【連載】ナースのための消化器ケアに役立つ基礎知識

がん化学療法の副作用ー食欲不振、悪心・嘔吐へのケア

監修 犬飼道雄

岡山済生会総合病院 内科 主任医長

執筆 稲葉温子

岡山済生会総合病院 がん化学療法看護認定看護師

【目次】


化学療法に伴う悪心・嘔吐

副作用が生じるメカニズム

嘔吐に関する中枢は、延髄の網様体にあります。第4脳室底の最後野に存在する化学受容体誘発帯(CTZ)が刺激を受け、その刺激が延髄にある嘔吐中枢に伝達されることで、悪心・嘔吐が起こります。また、治療や嘔吐に対する不安などが大脳皮質を刺激し、悪心・嘔吐が誘発されることもあります(図1)。

1)抗がん剤→直接CTZへ刺激→嘔吐中枢刺激→悪心・嘔吐
2)抗がん剤→活性酸素産生→小腸クロム親和性細胞からセロトニン分泌→5-HT3(セロトニン)受容体に結合→CTZへ刺激伝達→嘔吐中枢刺激→悪心・嘔吐
3)抗がん剤→サブスタンスP分泌→CTZや嘔吐中枢にあるNK1受容体に結合→嘔吐中枢刺激→悪心・嘔吐
4)嘔吐に対する不安など精神的要因→大脳皮質刺激→嘔吐中枢刺激→悪心・嘔吐

副作用が生じるメカニズムのイラスト図
図1 副作用が生じるメカニズム

発現時期による分類

化学療法中に生じる悪心・嘔吐は、出現する時期により以下のように分類されます。

●急性悪心・嘔吐
化学療法開始後24時間以内に出現する悪心・嘔吐
●遅発性悪心・嘔吐
化学療法開始後24時間以降に出現し、2~5日程度続く悪心・嘔吐
●予期性悪心・嘔吐
以前の化学療法による悪心・嘔吐の経験から、治療開始前に悪心・嘔吐が出現する
●突出性悪心・嘔吐
制吐剤の予防投与を行っていても出現、継続する悪心・嘔吐。抗がん剤によるものか、それ以外の原因との鑑別が必要

副作用の原因

悪心・嘔吐は抗がん剤の使用により引き起こされるケースが多いため、抗がん剤やレジメンごとに、以下のようにリスク分類されています。

抗がん剤・レジメンの催吐リスク分類1)

●高度催吐性リスク(催吐頻度>90%)の場合
薬剤・レジメンは、シスプラチン、5-FU/CDDP、S-1/CDDP、FOLFOXIRI、FOLFOXIRINOX、など
●中等度催吐性リスク(催吐頻度30~90%)の場合
薬剤・レジメンは、イリノテカン、オキサリプラチン、GEM/CDDP、FOLFORI、IRIS、FOLFOX、ZEROX、SOX、GEM/アブラキサン、など
●軽度催吐性リスク(10~30%)の場合
薬剤・レジメンは、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、アブラキサン、フルオロウラシル、カペシタビン、UFT、TS-1、など
●最小度催吐性リスク(<10%)の場合
薬剤・レジメンは、セツキシマブ、トラスツズマブ、パニツムマブ、ベバシズマブ

抗がん剤以外に考えられる原因として、これまでの治療での悪心・嘔吐の経験や、治療への不安が強いこと、性別では、女性のほうが男性よりもリスクが高いとされています。妊娠悪阻が強かった人なども悪心・嘔吐が出現しやすいといわれています。

また、がん患者さんの場合、癌性イレウスや脳転移、オピオイドの副作用による便秘など、病状の進行による影響にも注意が必要です。

副作用への対処法

抗がん剤やレジメンごとに、以下のような制吐療法が示されています。

薬剤による制吐療法1)

●高度催吐性リスク薬剤・レジメンへの対処
アプレピタント+5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの3剤を併用する
●中等度催吐性リスク薬剤・レジメンへの対処
5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの2剤を併用する
イリノテカンなど特定の薬剤を使用する場合は、デキサメタゾンを減量しアプレピタントを併用する
●軽度催吐性リスク薬剤・レジメンへの対処
デキサメタゾン単剤
●最小度催吐性リスク薬剤・レジメンへの対処
制吐剤使用は基本的には不要とされる

制吐剤の種類と特徴

薬剤やレジメンの催吐性リスクに応じて、さまざまな制吐剤を組み合わせて使用します。

1.NK1受容体拮抗薬 
1)アプレピタント
◆作用:CTZや嘔吐中枢にあるNK1受容体へのサブスタンスPの結合を阻害することで、悪心・嘔吐を抑制する
◆主な副作用:頭痛、便秘、しゃっくり、食欲不振、AST(GOT)・ALT(GPT)の上昇、蛋白尿、BUN上昇
◆薬物相互作用:薬物の併用によりデキサメタゾンの血中濃度が上昇するため、併用時はデキサメタゾンを適宜減量する
◆主な薬物:イメンドカプセル

