【呼吸状態の評価】緊急入院してきた痰の多い患者さん

執筆 伊藤幾代

国立病院機構 西埼玉中央病院 慢性呼吸器疾患看護認定看護師

▼酸素療法についてまとめて読むならコチラ
酸素療法とは?種類・目的・適応・看護


呼吸状態の評価の仕方は、患者さんの症状や疾患などにより、みるべきポイントやケアの仕方も異なります。呼吸状態を評価する際は、基本となるフィジカルアセスメント、バイタルサイン、検査データを確認するだけではなく、得られた情報を組み合わせて評価し、呼吸状態にあったケアを提供することが大切です。
今回はケースをもとに呼吸状態の評価について解説していきます。


【事例】緊急入院してきた痰の多い患者さん
誤嚥性肺炎と診断され入院となった75歳の男性患者さん。ADLは見守りで室内歩行でき、トイレも自立しています。呼吸器疾患の既往はなく、抗凝固薬の内服をしており、自宅ではおかゆと軟らかいものを食べていました。
日勤看護師から夜勤看護師へは「1時間前にグループホームから緊急入院してきた75歳の患者を送ります。現在は酸素5L/分をマスクで投与。とにかく痰が多くてティッシュの箱が手放せない状態です」と申し送りがありました。患者さんは病棟に着いたばかりで落ち着かない様子。低酸素に陥る危険性と転倒などの身体的な危険性を合わせた評価が必要な状態です。


情報を収集する

酸素化や換気機能とともに嚥下状態もみる

 肺炎とは、肺実質の急性の炎症です。急激に呼吸状態が悪化することもあるため、呼吸状態を的確に評価し、酸素化は良好か、換気不全を起こしている徴候はないかを観察する必要があります。また患者背景から呼吸状態に影響を及ぼす因子は何かをアセスメントすることが重要になります。

 誤嚥性肺炎とは、口腔内常在菌が肺に流れ込んで生じる肺炎のことで、高齢者が肺炎で入院する症例の多くは誤嚥性肺炎です。原因の多くは、睡眠中など本人が気づかないうちに主に少量の唾液を気道に吸引する「不顕性誤嚥」です。明らかに誤嚥したところを目撃されていない場合でも、この不顕性の誤嚥が起きていることがほとんどです。ですからこの患者さんの場合にも、誤嚥性肺炎を疑い、呼吸状態のほかに嚥下、口腔の状態も確認しておく必要があります。

バイタルサイン

 発熱、呼吸数増加、脈拍数増加がないかを観察します。発熱や頻呼吸・頻脈によりエネルギー消費量が増え、酸素需要が高まることが予想されます。安静時だけでなく、活動や体位による呼吸数・脈拍数・SpO2の変化はどうかをしっかり観察しましょう。

視診

 口唇や爪床にチアノーゼがみられないかを観察し低酸素血症の徴候の有無を確認します。ただし、貧血がある場合はチアノーゼが出現しにくいことを念頭に置いて観察しましょう。また、頻呼吸や呼吸補助筋使用の有無を観察し、努力性呼吸が出現していないかを確認します。

聴診

 異常な呼吸音がないかを確認します。肺炎では、低調性連続性副雑音(rhonchi)や粗い断続性副雑音(coarse crackle)といった分泌物の貯留を示す副雑音が聴取されることがあります。また、分泌物で肺実質が潰れて含気がない場合に、肺胞呼吸音を聴取すべき部分で気管支呼吸音が聴こえることがあります(肺胞呼吸音の気管支呼吸音化)。さらに、喀痰などで気管が閉塞し無気肺を起こすと、その部分の呼吸音は減弱・消失します。これらはいずれも呼吸音の異常所見です。

触診

 触診を行い、胸郭の可動性を観察します。病変があると胸郭の動きが小さくなったり左右非対称になったりします。中枢部の気管支に喀痰の貯留がある場合、ガラガラとした振動(ラトリング)を触知できます。

