【連載】急変の判断と対応

腹痛を訴える患者さんへの問診・急変対応

執筆 山下 将志

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター・熱傷センター 集中ケア認定看護師

患者さんが急に腹痛を訴えだしたとき、どう対応すればよいのかを解説します。


【目次】


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急変時の対応


緊急度・重症度の判断をする

1.第一印象とバイタルサインから判断する

 患者さんの様子についての第一印象から、意識状態、顔面蒼白、浅く・速い呼吸、苦悶様表情、丸まった姿勢、発汗などを観察します。

 バイタルサインでは、脈拍数やリズム、冷感、皮膚の湿潤などを、患者さんに触れて五感を用いて観察し、ショック状態の有無を判断します。ショック初期には血圧は維持されていることがあるため、数値に頼らずに第一印象や身体所見からショックの存在を評価することが重要になります。発熱は、腹膜炎や敗血症などを示す重要な指標となるので、必ず測定します。

2.病歴を聴取する(問診)

 バイタルサインが落ち着いていれば、詳細な病歴を聴取します。病歴の聴取は、痛みの特徴(現病歴)、随伴症状、既往や手術歴について聴取します。多岐にわたる腹部疾患の緊急度・重症度を判断するためには、疼痛について系統的に聴取することが重要です。図1に示すように腹痛の部位によって疾患を予測することができます。


図1 腹部9区分と予測されるおもな疾患
腹部の9区分

問診のPOINT

[1]痛みの特徴の把握
❶発生様式
 突然起こったか、徐々に起こったか、痛みのピークが突如として起こったか否かを確かめます。
問診の仕方
●「痛みは急激に始まりましたか?」

❷増悪/緩和因子
 食事の内容や飲酒との関係、体位などによる痛みの変化について聴取します。
問診の仕方
●「どのようなときに痛くなりますか?」

❸性質
 内臓痛と体性痛を鑑別するために聴取します。鋭い痛みがある体性痛は緊急度の高い疾患である可能性があります。
問診の仕方
●「鋭い痛みですか?」

❹部位や放散痛
 発症時には、痛みの発生源となっている臓器の部位を訴えることが多くなります。しかし、時間の経過や痛みが増すと、その刺激が脊髄の同じ分節に入る体壁や皮膚の知覚神経に伝達され、離れた部位に痛みを感じます。疾患によっては特徴的な放散痛を認める場合があります。
問診の仕方
●「どこが痛いですか?」
●「痛みは移動しますか?」
●「ほかに痛みはありますか?」

❺程度
 痛みという訴えは主観的なものですが、どの程度の痛みとして感じているのかは重要です。時間の経過とともにどれくらい変化しているのかを確認します(痛みの評価スケール)。
問診の仕方
●「どれくらい痛いですか?」

❻持続時間・経過
 持続する痛みでは腹膜炎を伴う緊急性の高い場合があります。間欠的な痛みでは急性腸炎や尿管結石などの場合が多く、比較的に緊急性は低いといえます。
問診の仕方
●「ずっと痛いですか?」
●「痛みに波はありますか?」

[2]随伴症状の把握
 腹痛に伴う随伴症状の有無や程度は、病変部位や緊急度・重症度を推測する重要な手がかりとなります。嘔吐や下痢、吐血や下血がある場合は、それらの性状や回数などを確認します(表1)

表1 腹痛に伴う随伴症状
腹痛の随伴症状

[3]既往歴や手術歴
 尿管結石や胆嚢結石、十二指腸潰瘍などは再発することが多く、開腹手術歴は癒着性イレウスや絞扼性イレウスなどの腸閉塞の原因となり得ます。

 NSAIDsやステロイドの内服は消化性潰瘍を、抗生物質の内服後の腹痛や下痢は偽膜性腸炎を疑います。女性であれば月経周期や妊娠の可能性についても確認します。

[見抜きたい症状]
■腹膜刺激症状
 腹膜炎が生じると腹膜刺激症状を認めます。腹膜炎は、胃や腸などの消化管の穿孔により、無菌的な腹腔内に内容物や消化管液が漏れ出し、物質刺激や細菌感染によって生じた炎症です。重症感染症による敗血症性ショックを起こすため、緊急手術の適応となります。