2)ホスアプレピタント
◆作用:アプレピタントのプロドラッグ。体内へ吸収された後、アプレピタントへと代謝される。
◆主な副作用:便秘、しゃっくり、ALT(GPT)の上昇など。また、注射部位反応(疼痛など)がみられることがある。
◆主な薬剤:プロイメンド
イメンドカプセルセット(小野薬品工業株式会社)、プロイメンド(小野薬品工業株式会社)

2.5-HT3(セロトニン)受容体拮抗薬
◆作用:消化管の5-HT3受容体へのセロトニンの結合を阻害することで、嘔吐中枢への伝達を阻害し、急性の悪心・嘔吐を抑制する。パロノセトロン(アロキシ)は遅発性悪心・嘔吐への効果も認められている
◆主な副作用:頭痛、便秘、一過性の肝機能障害
◆主な薬剤:アザセトロン(セロトーン)、インジセトロン(シンセロン)、オンダンセトロン(ゾフラン)、グラニセトロン(カイトリル)、ラモセトロン(ナゼア)、トロピセトロン(ナボバン)、パロノセトロン(アロキシ)

グラニセトロン点滴静注パック(日本化薬株式会社)、アロキシ(大鵬製薬工業株式会社)

ゾフランザイディス(ノバルティスファーマ株式会社)

3.副腎皮質ステロイド
◆作用:作用機序ははっきり解明されていないが、急性悪心・嘔吐、遅発性悪心・嘔吐を予防する
◆主な副作用:誘発感染症、高血糖、多幸症
◆主な薬剤:デキサメタゾン(デカドロン)など
デカドロン錠(日医工株式会社)、デカドロン注射液(アスペンジャパン株式会社)

4.フェノチアジン系(ドパミン受容体拮抗薬)
◆作用:消化管やCTZに存在するドパミンD2受容体を拮抗することでドパミンの結合を阻害し、アセチルコリン遊離促進、胃腸運動促進。制吐作用を示す。突出性悪心・嘔吐に対し、5-HT3拮抗薬の予防投与に加え、症状緩和目的で使用される
◆主な副作用:遅発性ジスキネジア
◆主な薬剤:メトクロプラミド(プリンペラン)、プロクロルペラジン(ノバミン)、ドンペリドン(ナウゼリン)

ノバミン(塩野義製薬株式会社)

5.ベンゾジアゼピン系抗不安薬
◆作用:突出性悪心・嘔吐に対し、5-HT3受容体拮抗薬の予防投与以外に症状緩和目的で使用される。また、予測性悪心・嘔吐に対して有効な場合がある
◆主な副作用:眠気、めまい
◆主な薬剤:ロラゼパム(ワイパックス)、アルプラゾラム(ソラナックス)

6.H2受容体拮抗薬
◆作用:胃酸分泌抑制作用。最小度制吐リスク薬剤使用時の胸焼けや消化不良に対し使用が考慮される
◆主な副作用:頭痛、便秘、下痢
◆主な薬剤:シメチジン(タガメット)、ニザチジン(アシノン)、ファモチジン(ガスター)、ラニチジン(ザンタック)、ラフチジン(プロテカジン)、ロキサチジン(アルタット)

7.プロトンポンプ阻害薬
◆作用:胃酸抑制効果。最小度制吐リスク薬剤使用時の消化不良症状に対し使用が考慮される
◆主な副作用:頭痛、下痢、腹痛
◆主な薬剤:エソメプラゾール(ネキシウム)、オメプラゾール(オメプラール)、ラベプラゾール(パリエット)、ランソプラゾール(タケプロン)

化学療法に伴う味覚障害

味覚障害が起こるメカニズム

1.粘膜障害による味蕾の機能低下
舌・軟口蓋の味覚乳頭に分布する味蕾が障害を受けることにより、甘味・酸味・苦味・塩味・うま味を感じる機能が低下する
抗がん剤→口腔内粘膜障害→味蕾が障害をうける→味覚異常

2.唾液分泌低下
味蕾が感知するのは水に溶けた物質のみであるため、固形の食べ物などは、味を感じるために唾液の水分が必要である。唾液分泌が低下して口腔内が乾燥すると、味覚が低下する。
抗がん剤→唾液腺の委縮→唾液量低下→口内乾燥→味覚障害

3.神経障害による味覚伝達異常
味蕾で感知した味の信号は顔面神経、舌咽神経、迷走神経によって脳に送られるが、それらの神経伝達路が障害されることで味覚が低下する。
抗がん剤→神経障害→味覚受容体細胞の障害・味覚伝導路の障害→味覚異常