動脈血ガス分析

 PaO2の低下とそれによる頻呼吸のためにPaCO2低下がみられます。重症化するとPaCO2が上昇しⅡ型呼吸不全を呈してきます。

胸部X線・胸部C T 検査

 病変部に浸潤影や無気肺をみとめた場合は、換気-血流比不均等を起こしていることが予想できます。換気̶血流比不均等とは、肺胞の一部が十分に換気されない状態となっていることで、結果としてPaO2が低下します。このような状態になっている浸潤影や無気肺の部分の換気を改善させるために、体位ドレナージを計画的に行うとよいでしょう。

血液検査

 誤嚥性肺炎であるため、白血球数の増加とCRP上昇といった炎症反応がみられます。脱水がある場合は、血液濃縮を示すHtやTP、BUNの上昇をみとめることがあります。

喀痰検査

 起炎菌により黄色・緑色・鉄さび色の喀痰がみられます。誤嚥性肺炎の場合は口腔内の細菌が原因となるため、喀痰での検査では菌の同定が困難になります。

嚥下状態

 高齢者では約70%の人に睡眠中の不顕性誤嚥がみられます1)。また、既往歴に脳血管性障害やパーキンソン病、認知症がある場合も誤嚥を起こしやすい状態です。そこで、申し送りになくても入院前から嚥下障害を疑わせる臨床症状(表1-1)がなかったかを本人あるいは家族から聴取します。また、現在の嚥下機能を評価する場合は「反復唾液嚥下テスト」や「改訂水飲みテスト」(表1-2)などの嚥下評価ツールを使うとよいでしょう。

嚥下障害を疑わせる臨床症状の表

嚥下評価ツール

口腔内の状態

 口腔内環境の悪化は、誤嚥性肺炎の発症のリスクを高めるため、食物残渣の有無、舌苔、口腔内汚染・乾燥の有無、残歯のう蝕や歯肉の腫脹・出血の有無など、口腔内の環境を観察します。

不穏やせん妄、意識レベル

 環境の変化は不穏やせん妄の原因になりますが、低酸素によっても不穏が起きる可能性があります。したがって、不穏状態がみられた場合は、SpO2・呼吸数・脈拍数・意識レベルも合わせて観察し、低酸素状態に陥っていないかアセスメントすることも大切です。低酸素による意識障害は、転倒・転落といった身体外傷を招く一因にもなりかねません。

 抗凝固薬を内服中であるこの患者さんの場合、転倒などによって出血や血腫を生じやすい状態であり、いっそう注意する必要があります。

呼吸状態を評価する

酸素化が保たれているのかをアセスメントする

 呼吸器疾患の既往がないことから、この患者さんはⅠ型呼吸不全すなわち低酸素性呼吸不全の可能性が高いと考えられます。つまり、換気は保たれていますが、肺自体の障害から酸素の取り込みがうまくいかず、著明な低酸素血症が起こっています。現在患者さんは酸素5L/分のマスク投与により、吸入酸素濃度を高くすることで血中酸素濃度の上昇を図っている状態です。したがって、まず酸素化が改善しかつ保たれているかを評価するとともに、酸素化を阻害する因子はないか、換気不全のサインはないかをアセスメントしていきます。

酸素化は改善し保たれているか

 SpO2と合わせ、自覚症状、呼吸音・呼吸回数・リズム・パターン、意識レベル、チアノーゼなどを観察し、酸素化が保たれているかを評価します。特に呼吸回数が25回/分以上の頻呼吸は、酸素療法中であっても呼吸不全が悪化するおそれがあるため注意が必要です。また、SpO2は体位や労作に影響することもあるので、安静時とトイレ歩行などの労作時それぞれで評価します。動脈血ガスデータでPaO2 60Torr以下になると低酸素血症を生じ、修正MRC息切れスケールにあるような臨床症状がみられます。