 腹膜刺激症状の特徴的な所見として、筋性防御(ディファンス)と反跳痛(ブルンベルグ徴候)があります。筋性防御の場合は、腹部を手で圧迫したときに腹壁が反射的に緊張して硬くなります。反跳痛は、腹部をゆっくり圧迫して素早く離したときに、痛みが増強します。

腸閉塞(イレウス)
 腸閉塞は、さまざまな原因により小腸や大腸の通過障害が起こることで生じます。腸の通過障害が起こると、閉塞部位より上部の腸管は拡張し、腸液やガスが貯留します。

 これにより腹痛、腹部膨満、嘔吐、腸蠕動音の異常を認めます。腸蠕動音は、麻痺性イレウスでは弱くなったり消失したりしますが、腸管の狭窄や閉塞では内容物を先に押し進めようとして亢進します。高度な閉塞の場合は、金属音として聴取されます。

 腸閉塞が進行すると、腸管壁の血行障害が生じて腸管は浮腫を呈し、腸液やガスの吸収障害が起こります。これにより、腸内細菌が繁殖して毒素が産出され、これらが血中に移行すると敗血症を起こします。腸閉塞がある場合は、絶食による腸管安静、輸液、胃管またはイレウス管による減圧、緊急手術などが必要となります。

どう対応する?

 緊急度・重症度が高いと判断したらすぐに医師へ報告し、血液検査や画像検査、緊急処置や緊急手術の準備を行います。その上で、次の対応を行います。

1 呼吸と循環の管理を行う

 患者さんがショック状態であると判断したら、すぐに応援を呼び、救急カートを準備します。酸素を投与し、末梢静脈路を確保して大量輸液を行います。

 出血や脱水がある場合は、患者さんの下肢を挙上する体位をとります。嘔吐や吐血がある場合は、気道閉塞を起こす可能性があるため、顔を横に向けたり、側臥位をとります。吸引器を準備して口腔内容物を吸引します。

2 体位を工夫する

 枕やクッションを用いて、下肢を屈曲して腹壁の緊張を緩和したり、側臥位にするなど、患者さんが最も楽な体位をとれるよう援助します。

3 鎮痛薬を使用する

 鎮痛薬については、原因検索を進めながら、医師の指示の下に用います。鎮痛薬によって痛みが軽減されることが、かえって状態悪化の早期発見を遅らせる場合もあるため、痛みが一時的に軽減された後も観察を続けることが重要です。

4 精神的サポートを行う

 痛みが続くと患者さんや家族は不安になります。不安は苦痛を増悪させる因子となります。そのため、患者さんのそばに寄り添い、声をかけながら腹部や背部のタッチングを行うことで不安が軽減することもあります。また、口渇や嘔吐による不快感などは、含嗽などにより軽減します。

 温罨法は腹部膨満や苦痛の緩和に用いられますが、炎症を伴う腹痛の場合は、温めることで悪化する危険もあるため注意が必要です。

(ナース専科2015年1月号より転載)

引用・参考文献

❶大勝勝明:イレウス、「ICUディジーズ-クリティカルケアにおける看護実践 第1版」、道又元裕 編、学研メディカル秀潤社、2013、 p182-189.
❷本藤憲一:この患者はこう見る!症候・病態別フィジカルアセスメントの方法 腹痛、エマージェンシー・ケア2011年夏季増刊(通巻305号)、2011、p156-168.
❸門馬治:急変に陥る状態か否かを素早く判断! 腹痛、救急看護&トリアージ、1(2) 日総研、2011、p43-44.
❹菅原美樹:これだけは!知っておきたい病態別アセスメント 腹痛・腹部違和感、エマージェンシー・ケア27(5)、2014、p49-53.
❺野村章洋ほか:腹痛の患者さんの診察 何に注目して鑑別する?、「内科レジデントの鉄則 第2版」、聖路加国際病院内科チーフレジデント 編、医学書院、2013、p58-66.
❻加藤博之:痙攣、「救急診療指針 第4版」、日本救急医学会専門医認定委員会 編、へるす出版、2013、p641-642.
❼横内光子ほか:クリティカルな状態の患者の消化機能と看護 消化器・吸収機能の維持・回復への援助、「クリティカルケア看護Ⅱ-アセスメントと看護ケア- 第1版」、池松祐子 編著、メヂカルフレンド社、2011、p263-268.
❽櫻本秀明:早期リハビリテーションと疼痛管理、重症集中ケア11(6)、日総研、2013、p27.

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