚醒すれば伝い歩きができるから」と納得していただけなくて。

rin
りん:でも、実際に転倒することが増えてきているんですよね?

kana
かな:そうなんです。そのたびに高齢のご主人が介助して立ち上がらせているので、腰を痛めてしまうのではないか心配で。そのことも話をしたのですが、大丈夫ですよの一点ばりなのです。

saki
さき:なんでそんなに頑張ってしまうんでしょうね? 福祉用具を入れると部屋が狭くなるとか? それともイメージができないからでしょうか・・・。

honoka
ほのか:一応、写真も見せて、そんなに大がかりなものではないこともお伝えしているつもりなんですけれど。レンタル料も月に数百円であることも伝えているのですが。

kana
かな:もしかしたら、Bさん自身が一番嫌がっているのかもしれませんね。とてもプライドのある方なので、福祉用具を導入することが、なんとなく病気に負けてしまう気持ちになるというか・・・うまく言えませんが。
無理に勧めることもできませんから、とりあえずは提案だけは続けて、反応を待つしかないのですよね・・・。


夫はほとんどの提案を受け入れたが


こうして様子をみることになった数日後、転倒したBさんを起こそうとして、夫があやうくギックリ腰になりかけた。
幸い夫は腰を軽くひねっただけで、日常生活動作はできるものの、さすがに環境を調整したほうがいいという話になり、急遽、Bさん宅で担当者会議が開かれることとなった。
会議の日、Bさんは体調がすぐれなかったため、夫、ケアマネジャー、担当看護師、福祉用具のレンタル業者で話し合いを行うこととなった。
会議では、以前からも担当看護師が提案していた簡易式手すりのほか、滑り止めマットやセンサーマットの情報、また、もしもベッドからずり落ちても簡単に戻れるように低床ベッドの情報、さらに入浴の際の補助具の情報などを紹介し、写真や動画まで織り交ぜて、1時間ほどじっくり話し合いを行った。
夫もほとんどの提案をほぼ納得し、翌日にはそれぞれの福祉用具をどこに設置するかの予定まで組まれた。
しかし、設置当日の朝になって、突然のキャンセルが入った。夫によれば「もう少し状態をみて考えたい」とのことであり、環境整備は振り出しに戻ってしまった。


kana
かな:あんなにご主人も納得されていたのに、なぜすべてキャンセルになってしまったのかわからなくて。ケアマネージャーにも相談したところ、もしかしたら私たちからのアプローチに問題があったのかもしれないと思いました。

rin
りん:どういうことですか?

kana
かな:はい。ついいろいろなことが心配になり、提案できることをすべて一気に高齢のご主人に伝えすぎたのではないかと・・・。
情報を聞く側はご主人1人、情報を提供する側は3人。こちらも1つひとつ同意を求めながら話し合いをしているつもりではいましたが、なんとなく「もう少し検討したい」とは言い出せない雰囲気を作ってしまっていたのかもしれません。

honoka
ほのか:たしかにあの状況を考えると、医療者側からみれば会議の翌日にでもすぐに福祉用具を設置したい気持ちにはなりますけどね・・・。事故やけががあってからでは遅いので。
でも、Bさん本人も参加できない場所で決めてしまわず、もう少し家族で考えて消化する時間をおいたほうがよかったのかもしれませんね。

rin
りん:あのご夫婦は、Bさんにがんがあるとわかってからも、残りの人生を楽しく生きようと頑張ってこられましたよね。きっと今までも、いろんな問題を2人で解決してきたんだと思います。
Bさんがギリギリまで自分の力で生活できるようにと、わざと食事を寝室には持って行かずに居間で一緒に食べるとか、リハビリのためになるべく歩いてもらうとか・・・すごく考えていらっしゃるご主人です。そんなご主人に応えようとしてBさんも懸命に頑張っておられます。
先日もご主人、「こんなふうに自分が介助したら、妻は上手に1人で立ち上がれたんだよ」と、嬉しそうに話されていましたからね。
上手く言えませんが、そういう小さな積み重ねで強い絆が結ばれているのではないかと思うんです。
実際に必要なこととはいえ、そんな2人で積み上げてきた空間に、急に医療者が踏み込んでいろいろなことを変えようとしている、そんな違和感を覚えられたのかもしれません。

ta-tin
たーちん:医療者の思いが先走りすぎてしまうと、本人やご家族の肝心な想いを汲み取れず、空回りしてしまうこともありますね。やはり傾聴が大切ですね。
一刻も早く、待ったなしで福祉用具を導入したい場面も多々ありますが、できるだけ本人やご家族の真意を汲み取りながら介入していけるようにしたいですね。

kana
かな:はい。自分はつい熱くなりすぎて、先走ってしまう傾向があるので、今回の件では反省しなければと思いました。
次回の訪問では、娘さんも交えてゆっくり話をしてきます。


この後、よつばスタッフは、娘さんを交えてBさん夫婦とゆっくり話し合い、今度こそ全員が同意した上で、まずは簡易式手すりから、設置していくこととなった。




次回は、認知症による妄想があるケースを紹介します。


ステーション「よつば」スタッフプロフィール

りん(所長)
訪問8年目(看護歴32年救急他)在宅ケアでの創意工夫の才能はピカイチ。勉強家で人情が厚く面倒見がよい。スーパーポジティブ思考の持ち主。
さき
訪問6年目(看護歴28年オペ室他)
神社仏閣巡りが趣味の歴女。またDIYも得意。面白き事もなき世をおもしろくが座右の銘。夢への妄想パワーは半端なし。
たーちん
訪問11年目(看護歴33年):スーパーグランマナースで超自由人。しかし可愛い笑顔で憎めない。利用者さんの為ならエンヤコラ。テニスから茶道までサラリとこなす我がステーションの親分的存在。
ほのか
訪問1年8カ月(看護歴15年小児科他)老若男女に好かれる天性の明るさの持ち主。癒し系キャラ。現在、スポーツクラブのZUMBA(ダンス)にハマっている。
かな(主任)
訪問5年目(看護歴16年。NICU他)思い込んだら一直線。やや天然ボケあり。訪問看護と猫と執筆活動(この原稿含)と音楽活動をこよなく愛している二児の母。


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