酸素化を阻害する因子はなにか

 この患者さんは現在急性期で炎症が強く、喀痰量が多い状態です。気道内の喀痰貯留によりガス交換が効率的に行われず酸素化が進まないことが予想できます。胸部X線であらかじめ病変部の見当をつけておくと、フィジカルアセスメント実施時に喀痰貯留部位を同定しやすく効率的です。

 また、高齢者は入院環境に適応するまで時間がかかる場合があります。実際にこの患者さんは入院後に落ち着きがなく、治療や安静などへの理解が十分に得られず、過度な労作によって酸素消費量が増え、低酸素に陥る危険性がありました。労作時のSpO2の変化だけでなく、不穏徴候をキャッチするために表情や言動も注意して観察しておくようにしましょう。

 嚥下障害がある場合、口腔内の分泌物や口腔や咽頭の細菌などが無症状に気道へ入ることを繰り返す再誤嚥を起こすことで、肺炎が悪化する可能性もあります。表1-1のような嚥下障害を疑わせる臨床症状のほかに、食事を嚥下したあとのSpO2が低下していないかを合わせてみていくことが大切です。

 検査データや皮膚の状態などから脱水の所見がある場合は、口腔内の乾燥が進み、唾液による自浄作用が低下することも肺炎の悪化原因となります。

換気不全のサインはないか

 急に意識レベルが低下した場合は換気不全を疑い、呼吸数の低下や動脈血ガスデータのPaO2から判断します。

呼吸状態に合ったケアをする

酸素化が保たれるように支援する

 痰が除去しきれないと酸素化を阻害したり換気不全を起こしたりするため、排痰を促すケアを実施します。また、この患者さんは誤嚥性肺炎であるため、さらなる誤嚥を予防するケアも重要となります。

排痰困難時のケア

 自力では痰が除去しきれず痰の貯留がある場合は、積極的に排痰への援助を行います。

 乾燥した口腔内や咽頭を湿潤させると、排痰が行いやすくなるため、しっかりと水分を補給してもらいます。座位またはファウラー位をとることで横隔膜の運動がしやすくなり、換気量が増大します。また、起き上がることや歩行することで換気量が増え、自然に咳嗽が誘発されて痰の喀出が促進されるため、早期離床を促します。さらに、去痰薬・気管支拡張薬の吸入やネブライザーを使用し、気管を広げながら気道を加湿し排痰を促します。

 呼気を勢いよく数回に分けて吐くことで、軌道内の気流が増加し痰の移動を促すことができます(ハフィング)。患者さんにこのような呼吸法を伝えておくとよいでしょう。

 また、体位ドレナージやスクイージングといった呼吸理学療法を行ってもよいでしょう。体位ドレナージは、痰が貯留した肺の区域を高くした体位をとることで、重力により痰の移動を促します。スクイージングは、排痰体位をとり、気道分泌物の貯留する胸郭を呼気時に圧迫し吸気時には解除することを繰り返し、排痰の援助をします。

 侵襲性の低い排痰方法を用いても排痰ができず、表1-3のような状態にあり、かつ吸引できる範囲内(図1-1)に痰が貯留していると評価された場合には、吸引が適応となります。

吸引の適応となる状態、説明表

吸引できる範囲にある痰の貯留部位説明図

誤嚥を予防するケア

 誤嚥性肺炎を発症している患者さんは、肺炎治療中も誤嚥を繰り返している可能性が高く、反復する誤嚥によって状態が悪化することも考えられます。できるだけ誤嚥を起こさないように援助することも必要です。

 まずは、患者さんの嚥下状態に合った食事の形態や内容を考慮します。水分でむせがあればとろみ剤などでとろみをつけます。誤嚥しにくい形態とはゼリーのような「軟らかく」「まとまりやすく」「べたつかず」「均質なもの」です。また、食事の前に嚥下体操を行うと、嚥下に必要な筋肉や舌の動きがよくなり、誤嚥予防に効果的です※。