4.亜鉛の欠乏
細胞新生には亜鉛が必要である。味覚細胞は活発に細胞新生を行うため、特に多量の亜鉛を必要とする。亜鉛の吸収障害や食事摂取低下による亜鉛欠乏が生じることで味覚障害がおこる。
抗がん剤→亜鉛吸収阻害→味覚障害

5.化学療法による二次的口腔粘膜炎
化学療法や担癌状態により、免疫能が低下していることで、二次的に口腔粘膜炎、カンジダ口内炎が生じ、味覚障害を引き起こす
抗がん剤・ステロイド使用・担癌状態→易感染状態→口腔粘膜炎・カンジダ口内炎→味覚障害

味覚障害が生じる原因

味覚障害を起こしやすい薬剤として、シスプラチン、ドセタキセル、フルオロウラシルなどが挙げられます。また、不安や悩みなど心理面が影響して、食べ物をおいしく感じられない場合があります。

治療

亜鉛欠乏症に対しては、ポラプレジング(プロマック)の投与が行われます。効果発現までは数週間~数カ月かかる場合があります。また、ココアや牡蠣、チーズなど亜鉛が多く含まれる食品を勧めます。

看護のポイント

食事の工夫

化学療法中に味覚障害が生じることで、味の感じ方が変わったり、治療前と比べて味の好みが変わったりすることがあります。患者さんの好みに合わせて食事内容や提供方法の工夫をします。

小盛にすることで、見た目のプレッシャーを和らげ、「これくらいなら食べられそう」という食事に対する前向きな気持ちを引き出すことにもつながります。また、少量でもカロリーを摂取できる栄養補助食品を取り入れるのもよいでしょう。その際、ゼリータイプや固形タイプなど、患者の摂取しやすいものを選択します。

口腔ケア

食事前にはうがいをし、口腔内をさっぱりさせておくと、食事を口に入れた時の不快感が和らぎます。冷たい水やレモン水などでうがいをすると爽快感が得られやすくなります。うがいをこまめに行うことは口内炎の予防にも有効です。

ほかに、保湿ジェルを使用し、常に口腔内を保湿状態に保つことも有効です。ジェルが継続しにくい場合は、レモン水をスプレーボトルに入れ、こまめに口腔内にスプレーするとよいでしょう。

悪心・嘔吐などの症状により、患者さんのセルフケア意欲が低下している場合もあるため、看護師が意識して口腔内の観察を行い、口腔粘膜炎の出現・悪化を予防することが重要です。

環境を整える

同室者の生活臭など、室内の環境や匂いで嘔気が増強することがあります。その場合、食事摂取時の環境を変えるのも有効です。ディルームや食堂で家族と話しながらの食事により、気持ちが和らぐ場合があります。また、嘔吐した際は、吐物や汚染した寝具、寝衣などは速やかに交換するようにしましょう。

不安の緩和

患者さんがリラックスできるよう、好きな音楽を聴いたり、趣味を継続したり、食事以外のことに集中できる時間を持てるようにします。また、体調に合わせて、散歩など軽く体を動かすことを勧めてみましょう。治療による症状は一時的なものであること、制吐剤を適切に使用しながら症状を緩和していくことを説明し、症状を我慢しないように声掛けをします。

内服管理

催吐性リスクに応じて、複数の制吐薬を併用することが推奨されています。制吐薬はそれぞれ作用時期が異なるため、指示通りに使用することが重要です。今は症状がないからと患者さんの自己判断で内服を中止することのないよう、説明を行います。

急性悪心・嘔吐を予防することは遅発性悪心・嘔吐や予期性悪心・嘔吐を予防するためにも重要です。患者さんには、適宜制吐剤を使用し症状を緩和させることを説明し、副作用だから仕方ないと症状を我慢せず伝えてもらえるようにします。
 
現在では、化学療法の多くが外来で行われています。悪心・嘔吐などの副作用に患者さん自身が対処できるよう、症状把握や対処法について一緒に考えていくことが大切です。また、医師・看護師・薬剤師・栄養士・MSW・心理士・NSTなど他職種と連携し、チームでサポートしていくことも重要です。

引用・参考文献
1)一般社団法人 日本癌治療学会編,制吐薬適正使用ガイドライン,2015年,第2版,金原出版
2)エキスパートナース編,がん看護シリーズ②,事例で理解 痛み以外の症状緩和ケアの秘訣,第1版第1刷,2011,照林社
3)佐々木常雄他編,新 がん化学療法ベスト・プラクティス,2012年,第2版第1刷,照林社
4)荒尾晴恵他編,患者をナビゲートする! スキルアップ がん化学療法看護 事例から学ぶセルフケア支援の実際,2010年,第1版第1刷,日本看護協会出版会
5)浦部晶夫他編,今日の治療薬 解説と便覧 2014,南江堂

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