 食事をする際の姿勢についても気をつけましょう。可能なら車いすや椅子に座位をとり、足を床につけて膝が90度になる安定した体位をとります(図1-2)。ベッド上の場合は頸部が伸展しないように、頭に枕やタオルを入れ頸部がやや前傾になる姿勢をとります。

誤嚥を予防する食事の体位、説明図

 口腔内細菌叢が誤嚥性肺炎の起炎菌となるため、口腔内を観察し、乾燥や汚染の状態を評価し口腔ケアを行います。口腔内を清潔に保ち保湿を心がけましょう。絶食の場合は唾液の分泌が減少して口腔内の乾燥が進むことで口腔内細菌が増加するため、よりケアが必要になります。

 誤嚥性肺炎の治療方針に関しては日本呼吸器学会の「医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン」を参考にしてください。

こんなときは医師に報告する

 肺炎はさまざまな合併症を引き起こします。特に気をつけたい合併症は、菌血症、敗血症、ALI(急性肺損傷:acute lung injury)/ ARDS(急性呼吸促迫症候群:acute respiratory distress syndrome)、胸膜炎です。いずれも急激に発症・増悪する病態であるため、徴候を見逃さず早期発見することがとても大切です。

 安静時の呼吸困難、断続性副雑音、意識レベルの低下、血圧の急激な低下やチアノーゼなどのショックを示す徴候がみられたときは、直ちに医師に報告をしましょう。

※嚥下体操の詳しい内容は、ウェブサイト『はじめよう!やってみよう!口腔ケア』でも確認できます。

痰の多い患者さんのケアのまとめ

酸素化の改善に努める

 今回のケースのように、過剰な気道分泌物がある場合、容易に気道分泌物貯留を生じ、排痰が困難になったり、自力で排痰する際も多大な労力を費やしたりすることが起こります。その結果、治療開始後も酸素化が改善しないことも起こりえます。

排痰と酸素化の援助

 効果的かつ効率的に排痰を促し酸素化が進むような援助が必要になります。痰の貯留部位はどこか触診や聴診によって確認すること、排痰手技を実施後は再び触診や聴診でケアの効果を確認することが大切です。痰は気道だけでなく口腔内に貯留するため、口腔内を観察し適切な口腔ケアを行うことも必要です。

 自力による排痰を行うためには、一定の咳嗽力が必要です。しかし、高齢で誤嚥を起こしている患者さんの場合、咳嗽力が低下していることが予想されます。十分な喀出が行えないばかりか、労作による疲労に伴い酸素消費量が増加することもあります。有効な咳嗽ができているかを観察し、できていない場合は咳嗽介助などの手技を取り入れて酸素消費を抑え、効率的に排痰できるように援助します。


引用・参考文献
1)佐々木英忠,ほか. 口腔・咽頭の機能低下と誤嚥性肺炎. 厚生省厚生科学研究費補助金 長寿科学総合研究 平成6年報告書; 4:140-6.
●森山美智子 編:エビデンスに基づく呼吸器看護ケア関連図,中央法規,2012.
●日本呼吸器学会,編:医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン,日本呼吸器学会,2012.(2016年6月24日閲覧)
http://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/fi les/photos/1050.pdf
●日本呼吸器学会市中肺炎診療ガイドライン作成委員会,編:日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人市中肺
炎診療ガイドライン.日本呼吸器学会,2010.
●高橋 仁美:フィジカルアセスメント徹底ガイド 呼吸,中山書店,2011.
●瀧 健治:呼吸管理に活かす呼吸生理改訂版,羊土社,2012.
●日本呼吸療法医学会、気管吸引ガイドライン改訂ワーキンググループ,編:気管吸引ガイドライン2013(成人で人工気道を有する患者のための).人工呼吸 2013;30:75-91.(2016年6月24日閲覧)
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/ES/CPGs2013_EndotrachealSuction.pdf



(ナース専科2016年8月号より転載)


もっといろいろな事例も読みたい人はこちら

書籍購入サイトURL

ページトップへ